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第2章 魔獣狩り
第25話『無理に守らなくてもいいのでは?』
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ただでさえ巨大だった魔獣。転がっている死体でもまともな猪ではない。しかし、今こちらを見ているのは、これまでの二体とは比べ物にならない大きさだ。
震える少年をかばうように、リュールはブレイダを構えた。
「でかいな」
『でかいですね』
背中がリュールの目線から遥か上にある。一振で切り伏せるのは難しいだろう。そもそも、刃が届くかどうかが問題だ。剣のような牙は、ブレイダよりも長い。
唸り声を上げた魔獣は、地面を蹴る準備をしている。このまま突進されたら、背後にいる少年は瞬時に肉塊へと変わってしまう。
「こっちだ!」
魔獣が動き出す前にリュールは駆け出した。巨体の側面に回り、叫ぶ。
狙いは注意をこちらに向けることだ。少年には証人になってもらわねばならない。あのいけ好かない団長から、追加報酬をむしり取るための。
残念ながら、リュールの目論見はすぐに崩れてしまう。魔獣はそのまま後ろ足を蹴り、少年に向けて突進した。
「くそ!」
リュールは苦し紛れにブレイダを振った。以前の剣であれば、無理な体勢からではまともな威力はでない。それどころか、重さで取り落としてしまうはずだ。
しかし、ブレイダの軽さであれば、片手でも充分に扱える。そして、破格の斬れ味は落ちない。
ブレイダの切っ先は、右の後ろ足を捉えていた。かすった程度ではあるが、太く力強い足から血液が流れ出る。
おかげで突進の軌道がずれた。魔獣は少年の横を通過し、炎の中に消える。
「逃げろ!」
リュールが少年に向かって叫んだ。
「あ、ああ……」
既に恐慌状態にあった少年は、首を振るばかりで動こうとはしない。
魔獣はすぐにでも戻ってくるだろう。あれは火事に巻き込まれた程度で止まるものではない。
「ちっ」
『リュール様、無理に守らなくてもいいのでは?』
「そうだが、そうじゃないんだよ」
『わかりました。ご意志に従います』
用心棒の仕事も、結果的には誰かを助けることになっていた。ただし、あくまでも収入のためだ。リュール自身は盗賊でも構わなかった。ただ、盗み奪うという行為が気に入らなかっただけに過ぎない。
少年を守ることは、報酬の上乗せを狙ってのものだ。だから金のため。そのはずだ。だから、命を張るほどのものではないのだ。
ブレイダの提案はもっともだと思う。証人ならば、他に探せばいい。しかし、そうではない感覚がリュールを動かしていた。
「ちっ!」
リュールは少年の腕を掴み、軽く放り投げた。せめて隅にいてくれた方がやりやすい。転がった先で丸くなっていてくれ。
『来ます!』
「おう!」
魔獣の突進に備え、リュールは身を低くした。
まずは前足を斬り落とし転ばせる。その後は首をはねるなり、全身を斬り刻むなりすればいい。巨体ならば、それを支える足への負担は大きいはずだ。
唸り声と共に、炎をまとった魔獣が迫る。
「しまった!」
リュールは自分の予想が甘かったことに気付いた。あれに対して、待ちの姿勢は愚策だった。
魔獣は頭を低くして、牙を突き出すような姿勢で突進してきていた。これでは牙に阻まれ前足を斬ることはできない。
「ふっ!」
作戦変更だ。まずは邪魔な牙をどうにかしなければ。紙一重で牙をかわし、タイミングを合わせてブレイダを縦に一振。
「よし!」
小気味よい金属音を立てて、向かって左側の牙が折れた。これならいけると確信する。
その時、リュールの背中に衝撃がはしった。
「なっ……ぐぅ!」
小さくも鋭い牙が、リュールの背中から腹を貫いていた。
震える少年をかばうように、リュールはブレイダを構えた。
「でかいな」
『でかいですね』
背中がリュールの目線から遥か上にある。一振で切り伏せるのは難しいだろう。そもそも、刃が届くかどうかが問題だ。剣のような牙は、ブレイダよりも長い。
唸り声を上げた魔獣は、地面を蹴る準備をしている。このまま突進されたら、背後にいる少年は瞬時に肉塊へと変わってしまう。
「こっちだ!」
魔獣が動き出す前にリュールは駆け出した。巨体の側面に回り、叫ぶ。
狙いは注意をこちらに向けることだ。少年には証人になってもらわねばならない。あのいけ好かない団長から、追加報酬をむしり取るための。
残念ながら、リュールの目論見はすぐに崩れてしまう。魔獣はそのまま後ろ足を蹴り、少年に向けて突進した。
「くそ!」
リュールは苦し紛れにブレイダを振った。以前の剣であれば、無理な体勢からではまともな威力はでない。それどころか、重さで取り落としてしまうはずだ。
しかし、ブレイダの軽さであれば、片手でも充分に扱える。そして、破格の斬れ味は落ちない。
ブレイダの切っ先は、右の後ろ足を捉えていた。かすった程度ではあるが、太く力強い足から血液が流れ出る。
おかげで突進の軌道がずれた。魔獣は少年の横を通過し、炎の中に消える。
「逃げろ!」
リュールが少年に向かって叫んだ。
「あ、ああ……」
既に恐慌状態にあった少年は、首を振るばかりで動こうとはしない。
魔獣はすぐにでも戻ってくるだろう。あれは火事に巻き込まれた程度で止まるものではない。
「ちっ」
『リュール様、無理に守らなくてもいいのでは?』
「そうだが、そうじゃないんだよ」
『わかりました。ご意志に従います』
用心棒の仕事も、結果的には誰かを助けることになっていた。ただし、あくまでも収入のためだ。リュール自身は盗賊でも構わなかった。ただ、盗み奪うという行為が気に入らなかっただけに過ぎない。
少年を守ることは、報酬の上乗せを狙ってのものだ。だから金のため。そのはずだ。だから、命を張るほどのものではないのだ。
ブレイダの提案はもっともだと思う。証人ならば、他に探せばいい。しかし、そうではない感覚がリュールを動かしていた。
「ちっ!」
リュールは少年の腕を掴み、軽く放り投げた。せめて隅にいてくれた方がやりやすい。転がった先で丸くなっていてくれ。
『来ます!』
「おう!」
魔獣の突進に備え、リュールは身を低くした。
まずは前足を斬り落とし転ばせる。その後は首をはねるなり、全身を斬り刻むなりすればいい。巨体ならば、それを支える足への負担は大きいはずだ。
唸り声と共に、炎をまとった魔獣が迫る。
「しまった!」
リュールは自分の予想が甘かったことに気付いた。あれに対して、待ちの姿勢は愚策だった。
魔獣は頭を低くして、牙を突き出すような姿勢で突進してきていた。これでは牙に阻まれ前足を斬ることはできない。
「ふっ!」
作戦変更だ。まずは邪魔な牙をどうにかしなければ。紙一重で牙をかわし、タイミングを合わせてブレイダを縦に一振。
「よし!」
小気味よい金属音を立てて、向かって左側の牙が折れた。これならいけると確信する。
その時、リュールの背中に衝撃がはしった。
「なっ……ぐぅ!」
小さくも鋭い牙が、リュールの背中から腹を貫いていた。
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