33 / 86
第2章 魔獣狩り
第32話「魔獣狩りですね!」(第2章 魔獣狩り 完)
しおりを挟む
部屋に取り残され男二人の間には、微妙な空気が漂っていた。少なくともリュールは、このままさぐり合うような会話をする気分にはなれない。
「結論だけ言うぞ」
「ああ、助かるよ」
どうやらマリムも近しいことを考えていたようだ。男同士の不可思議な合意が、話を前に進ませた。
「魔獣狩りと言ったやつ、引き受けてもいい」
「そうか。嬉しいよ」
リュールの言葉に、マリムは顔をほころばせる。やっと本音が見えた気がした。
「ただし、あんたの手下になるつもりはない。あくまでも契約だ。あんたは俺に情報を提供して金を出す。俺は魔獣を斬る。それだけだ」
「ふむ……」
「問題でも?」
首を傾けるマリムに、リュールは不穏なものを感じた。何か不利な条件でも突きつけるつもりなのだろうか。
「リュール殿には、私の騎士団に入団してもらおうと思っていたのでね」
「あ? それは嫌だね。群れるのはごめんだ」
かつて身を寄せていた傭兵団を思い出す。レミルナも雑用係として働いていた傭兵団だ。あんな喪失感は二度と味わいたくない。
リュールのような傭兵は、騎士団に良い印象を持っていない。マリムが率いるゼイラス騎士団が他と違うのは理解できる。しかし、騎士団は騎士団だ。貴族の次男で構成された騎士団が出す酷い命令で、何度死地に放り込まれただろうか。積み重なった恨みを忘れることはできない。
「入団といっても、形だけのものだから安心してもらいたい」
「どういうことだ?」
「説明させてほしいが、いいかな?」
「ああ」
マリムの説明によると、騎士団の組織は一枚岩ではないらしい。名誉職である通常の騎士団はふたつあり、それぞれ権力を争っているとのことだ。
マリムは戦争中からその構造は変わっていないと言う。そんなことにまったく興味がなかったリュールは、全て初耳だった。
「くだらねぇ話だな」
「私もそう思うよ」
平民で構成されたゼイラス騎士団は、その派閥争いから外れたところにある。一応は正規軍との名目だが、実戦のみに特化した集団の扱いは傭兵と大差なかった。
「我が騎士団は、軍事管理府からの許可がなくては動けなくてね。今は魔獣の駆除を一任されている」
「ほぅ」
「何か事態が動けば報告の義務があるというわけなんだ。でも、幸いにも団員の管理は一任されていてね。例えば、レミィやレピアのこととか」
「そういうことかよ」
剣が人になるなんて貴族共に知られたら、必ず面倒なことになる。ましてや、傭兵出身の者であるなら、無茶に利用されるのは明白だ。
「どうだろうか? 我が騎士団に入団するというのは。報酬と情報は保証するよ」
「下手くそな勧誘だな」
「交渉は苦手でね」
リュールはにやりと笑ってみせた。先程までの不快感はどこかに消えていた。今は姿を隠しているあの三人のおかげかもしれない。
「俺が欲しい情報はみっつだ」
「聞こうか」
「魔獣の居場所、魔獣の正体、剣が人になる意味」
リュールは指を三本立てた。マリムは興味深げにそれを見つめた。
「ふむ、後ろふたつは我々も知りたいところだね」
「知ったら共有だ。この約束を守る条件で、形だけ所属してやる」
「ああ、わかったよ」
マリムが右手を差し出した。リュールは乱暴にそれを握った。
それと同時に、応接室のドアが勢いよく開く。
「リュール様! この人たち意外と話が通じます……あれ?」
「おう」
手を握る男同士を見て、ブレイダは驚いた様子だ。それもそうだろう、リュール自身も不思議な光景だと思う。
「俺達は今日から魔獣狩りというわけだ」
「魔獣狩りですね! よくわかりませんが、わかりました!」
応接室に、少女の元気な声が響いた。
第2章 魔獣狩り 完
「結論だけ言うぞ」
「ああ、助かるよ」
どうやらマリムも近しいことを考えていたようだ。男同士の不可思議な合意が、話を前に進ませた。
「魔獣狩りと言ったやつ、引き受けてもいい」
「そうか。嬉しいよ」
リュールの言葉に、マリムは顔をほころばせる。やっと本音が見えた気がした。
「ただし、あんたの手下になるつもりはない。あくまでも契約だ。あんたは俺に情報を提供して金を出す。俺は魔獣を斬る。それだけだ」
「ふむ……」
「問題でも?」
首を傾けるマリムに、リュールは不穏なものを感じた。何か不利な条件でも突きつけるつもりなのだろうか。
「リュール殿には、私の騎士団に入団してもらおうと思っていたのでね」
「あ? それは嫌だね。群れるのはごめんだ」
かつて身を寄せていた傭兵団を思い出す。レミルナも雑用係として働いていた傭兵団だ。あんな喪失感は二度と味わいたくない。
リュールのような傭兵は、騎士団に良い印象を持っていない。マリムが率いるゼイラス騎士団が他と違うのは理解できる。しかし、騎士団は騎士団だ。貴族の次男で構成された騎士団が出す酷い命令で、何度死地に放り込まれただろうか。積み重なった恨みを忘れることはできない。
「入団といっても、形だけのものだから安心してもらいたい」
「どういうことだ?」
「説明させてほしいが、いいかな?」
「ああ」
マリムの説明によると、騎士団の組織は一枚岩ではないらしい。名誉職である通常の騎士団はふたつあり、それぞれ権力を争っているとのことだ。
マリムは戦争中からその構造は変わっていないと言う。そんなことにまったく興味がなかったリュールは、全て初耳だった。
「くだらねぇ話だな」
「私もそう思うよ」
平民で構成されたゼイラス騎士団は、その派閥争いから外れたところにある。一応は正規軍との名目だが、実戦のみに特化した集団の扱いは傭兵と大差なかった。
「我が騎士団は、軍事管理府からの許可がなくては動けなくてね。今は魔獣の駆除を一任されている」
「ほぅ」
「何か事態が動けば報告の義務があるというわけなんだ。でも、幸いにも団員の管理は一任されていてね。例えば、レミィやレピアのこととか」
「そういうことかよ」
剣が人になるなんて貴族共に知られたら、必ず面倒なことになる。ましてや、傭兵出身の者であるなら、無茶に利用されるのは明白だ。
「どうだろうか? 我が騎士団に入団するというのは。報酬と情報は保証するよ」
「下手くそな勧誘だな」
「交渉は苦手でね」
リュールはにやりと笑ってみせた。先程までの不快感はどこかに消えていた。今は姿を隠しているあの三人のおかげかもしれない。
「俺が欲しい情報はみっつだ」
「聞こうか」
「魔獣の居場所、魔獣の正体、剣が人になる意味」
リュールは指を三本立てた。マリムは興味深げにそれを見つめた。
「ふむ、後ろふたつは我々も知りたいところだね」
「知ったら共有だ。この約束を守る条件で、形だけ所属してやる」
「ああ、わかったよ」
マリムが右手を差し出した。リュールは乱暴にそれを握った。
それと同時に、応接室のドアが勢いよく開く。
「リュール様! この人たち意外と話が通じます……あれ?」
「おう」
手を握る男同士を見て、ブレイダは驚いた様子だ。それもそうだろう、リュール自身も不思議な光景だと思う。
「俺達は今日から魔獣狩りというわけだ」
「魔獣狩りですね! よくわかりませんが、わかりました!」
応接室に、少女の元気な声が響いた。
第2章 魔獣狩り 完
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説


どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる