愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第2章 魔獣狩り

第22話「心配だったんですよー」

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 通された応接室には、町長を名乗る初老の男が待っていた。随分疲れている顔をしている。診療所の状況からすれば、致し方のないことだろう。

「どうぞ、おかけください」

 勧められるまま、椅子へと腰かけた。さすが応接室といったところか、綿が入っていて柔らかい。
 リュールたちを待って、向かいの席に町長が座った。その傍らには、マリムが直立している。彼は座る気がないようだ。

「この度は、なんとお礼を言っていいやら」

 町長は口を開くなり、深く頭を下げた。魔獣と呼ばれた猪のことだとはわかっていたが、素直に認める気になれなかった。

「なんのことだ?」
「あの獣を退治されたと聞きまして」

 毛髪の少なくなった頭に汗をかきつつ、町長はマリムを見上げた。どうやら、騎士団の威光とリュールの眼光に恐縮しきっているようだった。

「僭越ながら、続きは私が」

 これも予想していたのだろう。滑らかな口調でマリムが話し始めた。

「戦が集結する少し前かな、巨大な獣が現れるようになった。そいつはまともな獣ではなくてね。ただ大きいだけでなく、人を狙うんだ。老若男女の区別なくね」
「ほう、それは大変だな」
「はぁ、大変ですね」
「君も知っている通り、普通に駆除できるものではないんだ。強すぎてね。まさに魔獣だよ」
「そうか、強いのか」
「強いんですね」

 マリムは、とぼけるリュールとブレイダを無視して続ける。お見通しなのだろう。

「その対処として、我々が動員された。国同士の戦いよりも魔獣を狩ることが優先されたんだ。それも、両国共に」
「おい、じゃあ」
「そう、戦争が終わった大きな要因だよ。あんまり知られていないけどね」

 終戦でリュールは食い扶持を失った。その原因は、あの魔獣だったらしい。

「理由もわからない戦争よりもね、困っている人々を救うほうが随分とやりがいがあったよ。でも、二百人を超えていた無敵の兵が、今や五十もいない」

 マリムは目を閉じ、項垂れた。リュールはその姿に、所属する傭兵団を失った日を思い出した。

「それでも、人々のために最後の一人まで戦うつもりだよ」
「そいつは大層な誓いで」

 リュールは感情を殺して呟くのが精一杯だった。ブレイダと出会って、甘さが戻ってきたのかもしれない。

「この辺りに魔獣が出るとの情報があってね、兵を哨戒にあたらせていたら、貴方を診療所に運び込んだという報告があった」
「あーあんたの部下だったのか。助かったよ」
「そして、その近くには、頭から尻まで真っ二つになった魔獣の死骸だ。その場に伝説の傭兵と名高いリュール・ジガン殿がいるなら、そういうことだと普通は思うさ」

 マリムは横目でにやりとした。その青い瞳は「逃がさない」と言っているようだった。

「待て待て、そもそも俺はリュール・ジガンじゃない。武器すら持ってないぞ、ほら?」
「そうですよ、決めつけです」
「私の部下がね、その女性が「リュール様」と連呼していたのを聞いていたんだよ」

 ため息をつきながら、マリムは吹き出すのを耐えているようだった。

「あ、あー」
「おい、お前」
「だって心配だったんですよー」

 小さな拳を振り回し、ブレイダは言い訳に必死だった。

「わかったよ、俺がリュール・ジガンだよ。でも今は剣を持っていないし、新しいのを持つ気もない。というわけで、俺は役に立たんよ。それじゃぁな」
「さらばです!」

 苦しい言い訳だと理解しつつも、一気にまくし立てリュールは席を立った。魔獣を狩るのを手伝えなどと言われたら、命がいくつあっても足りはしない。

「それもわかってるよ。だから、これだ」

 金属が擦れる音とともに、応接室のテーブルに皮袋が置かれた。マリムはリュールを見て、不敵に口元を歪めた。

「五年は遊んで暮らせる額だ。これで、私の騎士団に入ってほしい。もちろん、これはあくまでも契約金だよ。成功報酬は別に出す」
「話を聞こうか」
「ですね!」

 背に腹はかえられぬとは、こういうことだった。
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