愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第45話「剣でも学習するんですよ」

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 宛てがわれた天幕の中、あまり眠れなかったリュールは、ひとつの選択をしようとしていた。ただし、決断や決心というほど強い意志はない。
 だから、少々卑怯な方法で自分を動かそうと考えた。対外的には情けない話だが、自分達の間柄ならば許されるだろう。

「なぁ、いいか?」
「はい! おはようございます!」

 寝転んだまま、隣の愛剣に声をかける。ブレイダは勢いよく上半身を起こし、リュールに微笑みかけた。
 相変わらず寝付きも寝起きも素早い。まだ日は昇り始めていないような時間でも、まったく動じていなかった。

「聞いてほしいことがある」
「なんなりと!」

 元気に返事をしつつ、赤い髪紐で銀髪を括る。ブレイダの目覚めの儀式のようなものだ。

「俺は、戦場以外で人が死ぬのを、あまり良いとは思わないみたいだ」
「はい」
「だから、魔獣を狩ってきた」
「はい」
「これからも、そうしたいと思う」
「わかりました!」

 ブレイダが大きく頷いた。頭の動きに合わせて、馬の尾のように括られた髪が揺れる。

「ん? では、あの人とは」
「できれば戦いたくない。でも、戦わないといけないかもしれない」
「わかりました! ならば、殺さずに止めましょう! ついでに魔獣のことなど、いろいろ聞き出しましょう!」

 その発言に、リュールは目を丸くした。まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったのだ。
 結果として求めていた答えは、まさしくそれだった。しかし、リュールが想定していた経緯とは大きく異なっていた。

「殺すって言うと思った」
「ふふふ、剣でも学習するんですよ」
「そうか」
「少しはリュール様のお考えに近付けたでしょうか」
「ああ、拍子抜けだけどな」
「それは、ひどいです」

 殺すと言うブレイダを諌める形で、止めるという結論にしようと考えていた。そんな浅い目論見を見透かしたように、ブレイダはリュールの欲しい回答を出してくれた。
 剣に甘える自分と、主人を察する剣。互いの変化にリュールは思わず吹き出してしまった。

「リュール様がこんなにも笑うの、初めてです」
「そうか?」
「そうですよ」

 ひとしきり笑ったリュールは、再びブレイダに向き直る。

「しかし、ジルはともかくルヴィエには対抗できる気がしない」
「大丈夫ですよ! リュール様と私なら」
「なんだそれ」

 ブレイダの根拠のない自信は、リュールにも伝播していた。今の自分達ならなんとかできると思えてしまう。

「じゃあ、マリムにもそう伝えよう。いくら騎士団長でも文句は言わせない」
「わかりました。それと、あの、ひとつお願いが」
「なんだ?」

 ブレイダはこれまでの笑顔を消し、真剣な面持ちを見せた。

「リュール様が止めようとしても駄目だった時は、どうかご自身の命を優先としてください」

 リュールはブレイダの言わんとしていることが理解できた。止められなかったら容赦するな、ということだ。
 愛剣は主人の躊躇いさえも斬り裂くらしい。ここはリュールが折れるしかないと思えた。

「ああ、わかったよ」
「はいっ!」

 返事と共にリュールは立ち上がった。まずはマリムに報告と宣言だ。騎士団の協力なしには、リュールの目的は達成できそうにない。
 あっちは魔獣を駆除する。こっちは元仲間を止める。利害の一致とはこういうことだ。

「あっ……」
「どうした? 行くぞ」

 天幕から出たところで、ブレイダは動きを止めていた。目を閉じ、町の方を指さす。

「おい、もしかして」
「はい、来ました。向こうから」
「どっちだ?」
「たぶん、細長い方です」
「そうか」

 こちらが奴らの場所を把握できるなら、その逆があっても不思議ではない。思っていたより早いものの、こうなることは想定の範囲内でもある。
 正直なところ、リュールは少し安堵していた。奴ならば遠慮することはない。叩き潰して知っている情報を吐かせてしまおう。

「ブレイダ、走るぞ」
『はい!』

 リュールは愛剣を手に駆け出した。これまでより身体が軽くなっているような気がしていた。
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