愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第48話『お早く!』

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 右手首から血が吹き出す。ブレイダを掴まねばまずいとは理解しつつも、リュールは後ろに跳んだ。

『リュール様! お早く!』

 焦るブレイダの声が頭に響くが、その選択は正しかった。先程まで首のあった位置に、女の持つ短剣が振り抜かれていた。

「おいおいぃ、リュールちゃん、さっきの威勢はどうしたのかなぁ! おい、抜け」
「はい」

 黄色い瞳をした女はジルの傍らに立ち、ブレイダの柄に手をかける。肩あたりまで伸びた癖のある髪は、ジルが持つ短剣の刃と同じ色をしていた。
 その従順さと、リュールに向けられた殺意はには心当たりがある。つまり、奴は二本持っていた。

『ちょ、触らないで!』

 剣のままのブレイダは抵抗できずに、ジルの腕から引き抜かれた。

「よし、よくやった」
「はい」

 褒め言葉に、一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべるが、警戒は怠っていない。怒気を孕んだ視線をリュールに向け続けている。

『手を、離せ!』
「いかがしますか?」

 おそらく聞こえているであろうブレイダの叫びを無視し、女はジルに指示を仰ぐ。掠れた、低い声だった。

「うーん、どうしてやろうかねぇ。それ、しっかり持ってろよ。名を呼ばれたら面倒だ」
「はい」

 立ち上がったジルは、いつもの口調に戻っている。左腕の傷は、塞がりつつあった。
 リュールは痛みで意識が遠のいてしまいそうだった。なんとか左手で右腕を押さえ流血を減らす。ブレイダの名を呼ぶのは、まだ早い。

「ルヴィエにさぁ、殺すなって言われてるんだよぉ。でもさぁ、勢い余って殺しちゃったってことにしようかなぁ、ってな」
「そうかい。怒られたら困るもんな。ルヴィエに助けられたジルさんだからな」
「この野郎……」

 ジルはリュールに向け歩きながら、黒紫の短剣を逆手に握り直した。まだ握力は戻っていないようだ。
 ここは賭けだった。奴が怒りを抑え慎重であるなら負け、我を忘れてくれるのなら勝ちだ。

「そういえばさ、あんた、いつの間にルヴィエの使いっ走りになったんだ? あの頃は逆だったよな」
「あぁ?」
「そして今は女に頼らないと、リュールちゃんひとり相手にできないわけだ」
「くそ……」

 ジルの顔が憤怒に歪む。必要以上にプライドが高い割に、強いものには逆らえない。だから、弱いものを蔑み攻撃する。リュールはジルのこういうところが嫌いだった。

 リュールの読みでは、黒紫髪の女よりもブレイダの方が強い。蹴りの威力や短剣を振る速度も、不意を突かれなければそれほどでもない。いつかの野盗を殺した愛剣の方が上だ。
 ただし、それは一対一での話だ。ジルとその手に持つ短剣と合わせて三対一ならば、ブレイダに勝ち目は薄い。
 だから、あと一歩、ジルをリュールに近づけなければならない。

「やれるもんならやってみろよ。今度は左手も斬り落としてやるよ。素手だけどな」

 込み上げる震えと、吹き出す脂汗に気付かれないよう、リュールは不敵に笑ってみせた。

「クソが!」

 ジルが地面を蹴った。身体能力は常人を超えているが、ルヴィエほどではない。ブレイダを持っていないリュールでも充分に目で追えた。
 リュールも前に出た。下から短剣を振り上げようとする腕を、右脇に挟んで止める。右の手首が千切れかかるが、強引に無視をした。

「ブレイダ!」
「はいっ!」

 リュールは愛剣の名を叫ぶ。
 銀髪の少女は、横の女の顎に向け、掌底を叩き込んだ。
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