44 / 86
第3章 開戦
第42話『リュール様、あの……』
しおりを挟む
狂ったように笑うルヴィエは、リュールの知る友とは別人だった。あの日からこれまでの月日に、一体何があったのだろうか。
「どういうことだ?」
「どうって、お前もそれ持ってるならわかってるだろう」
『え、私?』
笑いが止まらないまま、ルヴィエはブレイダを指差した。リュールもブレイダも、その意味を理解できないでいた。
「なんのことだ?」
「とぼけさせねぇぞ。俺らと同じ恨み、お前も持っているだろう」
「だから、なんのことだ?」
相手がわかっている前提での会話は、全く噛み合わない。ルヴィエは徐々に苛立ってきている様子だ。このままカンに障り続けると、あの黒紫の大剣を振られるかもしれない。
「それは何も言わなかったのか?」
「言わねぇよ。剣だからな」
『そう、剣ですよ!』
リュールの返答に、ルヴィエはため息をついた。苛立ちは呆れと諦めに変わったようだった。
「まぁ、いいや。お互い混乱もあるしな、今日は引き上げるよ。またな」
「お、おい」
リュールの返事を待たず、ルヴィエはジルを抱えた。どうやってもリュールでは追い付かない速度で視界から消える元親友は、人の範疇を越えているように思えた。
「ふぅ」
過剰な緊張から解放され、体と心から疲労感が溢れ出す。可能であれば、そのまま座り込みたいくらいだった。
消え去った二人は、明らかにブレイダと同じ武器を持っていた。色は違っても、間違えようがない。それに、ブレイダと刃を合わせた時、声まで聞こえてしまったのだ。
様々な疑問がリュールの頭に浮かぶ。しかし、リュールには行くべき場所があった。
『リュール様、あの……』
「わかってる。後で話そう」
『はい』
ブレイダの言葉を遮り、リュールは再び走り出した。落ち着いて話すには、もう少し時間が欲しいと思う。
町で暴れているであろう魔獣を狩れば、少しは気が紛れるかもしれない。戦っている間だけは、難しいことを考えずに済む。
リュールが町に到着した時、魔獣の姿はなかった。その代わりに、鎧に身を包んだ騎士の姿があった。
「遅いぞ!」
動揺が隠せないリュールを怒鳴りつけたのは、返り血に塗れたレミルナ・ルミールだった。その右手には、白銀の刃をもつ片手剣も見えた。
「どうして、ここに?」
リュールは基本的に単独行動をしていた。騎士団長であるマリムからも、そう聞いている。だから、レミルナをはじめとした騎士団の連中とは会わないはずだった。
結果的に助かったとはいえ、なにか作為的なものを感じてしまう。
「マリム様の指示で来た。この町に魔獣が集うとの情報でな。ようやく掃討が終わったところだ」
どことなく嬉しそうに上官の名を口にした後、レミルナは「レピア」と呟いた。
「はーい、リュールさん、お久しぶりー」
『レピア姉さん!』
いつかの宿場町で意気投合して以来、ブレイダはレピアを慕っていた。人になった剣の先輩として、いろいろ教わっていた。
いわゆる、大人の女といった雰囲気も、ブレイダにとっては尊敬に値しするらしい。
「そいつは、助かった。ブレイダ」
「レミィ! レピア姉さん!」
少女の姿になったブレイダは、友人に向けて手を振った。剣であるから、リュールの傍からは離れない。
「ああ、ブレイダ。久しぶりだな」
「こんばんは、ブレイダちゃん」
一通りの挨拶をしたレミルナは、浮かべた笑みを消しリュールを睨んだ。
「で、この体たらくはどういうことだ?」
「ちょっと、いくらレミィでもしつれ、へぶ」
「いいんだよ」
彼女の苦言はもっともだ。マリムから依頼されのは、町を守り魔獣を狩るという任務だった。それを放棄したように思われても仕方がない。
「団長はいるか?」
当初は黙っていようかと思った。しかし、これはリュールだけでは手に負えない。大勢の命がかかる問題だ。隠すことに何の得もない。
何より、リュールはあのルヴィエが恐ろしいと思ってしまっていた。
リュールの真剣な意図に応えるように、レミルナは頷いた。
「どういうことだ?」
