愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第41話『あの剣も……』

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 ある程度は予想できていた。待ち合わせ場所に来なかったのも、町が襲われているのも、ジルが命を狙ってきたのも、全てに整合がとれる。
 考えたくなかった、認めたくなかったのが本音だ。こんな感傷、ブレイダに話したら笑ってくれるだろうか。

 かつての親友を見つめたまま、リュールはブレイダを振り下ろした。いくら元仲間とはいえ、自分を殺そうとした者に与える慈悲などない。

「おいおい」
『ルヴィエ様を無視するな!』

 瞬間、ブレイダの剣身が弾かれた。ルヴィエの持つ大剣だ。刃同士が接触した際、剣の声が聞こえた。ブレイダによく似ているような気がする。

「ちっ」

 かろうじて目では追えたが、体は対応できなかった。ブレイダを使うことで身体能力が向上したはずだった。しかし、ルヴィエの動きはそれをゆうに超えていた。
 危険を感じたリュールは、そのまま軽く飛び退いた。このまま戦っても勝ち目はないことは、すぐに理解できた。

「待てって言ってるのにさ」

 ルヴィエは呆れたように、落ちた黒紫の短剣を手に取る。そして、ジルの残った左手にそっと握りこませた。

「ジルが死んじゃうだろう」

 長い前髪に隠された瞳は、心底困っているようだった。そんな何気ない仕草であっても、リュールの緊張は跳ね上がる。

「うわ、治り遅いな。しかも繋がらない。まぁ死にはしないだろうけどさ。これで斬られるとこうなるってことか。なぁ、リュール」

 斬り落とされた右腕と切断面を合わせつつ、静かにリュールに語りかける。まるで世間話をしているようだった。

「あーだめだ。仕方ないか」

 諦めたのか、ルヴィエは再びリュールに向き直る。

「ああ、悪いな。こいつが先走ってさ。確かめてくれって言ったはずなのに」
「確かめる?」

 立ち上がったルヴィエは、浅く呼吸をするジルの脇腹を足先で小突いた。気を失っているが流血は止まっている。右腕は戻らなくとも、命は落としていなかった。

「そうそう、ブレイダちゃんが本物かってな」
「ほぅ」
「そんな警戒するなよ。今はやり合うつもりはない」

 ルヴィエは大剣を後ろに回し、両手をリュールに向けた。黒紫の刃は抜き身のまま、腰の留め具に引っかかっている。

「こいつの行動は詫びるよ。この通りだ」

 頭を下げつつ、ジルの右腕を蹴り飛ばす。少しの血を撒き散らしながら、リュールの足元に転がった。

『リュール様、あの剣も……』

 ブレイダの言いたいことはよくわかる。しかし、それに反応することはできなかった。ルヴィエの言う本物とは、ブレイダそのものだからだ。

「仲直りしたところで、本題だ」
「本題だと?」

 殺されかけて、異常な身体能力で脅されて、仲直りもなにもない。当たり前のように微笑むルヴィエは、リュールとはどこか感覚がずれていた。

「そう、リュールとブレイダちゃんで、俺らの仲間になってくれ」
「ほぅ」
「あの頃みたいに、一緒にやろうぜ」

 あの頃というのは、傭兵団にいた頃を指すのだろう。二人はいつも、互いに助け合い、庇い合い戦っていた。
 一緒にやるということはどういうことか。リュールは戦場の臭いを嗅いだ気がした。だから、問わずにはいられなかった。

「なにを、やるんだ?」
「戦うんだよ」
「何とだ?」
「人間とだよ」

 元親友はリュールに告げた後、狂ったように笑った前髪の奥が、仄暗く輝いて見えた。
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