上 下
45 / 86
第3章 開戦

第43話「先程言いかけたことなのですが」

しおりを挟む
 騎士団の野営地は町の外、切り株があった場所とは反対側に設置されていた。その中心にある比較的大きな天幕が、仮設指揮所になっていた。

 リュールはマリムに事の顛末を伝えていた。大きな混乱を招く必要があるため、人払いを依頼してある。天幕の中には、リュールとブレイダ、そしてマリムの三人だけだ。

「わかったよ。君は君で大変だったとね」
「ああ、あんたからの仕事は失敗だ。報酬を差っ引いてくれてもいい」
「いや、貴重な情報だよ。感謝したい」

 魔獣を操る者に襲われ、勧誘されたこと。彼らの持つ黒紫の剣は、恐らく人になること。そのうち一人は、リュールよりも遥かに強かったこと。そして、人間と戦うという彼らの目的も。
 ただし、その者達が元仲間であることだけは伏せたままだ。自分が疑われるのを避けたかったというわけではない。ルヴィエに対する気持ちが整理しきれなかっただけだ。

「それが真実なら、事態はより深刻になるね」
「魔獣はただの動物じゃないってことだ」

 魔獣が動物としての本能でなく、人の意思により行動しているとしたら、あの奇妙な行動にも合点がいく。奴らが人を殺すための道具として使っていたということだ。

「リュール」
「ああ」
「君が誘いに乗らなくて、心から嬉しく思うよ。戦うことになったら、私も無傷ではいられないだろうからね」
「勝つつもりかよ」
「もちろん」

 マリムはいつしかリュールを呼び捨てていた。彼の気安い性質もあるが、リュールはそれを信頼の証と受け取っていた。
 リュールはリュールで、初めて会った時ほどマリムを嫌いではない。その気持ちを察してか、ブレイダが態度に関して口を挟むこともなくなった。ただし、不満は表情で丸わかりだ。

「この件は口外無用に頼むよ。私の判断に任せてもらいたい」
「ああ、いいぜ」
「これまで後手にしか回れなかったが、敵がわかれば先手を取れるかもしれない」
「そうだな」

 彼は明確に敵だと言った。これまでは自然発生的に現れる動物だと考えられていた。しかし、その真実は違った。
 人と人の戦いであるならば、ルヴィエ達は敵だ。リュールはその言葉を頭の中で反芻した。

「そして、我々をここに呼んだのは、彼らに意図があったということだね」
「俺を襲ったのと同じだろうな」

 レミリアは、騎士団に対して情報があったと言っていた。恐らくは、ルヴィエ達だ。細かな目的までは不明だが、何かしらの意図は感じる。

「それで、君の元仲間はどこに?」
「完全に姿を消してわからねぇ……って」

 マリムのその顔を見るのは久しぶりだった。口だけで笑って、視線は射るようにこちらに向く。
 彼に隠し事は難しいらしい。リュールは降参するしかなかった。

「知ってたのかよ」
「いや、カマをかけた。リュールが正直者で助かったよ」
「ちっ、性格悪いな」
「よく言われるよ。安心してくれ、君やレミィを疑うことはしない。ただし、これも口外できないことだね」

 全部読まれていた。リュールが両手をあげると、マリムの表情は元の穏やかなものに戻った。

「そうか、居場所がわからないとなると、まだ厳しいね」

 顎に手を当て、軽く唸る。マリムの中では既に、先手を打つ作戦が動き出しているのだろう。ただし、現状では情報が薄すぎる。

「とりあえず、今夜は休んでくれ。疲れただろう。君たちの天幕も用意しているよ。それと、鎧の手配もしておく」
「それは助かる」
「死なれたら困るからね」

 マリムの言葉に甘えて、リュールは中央の天幕を後にした。とりあえずは休みたかったというのは、本音だ。

「あの、リュール様。先程言いかけたことなのですが」

 自身に宛てがわれた天幕に向かう途中、ブレイダが遠慮がちに口を開いた。マリムとの会話では、余計なことを言わないように気を張っていたのだろう。
 人の姿になったばかりの頃に比べて、リュールへの気遣いの質が変わってきたように感じる。出る場面と控える場面の差を学んでいるのかもしれない。

「ああ、後で聞くって言ってたものな」
「はい。覚えてて頂けて嬉しいです」

 会話を続けながら、リュールは天幕の中に入る。恐らくは、他者に聞かれたくない話だ。

「それで?」
「たぶん、あいつらの居場所、わかります」
「ほう」

 ブレイダにしては珍しく、少し言葉を濁した言い回しだった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー

浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり…… ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ 第5章完結です。 是非、おすすめ登録を。 応援いただけると嬉しいです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

処理中です...