「どうって、お前もそれ持ってるならわかってるだろう」
『え、私?』
笑いが止まらないまま、ルヴィエはブレイダを指差した。リュールもブレイダも、その意味を理解できないでいた。
「なんのことだ?」
「とぼけさせねぇぞ。俺らと同じ恨み、お前も持っているだろう」
「だから、なんのことだ?」
相手がわかっている前提での会話は、全く噛み合わない。ルヴィエは徐々に苛立ってきている様子だ。このままカンに障り続けると、あの黒紫の大剣を振られるかもしれない。
「それは何も言わなかったのか?」
「言わねぇよ。剣だからな」
『そう、剣ですよ!』
リュールの返答に、ルヴィエはため息をついた。苛立ちは呆れと諦めに変わったようだった。
「まぁ、いいや。お互い混乱もあるしな、今日は引き上げるよ。またな」
「お、おい」
リュールの返事を待たず、ルヴィエはジルを抱えた。どうやってもリュールでは追い付かない速度で視界から消える元親友は、人の範疇を越えているように思えた。
「ふぅ」
過剰な緊張から解放され、体と心から疲労感が溢れ出す。可能であれば、そのまま座り込みたいくらいだった。
消え去った二人は、明らかにブレイダと同じ武器を持っていた。色は違っても、間違えようがない。それに、ブレイダと刃を合わせた時、声まで聞こえてしまったのだ。
様々な疑問がリュールの頭に浮かぶ。しかし、リュールには行くべき場所があった。
『リュール様、あの……』
「わかってる。後で話そう」
『はい』
ブレイダの言葉を遮り、リュールは再び走り出した。落ち着いて話すには、もう少し時間が欲しいと思う。
町で暴れているであろう魔獣を狩れば、少しは気が紛れるかもしれない。戦っている間だけは、難しいことを考えずに済む。
リュールが町に到着した時、魔獣の姿はなかった。その代わりに、鎧に身を包んだ騎士の姿があった。
「遅いぞ!」
動揺が隠せないリュールを怒鳴りつけたのは、返り血に塗れたレミルナ・ルミールだった。その右手には、白銀の刃をもつ片手剣も見えた。
「どうして、ここに?」
リュールは基本的に単独行動をしていた。騎士団長であるマリムからも、そう聞いている。だから、レミルナをはじめとした騎士団の連中とは会わないはずだった。
結果的に助かったとはいえ、なにか作為的なものを感じてしまう。
「マリム様の指示で来た。この町に魔獣が集うとの情報でな。ようやく掃討が終わったところだ」
どことなく嬉しそうに上官の名を口にした後、レミルナは「レピア」と呟いた。
「はーい、リュールさん、お久しぶりー」
『レピア姉さん!』
いつかの宿場町で意気投合して以来、ブレイダはレピアを慕っていた。人になった剣の先輩として、いろいろ教わっていた。
いわゆる、大人の女といった雰囲気も、ブレイダにとっては尊敬に値しするらしい。
「そいつは、助かった。ブレイダ」
「レミィ! レピア姉さん!」
少女の姿になったブレイダは、友人に向けて手を振った。剣であるから、リュールの傍からは離れない。
「ああ、ブレイダ。久しぶりだな」
「こんばんは、ブレイダちゃん」
一通りの挨拶をしたレミルナは、浮かべた笑みを消しリュールを睨んだ。
「で、この体たらくはどういうことだ?」
「ちょっと、いくらレミィでもしつれ、へぶ」
「いいんだよ」
彼女の苦言はもっともだ。マリムから依頼されのは、町を守り魔獣を狩るという任務だった。それを放棄したように思われても仕方がない。
「団長はいるか?」
当初は黙っていようかと思った。しかし、これはリュールだけでは手に負えない。大勢の命がかかる問題だ。隠すことに何の得もない。
何より、リュールはあのルヴィエが恐ろしいと思ってしまっていた。
リュールの真剣な意図に応えるように、レミルナは頷いた。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説


どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる