愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第2章 魔獣狩り

第23話「剣にはわからないことでしょうか」

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 小さな農村だった。過去形で呼ぶのは、そこに住んでいた人々は既に屍になっているからだ。死後そこまで時間が経っていないのだろう、腐乱の悪臭はこれから本番といったところだ。

「リュール様……」
「遅かったみたいだな」

 見上げるブレイダに同意を返す。五体満足な死体はどこにもなかった。そのどれもが、砕かれ、吹き飛ばされ、切断されていた。
 こんな芸当をやってのけるのは、あれしかない。魔獣と言われた、猪の化け物。

 破格の報酬に目が眩んだリュールは、魔獣退治を引き受けた。いくつか無茶な条件をつけたが、マリムは簡単に首を縦に振った。
 
 ひとつは、リュールとブレイダのみで対応すること。少女が剣になるところなど、騎士の連中には見せられない。
 もうひとつは、危険だと判断したら逃げ帰ることの許容。あの剣が同じ斬れ味を発揮する保証はないからだ。
 そして最後に、前金での報酬支払い。逃げ帰るにしても、かなりの危険がつきまとう。それで無報酬なのは避けたかった。マリムは苦笑いで報酬の一割を差し出した。これでも、暫くは稼ぐ必要がないほどの額だ。
 リュールは一瞬、そのまま雲隠れしてやろうとも考えたが、すぐに廃案にした。この騎士団から逃げ切れるとは、到底思えなかった。

 大金を懐に入れ、リュールたちは宿場町を後にした。
 道中、逃げ帰る口実になれば幸いと、剣に変化したブレイダで何度か試し斬りを行った。結果は良いのか悪いのか、リュールの腕を回した程の大木があっさりと切断できた。
 ブレイダは得意げだった。

 警戒しながら歩き、一晩野宿をした。ブレイダが率先して野営の準備をしようとするが、実に不器用だった。戦い以外は、これから覚えてもらう必要がありそうだ。
 翌朝、日が登りきる少し前、リュールたちは目的の農村に到着した。マリムの話では、まだ襲われていないとの事だったが、リュールの言葉通り少し遅かったようだ。

「殺し尽くしたら、奴はどうするだろうな」
「他を探して、殺すのかと」
「だよな」

 リュールもブレイダの意見に賛成だった。農作物には手をつけず、執拗に人だけを狙っている。まるで、恨みを晴らしているかのようだ。
 魔獣とやらに意思があるとは思えないし考えたくもない。ただ、目下の惨状はそうであると案に告げているようだった。

 死体の山は見慣れている。しかし、農村出身のリュールにとって、この光景は面白いものではなかった。親や兄弟を捨てて傭兵となったリュールでも、苦々しいものを感じる。

「犠牲者は少ない方がいいよな」
「そうですね。あのスカしに報酬の上乗せを要求できますね」
「まぁ、そういうことにしとくか」
「へ?」
「なんでもないよ」
「んー、剣にはわからないことでしょうか」

 ブレイダは実にリュールの剣らしい言い分を口にする。柄にもなく感傷に浸っていた自分をたしなめているようだ。
 無事と言われた農村はあと二箇所ある。その片方は急げは日が落ちる頃には辿り着けそうだ。守ってやり、あの騎士団長に偉そうな口を叩いてやろう。

「急ぐぞ」
「はいっ!」

 リュールは足早に歩き出す。前払い報酬で買い与えた外套をひるがえし、少女が後に続いた。
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