愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第37話「リュール様のことが知りたいです」

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 翌朝、リュールは普段より早く目を覚ました。柄にもなく緊張しているらしい。
 隣のベッドではブレイダが小さく寝息を立てている。食事は必要としないが、睡眠はとる。人になった剣の生態についてはわからないことが多い。レミルナとレピアからの情報も完全ではない。

「んう、リュール様?」
「ああ、起こしちまったか」
「今日はお早いですね」
「まぁな」

 ブレイダは寝入りが早く、目覚めも早い。危険に身を置く立場としては理想的な体質だ。もしかしたら、鞘の中では眠っていたのかもしれない。

「お待ち合わせですか?」
「まぁ、そうだな」

 見透かされたことが照れくさく、リュールは後頭部を掻いた。

「ふふっ」
「なんだよ」
「昨夜、リュール様が許可してくださったので、断りなく差し出がましいことを言いました。それが嬉しくて」
「そうかよ」
「はいっ!」

 頷くブレイダの銀髪が揺れた。

 宿の食堂で簡単な朝食をとり、リュールとブレイダは待ち合わせに指定された場所に向かった。町の外れに目立った大きさの切り株がある場所と言われていた。

「あれか」
「ですね」
「確かにでかいな」
「はい、私でも一回で斬るのは難しいですね」
「そういう発想になるんだな」
「剣ですから」
 
 待ち合わせの時間は日が登りきる頃。まだ少し時間がある。リュールは切り株に腰掛け、待つことにした。

「リュール様」
「ん?」
「私の知らないリュール様のことが知りたいです」
「昔の話か?」
「はい」

 人の姿になってからこれまで、ブレイダはリュールの内面にあまり踏み込もうとはしなかった。あくまでも武器としての立場からなのか、遠慮があったのかはわからない。
 昨夜の会話から、ブレイダの態度は少し変わったように思える。少なくとも今のリュールは、それを不快には感じなかった。

「もう何年前か忘れたけどな、食うにも困る村の生活が嫌でな」
「ふんふん!」

 自分のことを話すのは得意ではない。それでもリュールは、目を輝かせる相棒に向け言葉を繋げた。
 無策で村を飛び出し、路頭に迷っていたこと。たまたま通りかがった傭兵団に拾われたこと。そして、ルヴィエと知り合ったこと。

「あいつは戦災孤児でな、最初は泣いてばかりいたよ」
「へー、お強そうだったのに。もちろん、リュール様ほどではありませんが」
「俺とはよく殴り合いをしていたな」
「それは許せませんが、ご友人とのことなので我慢します」
「戦場で命を救われたことがあってな、それ以来ずっと感謝してる。その恩は今も返せていないと思う」
「私からもお礼を言わねば!」

 ブレイダの相槌が面白く、リュールは饒舌になっていた。ここしばらく、魔獣狩りに奔走していてゆっくりとした時間を過ごすことはなかった。
 切り株での語らいは、リュールにとって、良い気分転換だった。あっという間に日は高くなり、待ち合わせの時間がきたことを告げていた。

「来ませんね」
「そうだな、もう少し待とう」

 食堂から拝借してきた硬いパンをかじり、リュールは友を待つ。愛剣は隣で楽しそうな表情を浮かべていた。

「うーん、来ませんね」
「そうだな」

 日が傾き、空を赤く染めてもルヴィエは現れなかった。嫌な予感がリュールの脳裏をよぎる。
 また、あの時のように別れ別れになってしまうのではないか。再会したはずの友は、幻だったのではないか。そんな可能性すら想定してしまう。

「リュール様、残念ですがそろそろ」
「そうだな……」

 ブレイダが促さなければ、このまま待ち続けていたかもしれない。リュールは肩を落とし、切り株から立ち上がった。

「……ブレイダ」
『はい』

 リュールはブレイダを手に取り、鞘から取り出した。切り株の周囲には、狼型の魔獣が集まりつつあった。
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