愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
26 / 86
第2章 魔獣狩り

第25話『無理に守らなくてもいいのでは?』

しおりを挟む
 ただでさえ巨大だった魔獣。転がっている死体でもまともな猪ではない。しかし、今こちらを見ているのは、これまでの二体とは比べ物にならない大きさだ。
 震える少年をかばうように、リュールはブレイダを構えた。

「でかいな」
『でかいですね』

 背中がリュールの目線から遥か上にある。一振で切り伏せるのは難しいだろう。そもそも、刃が届くかどうかが問題だ。剣のような牙は、ブレイダよりも長い。
 唸り声を上げた魔獣は、地面を蹴る準備をしている。このまま突進されたら、背後にいる少年は瞬時に肉塊へと変わってしまう。

「こっちだ!」

 魔獣が動き出す前にリュールは駆け出した。巨体の側面に回り、叫ぶ。
 狙いは注意をこちらに向けることだ。少年には証人になってもらわねばならない。あのいけ好かない団長から、追加報酬をむしり取るための。

 残念ながら、リュールの目論見はすぐに崩れてしまう。魔獣はそのまま後ろ足を蹴り、少年に向けて突進した。

「くそ!」

 リュールは苦し紛れにブレイダを振った。以前の剣であれば、無理な体勢からではまともな威力はでない。それどころか、重さで取り落としてしまうはずだ。
 しかし、ブレイダの軽さであれば、片手でも充分に扱える。そして、破格の斬れ味は落ちない。

 ブレイダの切っ先は、右の後ろ足を捉えていた。かすった程度ではあるが、太く力強い足から血液が流れ出る。
 おかげで突進の軌道がずれた。魔獣は少年の横を通過し、炎の中に消える。

「逃げろ!」

 リュールが少年に向かって叫んだ。

「あ、ああ……」

 既に恐慌状態にあった少年は、首を振るばかりで動こうとはしない。
 魔獣はすぐにでも戻ってくるだろう。あれは火事に巻き込まれた程度で止まるものではない。

「ちっ」
『リュール様、無理に守らなくてもいいのでは?』
「そうだが、そうじゃないんだよ」
『わかりました。ご意志に従います』

 用心棒の仕事も、結果的には誰かを助けることになっていた。ただし、あくまでも収入のためだ。リュール自身は盗賊でも構わなかった。ただ、盗み奪うという行為が気に入らなかっただけに過ぎない。

 少年を守ることは、報酬の上乗せを狙ってのものだ。だから金のため。そのはずだ。だから、命を張るほどのものではないのだ。
 ブレイダの提案はもっともだと思う。証人ならば、他に探せばいい。しかし、そうではない感覚がリュールを動かしていた。

「ちっ!」

 リュールは少年の腕を掴み、軽く放り投げた。せめて隅にいてくれた方がやりやすい。転がった先で丸くなっていてくれ。

『来ます!』
「おう!」

 魔獣の突進に備え、リュールは身を低くした。
 まずは前足を斬り落とし転ばせる。その後は首をはねるなり、全身を斬り刻むなりすればいい。巨体ならば、それを支える足への負担は大きいはずだ。

 唸り声と共に、炎をまとった魔獣が迫る。

「しまった!」

 リュールは自分の予想が甘かったことに気付いた。あれに対して、待ちの姿勢は愚策だった。
 魔獣は頭を低くして、牙を突き出すような姿勢で突進してきていた。これでは牙に阻まれ前足を斬ることはできない。

「ふっ!」

 作戦変更だ。まずは邪魔な牙をどうにかしなければ。紙一重で牙をかわし、タイミングを合わせてブレイダを縦に一振。

「よし!」

 小気味よい金属音を立てて、向かって左側の牙が折れた。これならいけると確信する。
 その時、リュールの背中に衝撃がはしった。

「なっ……ぐぅ!」

 小さくも鋭い牙が、リュールの背中から腹を貫いていた。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...