上 下
43 / 86
第3章 開戦

第41話『あの剣も……』

しおりを挟む
 ある程度は予想できていた。待ち合わせ場所に来なかったのも、町が襲われているのも、ジルが命を狙ってきたのも、全てに整合がとれる。
 考えたくなかった、認めたくなかったのが本音だ。こんな感傷、ブレイダに話したら笑ってくれるだろうか。

 かつての親友を見つめたまま、リュールはブレイダを振り下ろした。いくら元仲間とはいえ、自分を殺そうとした者に与える慈悲などない。

「おいおい」
『ルヴィエ様を無視するな!』

 瞬間、ブレイダの剣身が弾かれた。ルヴィエの持つ大剣だ。刃同士が接触した際、剣の声が聞こえた。ブレイダによく似ているような気がする。

「ちっ」

 かろうじて目では追えたが、体は対応できなかった。ブレイダを使うことで身体能力が向上したはずだった。しかし、ルヴィエの動きはそれをゆうに超えていた。
 危険を感じたリュールは、そのまま軽く飛び退いた。このまま戦っても勝ち目はないことは、すぐに理解できた。

「待てって言ってるのにさ」

 ルヴィエは呆れたように、落ちた黒紫の短剣を手に取る。そして、ジルの残った左手にそっと握りこませた。

「ジルが死んじゃうだろう」

 長い前髪に隠された瞳は、心底困っているようだった。そんな何気ない仕草であっても、リュールの緊張は跳ね上がる。

「うわ、治り遅いな。しかも繋がらない。まぁ死にはしないだろうけどさ。これで斬られるとこうなるってことか。なぁ、リュール」

 斬り落とされた右腕と切断面を合わせつつ、静かにリュールに語りかける。まるで世間話をしているようだった。

「あーだめだ。仕方ないか」

 諦めたのか、ルヴィエは再びリュールに向き直る。

「ああ、悪いな。こいつが先走ってさ。確かめてくれって言ったはずなのに」
「確かめる?」

 立ち上がったルヴィエは、浅く呼吸をするジルの脇腹を足先で小突いた。気を失っているが流血は止まっている。右腕は戻らなくとも、命は落としていなかった。

「そうそう、ブレイダちゃんが本物かってな」
「ほぅ」
「そんな警戒するなよ。今はやり合うつもりはない」

 ルヴィエは大剣を後ろに回し、両手をリュールに向けた。黒紫の刃は抜き身のまま、腰の留め具に引っかかっている。

「こいつの行動は詫びるよ。この通りだ」

 頭を下げつつ、ジルの右腕を蹴り飛ばす。少しの血を撒き散らしながら、リュールの足元に転がった。

『リュール様、あの剣も……』

 ブレイダの言いたいことはよくわかる。しかし、それに反応することはできなかった。ルヴィエの言う本物とは、ブレイダそのものだからだ。

「仲直りしたところで、本題だ」
「本題だと?」

 殺されかけて、異常な身体能力で脅されて、仲直りもなにもない。当たり前のように微笑むルヴィエは、リュールとはどこか感覚がずれていた。

「そう、リュールとブレイダちゃんで、俺らの仲間になってくれ」
「ほぅ」
「あの頃みたいに、一緒にやろうぜ」

 あの頃というのは、傭兵団にいた頃を指すのだろう。二人はいつも、互いに助け合い、庇い合い戦っていた。
 一緒にやるということはどういうことか。リュールは戦場の臭いを嗅いだ気がした。だから、問わずにはいられなかった。

「なにを、やるんだ?」
「戦うんだよ」
「何とだ?」
「人間とだよ」

 元親友はリュールに告げた後、狂ったように笑った前髪の奥が、仄暗く輝いて見えた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー

浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり…… ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ 第5章完結です。 是非、おすすめ登録を。 応援いただけると嬉しいです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...