愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
40 / 86
第3章 開戦

第38話『こいつら、目的がありますね』

しおりを挟む
 剣がブレイダになって以来だろうか、リュールは妙に夜目が効くようになっていた。心なしか五感や身体能力も上がっているような気がする。傷の治り同様、異常なことだ。
 理由は不明、ブレイダも「わかりません!」と言う。リュールほどではないが、レミルナにも同じような現象が起きているらしい。騎士団ですら、その要因について調べきれていない。

 剣が人になり、さらに特殊な剣となった。その現象の正体を、いつか解明する必要があるとは思う。しかし、今この瞬間は、魔獣を斬り捨てるために活用せざるを得ない。

 リュールを囲む狼型の魔獣は、先日と違う動きを見せた。周囲を囲むまでは変わらないが、距離をとったまま襲ってくる気配がない。

「なんだ?」
『恐れをなしたわけでは、ないですね』

 ブレイダも空気の違いを感じ取っていた。何があっても素早く対応できるよう、彼女は羽根のように軽い。

「つついてみるか」
『お気を付けて』

 このまま睨み合いを続けていても時間が過ぎるだけだ。リュールは意を決して正面の一頭に斬りかかった。
 最軽量のブレイダを振り下ろした。魔獣は血と内臓を散らし、縦に真っ二つとなる。そのままの勢いでブレイダを横に薙ごうと、右に目を向けた。

「ちっ!」

 視線の先に魔獣の姿はなかった。一足飛びではブレイダが届かない距離を維持したまま、再びリュールを取り囲んでいる。

『こいつら、戦う気がないのでしょうか』
「まさか、いや、そうかもな」

 魔獣の様子を見る限り、ブレイダの意見は的を射ているように感じられた。一向に攻撃してくる気配がないのだ。ただ、隙を見せたら終わりだという殺気は感じる。

「足止めか?」
『こいつら、目的がありますね』

 魔獣を警戒しつつも、リュールは周囲を探る。月明かりだけでも、見渡すのには充分だ。しかし、不審なものは見当たらない。原因不明の膠着は、無限に続くかのように思えた。
 その時、ブレイダを持つことによって鋭敏になった聴覚と嗅覚が異常を感じとった。

「おい」
『はい』

 言葉にするなら、人間の血の臭いと悲鳴。それは町の方から発生している。

『陽動ですね』
「魔獣が作戦とはな」

 町を襲うため、魔獣狩りを引き離しておく。事を起こした後も、戻らないように釘付けにしておく。ブレイダの言う通り、これは陽動作戦だ。
 そして、リュールをここに呼んだのは。顔に刻まれた傷痕がよぎる。

『リュール様』
「すまん、とりあえずは後にしてくれ」
『はい』

 ブレイダの言葉を遮り、リュールは魔獣を睨みつけた。まともに戦っていては、町が全滅してしまう。

「突破するぞ」
『はい』

 リュールは踵を返し、町の中心部へ走り出した。通りすがりに魔獣を一頭、右手に持ったブレイダで斬り伏せる。ざっと数えた限り、残りは八頭。

「こいよ!」

 身体能力が人間離れしているとはいえ、走る速度は狼には及ばない。反応の早かった二頭がリュールに追いついた。

「ぐっ……!」

 右足と左肩に痛みを感じる。ブレイダを握っていなかったら思考が止まるほどの激痛だったことだろう。軽装の革鎧など、まるで防御効果はなかった。鋭い牙が強固な顎に支えられ、リュールの身体にくい込んだ。
 意図的に姿勢を崩し前転しつつ、噛み付いたままの二頭を切断した。抉れた肉体は、間を置かずに治癒している。

『リュール様!』
「大丈夫だ」

 傷は治り、痛みはすぐに収まる。ただし苦痛を受けることには変わりない。それでもこの方法で進むことを決めた。どの程度の怪我まで治るかなんて、知ったことではない。

「くそが!」

 左手首に食いついた魔獣を斬り捨てて、リュールは走り続けた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...