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第2章 魔獣狩り
第27話『どうかご意志のままに』
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三体目の魔獣を屠った後は、警戒しつつ村を捜索した。どうやらこれで終わりのようだった。
生き残った村人は、助けた少年を含めおよそ二十名。怪我人もいるが、とりあえず死にはしない程度だ。
「ありがとうございます。言葉でしかお礼ができませんで……」
リュールに向けて感謝の言葉を連呼するのは、初老の男だ。生き残りの中では最年長らしい。
「俺は仕事で来ただけだよ」
『そうです。リュール様をもっと称えるのです』
剣になったブレイダの声は、リュールにしか聞こえないらしい。怪しまれるのは避けたいため、人前では返事をしないとあらかじめ言ってある。
「それでも、命を救ってくださいました」
「そうか」
「しかし、半分以上は……」
周りの人々がリュールを見つめている。全てが男と同意見ではないようだった。
ただ安堵し涙する者。突然の理不尽に、呆然とする者。そして、やり場のない怒りをリュールに向ける者。
「俺はこれで」
「あの……我々はこれからどうすれば……」
「知らねぇよ」
「そう……ですか」
隣人や家族が死に、住処を焼かれた者たちはこれからどう生きるのだろうか。戦い、殺すことで生きてきたリュールには想像もできない。ましてや、救ってやることも導いてやることも、できるわけがない。
こうなってしまってからでは、何もできない。ならば、こうなる前にあれを狩る。報酬とは無関係な衝動が、リュールの心を追い立てているようだった。
「ひとつ教えてくれ。あれは、いつやってきた?」
「日が落ちた頃です」
「そうか、わかった。では」
宿場町の時もそうだった。あれと対峙するのは、いつも夜だ。確信とまではいかないが、戦うにあたっての指標のひとつにはなるだろう。
まずはもうひとつの村を見回り、状況を確認する。しばらく滞在して、魔獣が出なければそれで契約は達成だ。宿場町に戻り、あのいけ好かない騎士団長にたんまりと報酬を請求することにしよう。
不安げな男の視線から目を逸らし、リュールは踵を返した。歩き出そうとしたその時、外套が引っ張られる感覚があった。
「あの……」
振り向いた先には、先程助けた少年がリュールの外套を引っ張っていた。恐る恐るといった顔で、こちらを見上げている。リュールは子供に好かれる外観をしていないことを自覚していた。
「なんだ?」
「た、助けてくれて、ありがとう」
未だ怯えが抜けきっていない目には、精一杯の力があるように見えた。
「そうか」
リュールは少年の頭を軽く撫でた。
父がしてくれたことを、おぼろげに思い出す。顔も声も忘れてしまったが、こうやって撫でられた記憶だけは残っていた。
「じゃあな、生きろよ」
少年に声をかけ、滅びかけた村を後にした。
「なぁ」
『はい、なんでしょうか』
「魔獣狩りって商売になると思うか?」
リュールは剣の姿をしたままのブレイダに問いかけた。どうでもいい質問だ。照れくさくて、本当に聞いてほしいことは言葉にならない。
『商売については、わかりません。でも、私はリュール様の剣です。どんなことでも、どこまででもお供します。それは変わりません』
「そうか」
『あの、ひとつだけ意見をしてもよろしいでしょうか』
「ああ」
『戦いの中、リュール様の命を心配して差し出がましいことを言ってしまい、叱られてしまいました』
「ああ、そうだな」
『たぶんあれが、リュール様の気持ちなのだと思います。だから、どうかご意志のままに。重ねて言いますが、私はリュール様の剣です』
「そうか」
今の姿そのままの真っ直ぐな言葉。それを聞いたリュールは、心が軽くなったような気がした。
生き残った村人は、助けた少年を含めおよそ二十名。怪我人もいるが、とりあえず死にはしない程度だ。
「ありがとうございます。言葉でしかお礼ができませんで……」
リュールに向けて感謝の言葉を連呼するのは、初老の男だ。生き残りの中では最年長らしい。
「俺は仕事で来ただけだよ」
『そうです。リュール様をもっと称えるのです』
剣になったブレイダの声は、リュールにしか聞こえないらしい。怪しまれるのは避けたいため、人前では返事をしないとあらかじめ言ってある。
「それでも、命を救ってくださいました」
「そうか」
「しかし、半分以上は……」
周りの人々がリュールを見つめている。全てが男と同意見ではないようだった。
ただ安堵し涙する者。突然の理不尽に、呆然とする者。そして、やり場のない怒りをリュールに向ける者。
「俺はこれで」
「あの……我々はこれからどうすれば……」
「知らねぇよ」
「そう……ですか」
隣人や家族が死に、住処を焼かれた者たちはこれからどう生きるのだろうか。戦い、殺すことで生きてきたリュールには想像もできない。ましてや、救ってやることも導いてやることも、できるわけがない。
こうなってしまってからでは、何もできない。ならば、こうなる前にあれを狩る。報酬とは無関係な衝動が、リュールの心を追い立てているようだった。
「ひとつ教えてくれ。あれは、いつやってきた?」
「日が落ちた頃です」
「そうか、わかった。では」
宿場町の時もそうだった。あれと対峙するのは、いつも夜だ。確信とまではいかないが、戦うにあたっての指標のひとつにはなるだろう。
まずはもうひとつの村を見回り、状況を確認する。しばらく滞在して、魔獣が出なければそれで契約は達成だ。宿場町に戻り、あのいけ好かない騎士団長にたんまりと報酬を請求することにしよう。
不安げな男の視線から目を逸らし、リュールは踵を返した。歩き出そうとしたその時、外套が引っ張られる感覚があった。
「あの……」
振り向いた先には、先程助けた少年がリュールの外套を引っ張っていた。恐る恐るといった顔で、こちらを見上げている。リュールは子供に好かれる外観をしていないことを自覚していた。
「なんだ?」
「た、助けてくれて、ありがとう」
未だ怯えが抜けきっていない目には、精一杯の力があるように見えた。
「そうか」
リュールは少年の頭を軽く撫でた。
父がしてくれたことを、おぼろげに思い出す。顔も声も忘れてしまったが、こうやって撫でられた記憶だけは残っていた。
「じゃあな、生きろよ」
少年に声をかけ、滅びかけた村を後にした。
「なぁ」
『はい、なんでしょうか』
「魔獣狩りって商売になると思うか?」
リュールは剣の姿をしたままのブレイダに問いかけた。どうでもいい質問だ。照れくさくて、本当に聞いてほしいことは言葉にならない。
『商売については、わかりません。でも、私はリュール様の剣です。どんなことでも、どこまででもお供します。それは変わりません』
「そうか」
『あの、ひとつだけ意見をしてもよろしいでしょうか』
「ああ」
『戦いの中、リュール様の命を心配して差し出がましいことを言ってしまい、叱られてしまいました』
「ああ、そうだな」
『たぶんあれが、リュール様の気持ちなのだと思います。だから、どうかご意志のままに。重ねて言いますが、私はリュール様の剣です』
「そうか」
今の姿そのままの真っ直ぐな言葉。それを聞いたリュールは、心が軽くなったような気がした。
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