愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第2章 魔獣狩り

第20話「殺りますか?」

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 赤髪の男は、よく通る声でリュールを呼び止めた。足を止めたふたりに、慌てた様子で駆け寄る。

「俺か?」
「ああ、あんただよ……間に合ってよかった……」

 男はかなり急いでいたのか、息も絶え絶えだった。身なりからすると貴族のようだ。リュールより頭半分ほど低いが体格は悪くない。おそらくは騎士だろう。

「ちょっとあなた、私のリュール様にしつれ、へぶ」
「なんの用だ?」

 食ってかかろうとしたブレイダの顔を押さえ、リュールは男を睨みつけた。
 傭兵は騎士にはあまり良い印象を持っていない。戦場で偉そうに指図してくる貴族のボンボンしか知らないからだ。
 それでも、目の前の男は体を鍛えているだけ、まだましに見えた。

「ああ、失礼。俺はザムス・シャルダン。見ての通り、騎士だ。平民出の下っ端だけどな」
「ほぅ」

 平民で構成された騎士団の存在は、噂には聞いたことがあった。武芸に秀でた者を集め、常に最前線で戦う。本来の騎士の意味に近い武闘派集団らしい。
 その過酷さと引き換えに、平民ながら貴族並みの待遇を受けるという。まさか実在していたとは。リュールは少しだけ驚いた。

「で、その騎士様がなんの用だい?」

 警戒を崩さず、改めて質問を返す。ザムスと名乗った男は、さほど物怖じしなかった。

「魔獣を狩ったあんたに頼みたいことがあって来た。まずは話を聞いてほしい」
「魔獣?」
「え、あんたじゃなかったのか? 女の子を連れたデカい黒髪の男って聞いてたけど」

 その特徴を言われれば、リュールたちにはぴったりと当てはまる。しかし、魔獣という言葉にはまるで心当たりがなかった。

「だから、魔獣ってなんだよ?」
「え? そこからかよ。昨夜出たのは、デカい猪の形だったらしいが」
「ほう、猪」
「そうそう、あれをぶった斬ったの、あんたなんだろ?」
「だから、しつれ、へぶ」

 再びブレイダの顔を押さえつつ、リュールは思案する。巨大な猪を魔獣と呼ぶのであれば、それを斬ったのはリュールとブレイダだ。
 ここでリュールが斬ったという事実をここで認めてしまうことは、得策とは思えなかった。騎士団を信用してはいけないというのは、傭兵の鉄則である。

「いや、知らんな」

 リュールは仏頂面のまま、知らない振りを決め込んだ。ここで正直に答えたら、面倒事に巻き込まれるのはわかりきっていた。もしかしたら、魔獣とやらが他にもいて、それと戦わせられるかもしれない。
 あんな化け物と戦うのはもうごめんだ。

「じゃあ、俺はこれで」
「さよならだ!」
「行くぞ」

 悪態をつくブレイダの後頭部を押しやり、リュールは役場に向けて歩き出した。

「待ってくれよ、あんた達だけで役場はだめだ!」

 喚くザムスを無視し、リュールは役場へと足を進めた。彼は数分後、それを後悔することになる。

「おいおい」

 役場のロビーには、完全武装した兵が待ち構えていた。ざっと見ても二十人以上が、思い思いに持った槍や剣をリュールに突きつける。

「まじかよ」
「リュール様、殺りますか? 殺りましょう」
「殺らねぇよ」

 観念したリュールは、両手を挙げた。
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