愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第3章 開戦

第33話『もったいないお言葉です』

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 周囲を囲む魔獣は六体。飛びかかるタイミングを見計らうように、同じ姿勢で身を伏せた。灰色の獣毛に覆われ、鋭い牙をむき出しにして唸る。視線が大人の胸ほどもある巨大な狼たちが行おうとしているのは、まさに狩りだった。

「狩るのはこっちだっての」
『ですよね! 失礼しちゃいます』

 マリム・ゼイラス率いるゼイラス騎士団に所属してから、しばらくの時が経った。その間、リュールたちは数え切れない程の魔獣を狩ってきた。騎士団から提供される魔獣の出現情報は、かなりの正確さを見せていた。

 魔獣の形状は猪だけではなく、様々な動物の姿をしていた。それも、マリムからの情報だ。
 そして、今対峙しているのは狼の魔獣。群れを構成し、組織的に襲ってくるのは非常に厄介だった。だが、今のリュールとブレイダの敵ではない。

「おい」
『はいっ!』

 元気な返事と共に、リュールの手に荷重がかかる。銀の刃のまま、鉄の剣だった時と変わらない重量になった。
 異常な軽さのブレイダは、斬り裂くだけであればとても扱いやすい。鉄製の剣であれば不可能な軌跡での攻撃が可能になるし、振り回すことでの疲れは皆無だ。
 しかし、大剣に慣れたリュールにとっては違和感のあるものだった。遠心力や重力の加わった鉄の塊は、斬ること以外にも意味を持つ。

「いくぞ」
『はい!』

 正面の魔獣に向けて、リュールはブレイダを横凪に振った。意図的に斬れ味を落とした刃は、灰色の巨体を斬りつけつつ吹き飛ばした。
 頭がふたつに裂け肉塊となったそれは、隣に位置していた魔獣に激突する。

「ふっ!」

 体勢を崩した魔獣に向かい、縦方向にブレイダを叩き込んだ。頭に銀色の刃がめり込む。
 複数の相手と戦うのであれば、連携を壊す必要がある。そのために、剣の質量としての威力は有効だ。
 魔獣との戦いは守ったら負ける。それはこれまでの経験で充分わかっていた。奴らの力はまともな動物ではない。常に攻め続けることが重要だ。

『リュール様、後ろ!』
「おう」

 リュールにしか聞こえない声と共に、手から重さが消えた。すぐさまブレイダを持ち上げ、背後に向け片手で一閃。
 隙をついたつもりだったのだろう。後ろから飛びかかった魔獣の体は、ふたつに分断された。魔獣は多少の知能がある。これもマリムから聞かされていた情報だ。

 重量や斬れ味を変化させ活用する戦法は、ブレイダの考案によるものだった。猪型の魔獣と戦っている際、剣筋の違和感に気が付いたらしい。リュールの戦い方を熟知しているからこその提案だった。

 宿場町に滞在している間に、ブレイダはレピアから重量や斬れ味を変化させる方法を聞き出していた。その行動を知って驚いたリュールに対し愛剣は「リュール様のお役に立ちたくて。それに、あの人たちは話がわかります」と笑った。
 ブレイダとレピア、そしてレミルナ も、いつの間にか友人のようになっていた。どうやらレミルナの恋愛話で意気投合したらしい。剣とはいえ女同士、通じるものがあるのかもしれない。
 戦い方の幅が広がったのは、その成果とも言えた。おかげで、さしたる苦戦はせずに魔獣を狩ることができるようになっていた。

 特に指示もなく、適切なタイミングで重量や斬れ味を変える。リュールとブレイダの信頼関係だからこその芸当だった。
 通常の剣術と、ブレイダだからできる無茶な剣さばき。普通では不可能な戦法は非常に有効だった。六体の狼型魔獣を狩り尽くすのに、さして時間を必要としなかった。

「終わったな」
『はい! お疲れ様でした』
「いつも助かる」
『もったいないお言葉です。でも、そう言っていただけて私は幸せです』

 魔獣の出現情報はわかっても、その正体や現れる条件は不明のままだ。対処療法的に狩るだけでは被害は増えるばかり。リュールは少しの焦りを感じたまま、その場を後にした。
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