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第2章 魔獣狩り
第29話「リュール様に恐れをなしたとか」
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リュールとブレイダは、三日間その村に滞在した。夜には松明を手に見回り、明るくなってから休息をとる。夜にだけ現れると確定したわけではないため、昼間も深くは寝られない。
それなりに神経をすり減らす三日間だった。
「魔獣、来ませんでしたね」
「そうだな」
昼夜逆転生活は四日目の朝を迎えた。その間に魔獣が現れることはなく、精神的にも体力的にも辛くなってきたところだ。
「あの三匹が全部だったんでしょうか」
「そうかもしれんな」
「もしくは、リュール様に恐れをなしたとか」
「だといいな」
「はいっ!」
リュールの気分としては、もうしばらく村に残ってもいいと思っていた。今夜にでも襲撃があったら寝覚めが悪い。それと同時に、いつまでも留まっていられない理由も感じていた。
「今夜現れなければ、一旦戻ろう」
「はい」
「とりあえず、寝よう」
「そうですね、寝ましょう。おやすみなさい!」
リュールはそのまま、体を寝床にあずけた。四日目となるとブレイダも慣れたもので、体を大の字に寝転がる。初日の初々しさはどこかに消えていた。リュールとしては、これくらいが気楽でいい。
その夜も、魔獣が姿を見せることはなかった。
リュールは再度、何枚かの硬貨を渡して村を後にした。
「差し出がましいことを言うようですが、あんなに渡してもよかったのでしょうか?」
「結果的に何の役にも立たなかったからな。詫びの意味もある。それに、金ならあの野郎に請求すればいい」
「なるほど! あのスカしにたかる! それは大変失礼しました!」
リュールは金銭の扱いが雑だった。
まずはマリムの待つ宿場町に向かう。残りの報酬を受け取ると共に、問い詰めなければならないことが山ほどある。
数年前から出没していたらしい魔獣とは何か。どこから現れ、どれだけの数が存在しているのか。増えることはあるのか。なぜ人だけを狙うのか。全滅させることはできるのか。
リュールの内心では既に、自分とブレイダで戦う意志ができあがりつつあった。そのためには情報が必要だ。
「ん」
「リュール様」
「ああ」
周囲が木々に囲まれた道に差し掛かった時、リュールは人の気配を感じた。ブレイダも同様のようだった。
いつかの野盗が持っていたような粗野で攻撃的なものではない。無駄に動かず、付かず離れず、冷静にこちらを観察している。
そんなことをする心当たりはひとつしかない。
「おい、騎士団の使いか?」
リュールは大きめの声を上げる。一瞬気配が動く感覚があったが、さらに身を潜めたようだ。
「ち、やってくれたな」
「ですね。戻ったら殺りますか」
「殺らねぇけどな」
恐らくリュールの行動を監視していたのだろう。大金を渡す相手として、そこまで信用していないということだ。何人かで交代しつつ見張ってたとしたら、リュールの行動はマリムに筒抜けになっている。
もしかしたらブレイダの事も知られているかもしれない。剣が人になるなど、にわかには信じられないとは思う。しかし、魔獣というものを見た者なら、現実離れした情報も受け入れるだろう。
魔獣を狩るつもりはあれども、その手段を晒してしまうのにリュールは危機感を持っていた。ブレイダを奪われる可能性だってある。
「やっちまったなぁ」
「へ?」
「お前のことも、見られてただろうな」
「それは、良くないですね。や」
「殺らないからな」
「はい」
とはいえ、歴戦の騎士団と敵対するのは避けたい。ブレイダの発言を遮りながら、リュールはどう交渉するか思案していた。
それなりに神経をすり減らす三日間だった。
「魔獣、来ませんでしたね」
「そうだな」
昼夜逆転生活は四日目の朝を迎えた。その間に魔獣が現れることはなく、精神的にも体力的にも辛くなってきたところだ。
「あの三匹が全部だったんでしょうか」
「そうかもしれんな」
「もしくは、リュール様に恐れをなしたとか」
「だといいな」
「はいっ!」
リュールの気分としては、もうしばらく村に残ってもいいと思っていた。今夜にでも襲撃があったら寝覚めが悪い。それと同時に、いつまでも留まっていられない理由も感じていた。
「今夜現れなければ、一旦戻ろう」
「はい」
「とりあえず、寝よう」
「そうですね、寝ましょう。おやすみなさい!」
リュールはそのまま、体を寝床にあずけた。四日目となるとブレイダも慣れたもので、体を大の字に寝転がる。初日の初々しさはどこかに消えていた。リュールとしては、これくらいが気楽でいい。
その夜も、魔獣が姿を見せることはなかった。
リュールは再度、何枚かの硬貨を渡して村を後にした。
「差し出がましいことを言うようですが、あんなに渡してもよかったのでしょうか?」
「結果的に何の役にも立たなかったからな。詫びの意味もある。それに、金ならあの野郎に請求すればいい」
「なるほど! あのスカしにたかる! それは大変失礼しました!」
リュールは金銭の扱いが雑だった。
まずはマリムの待つ宿場町に向かう。残りの報酬を受け取ると共に、問い詰めなければならないことが山ほどある。
数年前から出没していたらしい魔獣とは何か。どこから現れ、どれだけの数が存在しているのか。増えることはあるのか。なぜ人だけを狙うのか。全滅させることはできるのか。
リュールの内心では既に、自分とブレイダで戦う意志ができあがりつつあった。そのためには情報が必要だ。
「ん」
「リュール様」
「ああ」
周囲が木々に囲まれた道に差し掛かった時、リュールは人の気配を感じた。ブレイダも同様のようだった。
いつかの野盗が持っていたような粗野で攻撃的なものではない。無駄に動かず、付かず離れず、冷静にこちらを観察している。
そんなことをする心当たりはひとつしかない。
「おい、騎士団の使いか?」
リュールは大きめの声を上げる。一瞬気配が動く感覚があったが、さらに身を潜めたようだ。
「ち、やってくれたな」
「ですね。戻ったら殺りますか」
「殺らねぇけどな」
恐らくリュールの行動を監視していたのだろう。大金を渡す相手として、そこまで信用していないということだ。何人かで交代しつつ見張ってたとしたら、リュールの行動はマリムに筒抜けになっている。
もしかしたらブレイダの事も知られているかもしれない。剣が人になるなど、にわかには信じられないとは思う。しかし、魔獣というものを見た者なら、現実離れした情報も受け入れるだろう。
魔獣を狩るつもりはあれども、その手段を晒してしまうのにリュールは危機感を持っていた。ブレイダを奪われる可能性だってある。
「やっちまったなぁ」
「へ?」
「お前のことも、見られてただろうな」
「それは、良くないですね。や」
「殺らないからな」
「はい」
とはいえ、歴戦の騎士団と敵対するのは避けたい。ブレイダの発言を遮りながら、リュールはどう交渉するか思案していた。
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