愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第44話「私も寂しがりでして……」

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 天幕の敷き布に座り、リュールは皮鎧の留め具を外す。使い慣れていたものだが、もう原型をとどめていない。

「で、どういうことだ?」

 狭い天幕だが、とりあえずは落ち着けることができた。多少リラックスしながら、リュールはブレイダの言葉を促した。

「ちゃんと説明できないかもしれませんが」
「いいよ、話してくれ。曖昧でも構わない」
「はい。ありがとうございます」

 ブレイダがこんなにも不安そうな言い回しをするのは、初めてのことだった。
 彼女の本質は道具だ。道具は確実な機能を発揮しなければ価値がない。不確実なことを発するのは気が引けることなのだろうと、リュールはその態度から感じ取っていた。

「あの二人が持つ剣は、それぞれ意思があるように感じました」
「ああ、刃を受けた時に、俺にも声が聞こえた」

 ジルの短剣は、低い女の声。ルヴィエの大剣は、ブレイダによく似た声だった。
 それも、耳から聞こえるものではなかった。剣の姿をしているブレイダが発するのと同じように、リュールの頭に直接響いてきた。

「リュール様は声だけだったのですね」
「お前は違ったのか?」
「はい。声だけでなく、感情のようなものを感じました。不確かで申し訳ありませんが、そうとしか表現できず」
「感情か……詳しく聞けるか?」
「はい……それはもちろん」

 依然として不安そうなブレイダを、再度促す。不確かな情報を話させるのは負担になるとは理解しつつも、ここは聞いておきたかった。

「すまんな、報告しようとしてくれて、ありがとう」
「あっ……」

 明らかに無理をしているブレイダを見て、リュールは思わずその頭を撫でてしまった。戦いの時以外で、自ら彼女に触れたのは初めてだった。
 透き通るような銀髪は、さらさらと柔らかい感触だった。

「は、ひゃい! 頑張ります!」

 今のリュールには、暗い天幕の中でもブレイダの赤面がよく見えた。

 気を取り直したブレイダは、黒紫の剣について言葉を選び慎重に語り始めた。リュールは根気よくそれに付き合う。

「あれはたぶん、憎しみとか恨みとか、そういうものでした。少なくとも、私はあまり持っていない感情です。あ、リュール様に失礼な人には腹が立ちますが、それとは違う感じでした」
「何に対する恨みなんだろうな」
「それも伝わってきました。人間に、です」
「人間か……」

 リュールはルヴィエの言葉を思い出していた。彼は人間と戦うと言った。ブレイダが黒紫の剣から感じたものと同種のものとも考えられる。

「ここからは、私の予想なのですが」
「ああ、言ってくれ。間違ってても構わない」
「ありがとうございます。私の感覚では、剣の感情は、その持ち主に近いのではないかと思うのです」
「持ち主に?」
「はい」

 その予想が当たっていたとしたら、ルヴィエ達の言動には大きく合点がいく。恨んでいるからこそ、魔獣を操り人を殺す。その方法は不明だが、人を殺すことが目的であることは理解できる。ただし、納得や共感などは到底できるものではない。
 リュールには、ブレイダのその発想はどこか飛躍しすぎているようにも感じられた。

「なぜそう思った?」
「えーと、うーん」
「いいよ、言ってくれ」
「はい……」

 再び歯切れが悪くなる。言い淀んでいるというよりは、恥ずかしいといった様子だ。

「私も、リュール様の気持ちが、少し、わかりまして」
「俺の?」
「大変言いづらいのですが……」
「言ってくれ」
「はい……戦いに慣れてしまったこととか、独りでいることとか、その他色々が重なって、総じて寂しいと。敵対する者を殺すのに躊躇いはなくても、人そのものは嫌いではないとも」
「そうか……」
「なので、私も寂しがりでして……」
「あぁ……」

 リュールはブレイダが言いづらい理由がようやくわかった。深く納得できる内容ではあったものの、非常に照れくさい。
 だからこそ、次の言葉がどうしても見つからなかった。

「えっと、話を戻します……」
「そうしてくれ」

 ブレイダの気遣いがありがたい。彼女なりの照れ隠しなのかもしれない。

「たぶん、あの人達は何かの理由で人を恨んでいます。それが、持っている剣にも伝わっているんだと思います」
「ああ」
「そして、今もその感情が伝わってきています。なので、だいたいの方向がわかります。恨み方がなんとなく違うので、区別もつきます」
「そうか……こちらから向かうこともできるな」

 ブレイダの言葉は、ルヴィエ達に対する切り札になり得る情報だった。しかし、リュールは彼らとどう対峙すべきか、未だ決めきれていなかった。

「人は嫌いではなくて、寂しがりか……」
「へ?」
「いや、なんでもない。そろそろ寝る」
「はいっ! おやすみなさい」

 天幕の中で寝転びつつ、リュールはブレイダの言葉を何度か思い返していた。
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