愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
47 / 86
第3章 開戦

第45話「剣でも学習するんですよ」

しおりを挟む
 宛てがわれた天幕の中、あまり眠れなかったリュールは、ひとつの選択をしようとしていた。ただし、決断や決心というほど強い意志はない。
 だから、少々卑怯な方法で自分を動かそうと考えた。対外的には情けない話だが、自分達の間柄ならば許されるだろう。

「なぁ、いいか?」
「はい! おはようございます!」

 寝転んだまま、隣の愛剣に声をかける。ブレイダは勢いよく上半身を起こし、リュールに微笑みかけた。
 相変わらず寝付きも寝起きも素早い。まだ日は昇り始めていないような時間でも、まったく動じていなかった。

「聞いてほしいことがある」
「なんなりと!」

 元気に返事をしつつ、赤い髪紐で銀髪を括る。ブレイダの目覚めの儀式のようなものだ。

「俺は、戦場以外で人が死ぬのを、あまり良いとは思わないみたいだ」
「はい」
「だから、魔獣を狩ってきた」
「はい」
「これからも、そうしたいと思う」
「わかりました!」

 ブレイダが大きく頷いた。頭の動きに合わせて、馬の尾のように括られた髪が揺れる。

「ん? では、あの人とは」
「できれば戦いたくない。でも、戦わないといけないかもしれない」
「わかりました! ならば、殺さずに止めましょう! ついでに魔獣のことなど、いろいろ聞き出しましょう!」

 その発言に、リュールは目を丸くした。まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったのだ。
 結果として求めていた答えは、まさしくそれだった。しかし、リュールが想定していた経緯とは大きく異なっていた。

「殺すって言うと思った」
「ふふふ、剣でも学習するんですよ」
「そうか」
「少しはリュール様のお考えに近付けたでしょうか」
「ああ、拍子抜けだけどな」
「それは、ひどいです」

 殺すと言うブレイダを諌める形で、止めるという結論にしようと考えていた。そんな浅い目論見を見透かしたように、ブレイダはリュールの欲しい回答を出してくれた。
 剣に甘える自分と、主人を察する剣。互いの変化にリュールは思わず吹き出してしまった。

「リュール様がこんなにも笑うの、初めてです」
「そうか?」
「そうですよ」

 ひとしきり笑ったリュールは、再びブレイダに向き直る。

「しかし、ジルはともかくルヴィエには対抗できる気がしない」
「大丈夫ですよ! リュール様と私なら」
「なんだそれ」

 ブレイダの根拠のない自信は、リュールにも伝播していた。今の自分達ならなんとかできると思えてしまう。

「じゃあ、マリムにもそう伝えよう。いくら騎士団長でも文句は言わせない」
「わかりました。それと、あの、ひとつお願いが」
「なんだ?」

 ブレイダはこれまでの笑顔を消し、真剣な面持ちを見せた。

「リュール様が止めようとしても駄目だった時は、どうかご自身の命を優先としてください」

 リュールはブレイダの言わんとしていることが理解できた。止められなかったら容赦するな、ということだ。
 愛剣は主人の躊躇いさえも斬り裂くらしい。ここはリュールが折れるしかないと思えた。

「ああ、わかったよ」
「はいっ!」

 返事と共にリュールは立ち上がった。まずはマリムに報告と宣言だ。騎士団の協力なしには、リュールの目的は達成できそうにない。
 あっちは魔獣を駆除する。こっちは元仲間を止める。利害の一致とはこういうことだ。

「あっ……」
「どうした? 行くぞ」

 天幕から出たところで、ブレイダは動きを止めていた。目を閉じ、町の方を指さす。

「おい、もしかして」
「はい、来ました。向こうから」
「どっちだ?」
「たぶん、細長い方です」
「そうか」

 こちらが奴らの場所を把握できるなら、その逆があっても不思議ではない。思っていたより早いものの、こうなることは想定の範囲内でもある。
 正直なところ、リュールは少し安堵していた。奴ならば遠慮することはない。叩き潰して知っている情報を吐かせてしまおう。

「ブレイダ、走るぞ」
『はい!』

 リュールは愛剣を手に駆け出した。これまでより身体が軽くなっているような気がしていた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...