愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第36話「私は嫉妬してしまいました」

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 あまりの衝撃に、リュールはただ立ち尽くしていた。十年以上前のことが昨日のように思い浮かんでくる。

「久しぶりだな、リュール」

 ルヴィエらしき男が手を差し出した。リュールは握手に応じるのを躊躇ってしまう。

「ルヴィエ、なのか?」

 本人だとは到底思えず、同じ質問を二回してしまった。我ながら、間抜けな顔をしているのだろうと思う。

「そうだよ。この傷、忘れたのか?」

 そう言った男は、長い前髪を持ち上げた。左目の横から頬にかけて、大きな傷があった。

「ああ、忘れるわけがない」
「そういうことさ」

 ルヴィエは再度リュールに向かい手を差し出す。今度はしっかりとその掌を握った。お互いに、あの頃より分厚く細かい傷だらけの掌だった。
 ブレイダは珍しく、その光景を黙って見つめていた。

 町の酒場を離れ、宿の食堂を借りた。二人での話は、大勢の中ではできそうにない。

「生きてたんだな、ルヴィエ」
「ああ、なんとか。お前は随分有名になってたな」
「たまたまだよ」

 ルヴィエは傭兵としてそれなりに名を上げたリュールを知っていたようだ。それならば、なぜ今になって現れたかという疑問を抱いてしまう。
 死地に晒され続けて染み付いてしまった警戒心は、再会した親友に対しても働いていた。リュールはそれを悲しいとは思えなかった。

「お前は、どうしてたんだ?」
「リュールと同じだよ。独りで傭兵してた」
「そんなこと、知らなかった」
「ひっそりとやってたからな」
「そうか」

 ただ、あの頃のように会話が続けられない。どうしても、探るような話し方になってしまう。それは寂しかった。

「あ、そちらのお嬢ちゃんは?」

 ルヴィエはリュールの隣に座るブレイダに目をやった。彼も同じく、会話に困っていたのかもしれない。

「ブレイダと申します。リュール様に命を救っていただいてから、付き人をさせていただいています」

 ブレイダは本当のことを言わなかった。彼女の口から出たのは、以前から決めていた嘘だ。おそらく、リュールから話すまでは嘘を通すつもりだ。

「そうか、俺はルヴィエ。聞いててわかったかもしれないけど、リュールの古い友人だよ」
「ルヴィエさん。先程はリュール様のご友人とは知らず、大変失礼しました」
「気にしないでくれ。よろしくね、ブレイダちゃん」
「はい、ありがとうございます」

 ルヴィエはブレイダに向けて微笑んだ。それはリュールの知らない表情だった。

「今日は遅いし、そろそろ帰るよ。また明日会えるか?」
「ああ、もちろん」

 翌日の待ち合わせを確認すると、ルヴィエは宿から出ていった。去り際に握手と共に「ブレイダちゃんと仲良くな」と言い残して。

 宿のベッドに寝転がったリュールは、漠然とルヴィエのことを思い出していた。
 あの傭兵団は比較的年齢が若かった。それでもリュールの年代はルヴィエとの二人くらいだった。必然的に練兵で一緒になることが多く、意気投合するのに時間はかからなかった。
 戦場でも同じだった。大人たちには置いていかれ、二人で庇いあって命を繋いでいた。彼の傷も、リュールを矢から救った時にできたものだ。

 生き別れてから十年以上、時間という溝は深いものがある。再び以前のように関係を築けるのだろうか。そもそも、それに意味はあるのだろうか。
 嬉しいという感情よりも困惑が勝っている自分に、あまり良い気持ちはしなかった。

「リュール様」
「あん?」

 隣のベッドに座ったブレイダの声。今となっては、リュールの相棒は彼女だった。

「差し出がましいことを言います。しかも武器としては有るまじきことです。お許しいただけないでしょうか」
「ああ、いいよ」
「私は嫉妬してしまいました。リュール様はとても安心されたお顔をされていましたので。剣の私では、リュール様にあんな顔をさせられないです」
「そうだったか?」
「はい。少なくとも私は知らないお顔でした」

 リュールはブレイダの言う差し出がましいことの意味を理解した。リュールをずっと見てきた彼女の意見なら、信用できる。
 明日はもっと素直にルヴィエと話してみようと決めた。

「そうか。ありがとう」
「いえ、少しでもお悩みが晴れたら幸いです」
「あと、差し出がましいことって言わなくてもいいぞ。武器にあるまじきことでも、相棒なら問題ない」
「あ……はいっ!」

 ブレイダの横顔は、開いた窓からの月明かりで輝いて見えた。リュールは見とれると同時に、彼女が彼女であることを嬉しく思っていた。
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