愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第39話『無茶しないでください』

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 リュールは顔を歪め息を切らし、最後の一頭を両断した。怪我は治っても、革鎧と服はもうボロボロだった。

『リュール様、無茶しないでください』
「大丈夫……だ」

 ブレイダの心配をよそに、リュールは再び走り始めた。町はすぐそこだ。悪い予感が的中しないよう、それだけを願っていた。

『リュール様!』
「ちっ!」

 生き残りがいたのか、もしくは他の個体か。側面から飛び掛ってきた魔獣が、リュールの右腕に齧り付いた。警戒を怠っていた。
 傷はすぐに治り、無尽蔵にも思える体力はある。しかし、精神的な疲労への耐性は限度があった。

 攻撃の衝撃で、握ったブレイダが地面に落ちた。繰り返される痛みで、視界が眩む。左手で拾おうとするが、暴れる魔獣に振り回されて上手くいかない。

「ブ、ブレイダ!」
「はいっ!」

 人の姿になったブレイダが、リュールの左手を取る。右腕の骨が嫌な音を立てた。

「ブレイダ!」
『はいっ!』

 再び剣の姿になったブレイダで、魔獣を突き刺す。力を失った狼は、その場に崩れ落ちた。

「く……」

 膝を付きそうになる身体を、ブレイダで支える。筋肉を切り裂かれ骨が砕けた右腕は、瞬く間に癒えていった。額からにじんだ汗が、顎を伝って地面に垂れ落ちた。

「行くぞ」
『リュール様……』

 リュールはどうしても確かめたかった。これが、彼の仕業でないことを。

「お疲れのようだなぁ、リュール」

 再び走り出そうとしたリュールは、呼びかける声に対して反射的に構える。目の前には猫背の男が一人、立っていた。身の丈はリュールと同程度だろうか。ひょろりと細身のため実際よりも長身に見える。

「誰だ?」
「おいおい、忘れちまったのかぁ」
「あ?」
「仕方ねえなぁ、忘れん坊のリュールちゃんに、少し昔話をしようかねぇ」
「昔話だと」
「そうそう、初めて戦場に出た時だっけかなぁ。お前、ションベン漏らして帰ってきたよなぁ。あれには笑わせてもらったわぁ」
『リュール様、あいつ殺りましょう』

 耳障りな高音の声と、語尾を伸ばす口調、細長い手足。おぼろげな記憶からひとつの可能性が浮かんできた。
 信じ難い可能性は、屈辱的な過去を知っていることで補強される。ルヴィエといい、作為的なものすら感じる再会だ。

「あんた、ジルか?」
「よぉく思い出してくれましたぁ」

 この男も、あの傭兵団に所属していた。投げナイフや短剣を得意とし、正面からの戦いよりも不意をついた攻撃を好む。
 粘着質な気質で、リュールはあまり良い印象を持っていなかった。それでも、同じ場に所属していた仲間のひとりではある。

「なぜここに?」
「んー、まぁ、言うなって言われてもいないしなぁ、喋っちゃおうかなぁ」

 ジルはどこか楽しげに、身体を揺らす。この癖は、間違いなく彼のものだった。

『リュール様、急がなくては』

 ブレイダの声に、リュールは我へと返った。疑問は尽きないが、今は町へ向かわねばならない。
 剣と会話する姿を見られないよう、リュールは無言を返事とした。ブレイダならば理解するはずだ。

「悪いが、急いでいる。話はまた後でな」
「おいおい、冷たいなぁ、リュールちゃん」

 ジルの軽口は無視する。そう、こういう奴だった。だから好きではなかったのだ。

「仕方ねぇなぁ、再会したばっかであれだけど、ここで死んでもらうかねぇ」
「は……?」

 ジルは右手を軽く持ち上げる。そこには、短剣が逆手に握られていた。黒に近い紫の刃、鍔には黄色の飾り石が見える。
 直後、リュールは目を疑った。

『リュール様!』
「あ、ああ!」

 狼型の魔獣が七頭、ジルの横をすり抜けリュールに向かってくる。元仲間の男は、唇を大きく歪めていた。
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