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第3章 開戦
第35話「もっとリュール様を称えてください」
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仕方なく所属した騎士団であったが、身分証明としては想定外に有効だった。金属製の騎士団証を見せれば、大抵の場所で歓迎された。平民ばかりで構成されたゼイラス騎士団だからこその好感の現れであるのかもしれない。
酒場での情報収集は、騎士団から与えられた資金にものを言わせるつもりだった。しかし、リュールが狼の魔獣を狩ったと知られると、逆に大歓待を受けることになった。
「いや、俺は仕事をしただけで……」
「あの狼には困っていたんだよ!」
「さすが騎士様だ!」
リュールの困惑とは無関係に、酒場は妙な盛り上がりをみせた。普段酒場に来ないような女子供まで、リュールを一目見ようと集まっているようだった。
命を脅かす存在が排除されたのだから、安心感と開放感は大きかったのだろう。テーブルには酒と料理が次々と並び、まるで宴会だった。
悪い気にはならないものの、こういう雰囲気は得意ではない。大人数で騒ぐと、どうしてもあの頃を思い出してしまう。
「付き人のお嬢ちゃんも、ありがとうな」
「私ではなく、もっとリュール様を称えてください」
「ああ、英雄だな、リュール様は!」
「はい! その通りです!」
ブレイダはブレイダで、町の人々と盛り上がっている。酒は飲んでいないし飲まないのだが、あの調子だ。場に酔っているというものか。
照れくさくなりつつも、やるべきことはやらねばならない。リュールは楽しげな空気に飲まれないよう、気を引き締めた。
「聞きたいことがある」
「なんだい?」
リュールは酒もそこそこに、場を仕切る男に声をかけた。若いが町のリーダー格に見えた。
「狼に関することで、何か変わったことはなかったか? あれの発生原因を調べている」
「いや、知らないねぇ。森にいた狼にはちょくちょく人が襲われていたけどな。その回数が急に増えたくらいで」
急に増えたというのは、魔獣が現れてからのことだろう。そこに何かのきっかけがあるはずだが、ここではその情報は手に入りそうにない。
「邪魔したな」
「え、ああ」
男の肩を叩き、リュールは酒場の出口に向かった。一通り食事もして、情報がないのであれば長居する理由もない。タダ飯ぐらいも性にあわないので、テーブルには数枚の硬貨を置いておいた。
「行くぞ」
「あ、はいっ!」
通りがかりに、リュールの自慢話を続けていたブレイダを制する。詳細はしっかり伏せていたが、あまり過大な評価をされても困る。期待が独り歩きすると、結果的にお互い不幸になるものだ。
「狼の件、なにかあれば教えてくれ」
「お、おい、まだ早いだろう」
「すまんな、疲れてる」
「リュール様に感謝してくださいね!」
そう言い残し、ドアを開いた。引き止める声は気付かないふりをした。あの感覚に馴染むのは怖い。外はすっかり暗くなっていた。
「リュール」
「ん?」
酒場の入り口近くの人影に名を呼ばれた。
「ちょっと、呼び捨てとはしつれ、へぶ」
その発音には覚えがあった。ブレイダの顔を押さえつつ、記憶を探る。
「まさか」
酒場から漏れる薄明かりに照らされた男の背丈は、リュールより少し低い。長めの黒髪に隠された鋭い眼光は、やはり覚えがあった。
傭兵団が壊滅した時に別れ別れとなり、死んだと思っていた。時が経ち、容貌は多少変わっていたが、その雰囲気は同じだった。
「ルヴィエか?」
リュールはかつての親友の名を口にした。
酒場での情報収集は、騎士団から与えられた資金にものを言わせるつもりだった。しかし、リュールが狼の魔獣を狩ったと知られると、逆に大歓待を受けることになった。
「いや、俺は仕事をしただけで……」
「あの狼には困っていたんだよ!」
「さすが騎士様だ!」
リュールの困惑とは無関係に、酒場は妙な盛り上がりをみせた。普段酒場に来ないような女子供まで、リュールを一目見ようと集まっているようだった。
命を脅かす存在が排除されたのだから、安心感と開放感は大きかったのだろう。テーブルには酒と料理が次々と並び、まるで宴会だった。
悪い気にはならないものの、こういう雰囲気は得意ではない。大人数で騒ぐと、どうしてもあの頃を思い出してしまう。
「付き人のお嬢ちゃんも、ありがとうな」
「私ではなく、もっとリュール様を称えてください」
「ああ、英雄だな、リュール様は!」
「はい! その通りです!」
ブレイダはブレイダで、町の人々と盛り上がっている。酒は飲んでいないし飲まないのだが、あの調子だ。場に酔っているというものか。
照れくさくなりつつも、やるべきことはやらねばならない。リュールは楽しげな空気に飲まれないよう、気を引き締めた。
「聞きたいことがある」
「なんだい?」
リュールは酒もそこそこに、場を仕切る男に声をかけた。若いが町のリーダー格に見えた。
「狼に関することで、何か変わったことはなかったか? あれの発生原因を調べている」
「いや、知らないねぇ。森にいた狼にはちょくちょく人が襲われていたけどな。その回数が急に増えたくらいで」
急に増えたというのは、魔獣が現れてからのことだろう。そこに何かのきっかけがあるはずだが、ここではその情報は手に入りそうにない。
「邪魔したな」
「え、ああ」
男の肩を叩き、リュールは酒場の出口に向かった。一通り食事もして、情報がないのであれば長居する理由もない。タダ飯ぐらいも性にあわないので、テーブルには数枚の硬貨を置いておいた。
「行くぞ」
「あ、はいっ!」
通りがかりに、リュールの自慢話を続けていたブレイダを制する。詳細はしっかり伏せていたが、あまり過大な評価をされても困る。期待が独り歩きすると、結果的にお互い不幸になるものだ。
「狼の件、なにかあれば教えてくれ」
「お、おい、まだ早いだろう」
「すまんな、疲れてる」
「リュール様に感謝してくださいね!」
そう言い残し、ドアを開いた。引き止める声は気付かないふりをした。あの感覚に馴染むのは怖い。外はすっかり暗くなっていた。
「リュール」
「ん?」
酒場の入り口近くの人影に名を呼ばれた。
「ちょっと、呼び捨てとはしつれ、へぶ」
その発音には覚えがあった。ブレイダの顔を押さえつつ、記憶を探る。
「まさか」
酒場から漏れる薄明かりに照らされた男の背丈は、リュールより少し低い。長めの黒髪に隠された鋭い眼光は、やはり覚えがあった。
傭兵団が壊滅した時に別れ別れとなり、死んだと思っていた。時が経ち、容貌は多少変わっていたが、その雰囲気は同じだった。
「ルヴィエか?」
リュールはかつての親友の名を口にした。
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