愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第42話『リュール様、あの……』

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 狂ったように笑うルヴィエは、リュールの知る友とは別人だった。あの日からこれまでの月日に、一体何があったのだろうか。

「どういうことだ?」
「どうって、お前もそれ持ってるならわかってるだろう」
『え、私?』

 笑いが止まらないまま、ルヴィエはブレイダを指差した。リュールもブレイダも、その意味を理解できないでいた。

「なんのことだ?」
「とぼけさせねぇぞ。俺らと同じ恨み、お前も持っているだろう」
「だから、なんのことだ?」

 相手がわかっている前提での会話は、全く噛み合わない。ルヴィエは徐々に苛立ってきている様子だ。このままカンに障り続けると、あの黒紫の大剣を振られるかもしれない。

「それは何も言わなかったのか?」
「言わねぇよ。剣だからな」
『そう、剣ですよ!』

 リュールの返答に、ルヴィエはため息をついた。苛立ちは呆れと諦めに変わったようだった。

「まぁ、いいや。お互い混乱もあるしな、今日は引き上げるよ。またな」
「お、おい」

 リュールの返事を待たず、ルヴィエはジルを抱えた。どうやってもリュールでは追い付かない速度で視界から消える元親友は、人の範疇を越えているように思えた。

「ふぅ」

 過剰な緊張から解放され、体と心から疲労感が溢れ出す。可能であれば、そのまま座り込みたいくらいだった。
 消え去った二人は、明らかにブレイダと同じ武器を持っていた。色は違っても、間違えようがない。それに、ブレイダと刃を合わせた時、声まで聞こえてしまったのだ。
 様々な疑問がリュールの頭に浮かぶ。しかし、リュールには行くべき場所があった。

『リュール様、あの……』
「わかってる。後で話そう」
『はい』

 ブレイダの言葉を遮り、リュールは再び走り出した。落ち着いて話すには、もう少し時間が欲しいと思う。
 町で暴れているであろう魔獣を狩れば、少しは気が紛れるかもしれない。戦っている間だけは、難しいことを考えずに済む。

 リュールが町に到着した時、魔獣の姿はなかった。その代わりに、鎧に身を包んだ騎士の姿があった。

「遅いぞ!」

 動揺が隠せないリュールを怒鳴りつけたのは、返り血に塗れたレミルナ・ルミールだった。その右手には、白銀の刃をもつ片手剣も見えた。

「どうして、ここに?」

 リュールは基本的に単独行動をしていた。騎士団長であるマリムからも、そう聞いている。だから、レミルナをはじめとした騎士団の連中とは会わないはずだった。
 結果的に助かったとはいえ、なにか作為的なものを感じてしまう。

「マリム様の指示で来た。この町に魔獣が集うとの情報でな。ようやく掃討が終わったところだ」

 どことなく嬉しそうに上官の名を口にした後、レミルナは「レピア」と呟いた。

「はーい、リュールさん、お久しぶりー」
『レピア姉さん!』

 いつかの宿場町で意気投合して以来、ブレイダはレピアを慕っていた。人になった剣の先輩として、いろいろ教わっていた。
 いわゆる、大人の女といった雰囲気も、ブレイダにとっては尊敬に値しするらしい。

「そいつは、助かった。ブレイダ」
「レミィ! レピア姉さん!」

 少女の姿になったブレイダは、友人に向けて手を振った。剣であるから、リュールの傍からは離れない。
 
「ああ、ブレイダ。久しぶりだな」
「こんばんは、ブレイダちゃん」

 一通りの挨拶をしたレミルナは、浮かべた笑みを消しリュールを睨んだ。

「で、この体たらくはどういうことだ?」
「ちょっと、いくらレミィでもしつれ、へぶ」
「いいんだよ」

 彼女の苦言はもっともだ。マリムから依頼されのは、町を守り魔獣を狩るという任務だった。それを放棄したように思われても仕方がない。

「団長はいるか?」

 当初は黙っていようかと思った。しかし、これはリュールだけでは手に負えない。大勢の命がかかる問題だ。隠すことに何の得もない。
 何より、リュールはあのルヴィエが恐ろしいと思ってしまっていた。

 リュールの真剣な意図に応えるように、レミルナは頷いた。
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