20 / 86
第2章 魔獣狩り
第19話『んー、暗殺とか』
しおりを挟む
二人部屋に並んだベッドには、それぞれ大柄な男と小柄な少女が座る。二人は真剣な表情で見つめ合っていた。
「ブレイダ」
『はい!』
ベッドに乗った大剣が返事をする。
「ブレイダ」
「はい!」
声掛けにしっかり応える少女を見て、リュールはため息をついた。
「そうみたいだな、ブレイダ」
『みたいですね』
鞘に収まった大剣は、動かないまま相槌を打った。朱色の飾り石が、木枠の窓から入る日差しを受けて輝いた。
「つまり、あれだ。名前を呼ぶと剣と人に入れ替わると」
『おそらくは』
リュールは多少心当たりがある。思い付きで名付けた翌朝、彼女は剣に戻っていた。そして、名を呼んだ際、ただの大剣は重さのない剣に変わった。あれが名付けの儀式みたいなものだったのだろう。
「そういうもんかね」
『おそらくは』
姿を変える方法はわかった。しかし、リュールはそれで納得したわけではない。そもそも、最初に人の姿になった理由は未だに不明なのだ。
そして、また別の問題にも直面していた。
「これ、一人部屋にしてもいいな」
『ですね』
それなりに残っていたはずの路銀が、底をつき始めていた。それもそのはず、多めに出した宿代、診療所への礼金、再度の風呂利用料。普通に生活するなら、十日は過ごせたはずだ。
「でも、あの女の子はどうした? ってなるよな」
『たしかに』
リュールは太い腕を組んだまま、首を傾ける。原因はどう考えても剣が人になったからなのだが、彼女の責任にはしたくなかった。ブレイダは自分の所有物であり、命を預けた相棒であるからだ。
『私、働きますよ』
「なんかやれるのか?」
『んー、暗殺とか』
「そういうの好きだな」
『剣ですから』
いくら剣とはいえ、少女の姿をした者に物騒な仕事はさせたくない。それはただの感傷であることは、リュール自身も理解していた。
剣の見た目をしていたらそれを使い、人を殺せるのだ。矛盾もいいところだと思う。
「役場に害獣駆除の求人があって受けようとしたんだよ」
『それって……』
「もしかしたら、あれだよな」
『かもしれませんね』
昨日は剣のおかげでなんとか生き残れた。しかし、次も上手くいくとは限らない。あの剣が、同じような斬れ味を発揮する保証はどこにもないのだ。
「俺がやったって思われるのも厄介だよな」
『ですねぇ』
リュールを診療所まで運んだ連中は、猪の死体を目にしているはずだ。そして、その近くで生き残っていた者がやったと考えるのが真っ当な考え方になる。バレてしまえば、問い詰められた挙句、便利に使われることが容易に想像できてしまう。
そういう意味では、ブレイダが少女になっていたのは幸運だ。大剣のままであったら、ほぼ確定だと思われるところだった。丸腰の状態だったから、まだしらばっくれる余地はある。
誤魔化すためにも、ブレイダにはこの町にいる間、少女の姿でいてもらおう。
「よし、とりあえず役場に行って、害獣が何なのか確認しよう。ヤバそうだったら、別の働き口を探す。いいな、ブレイダ」
「はい! リュール様のご意思の通りに」
リュールとブレイダは連れ立って宿を後にした。受付の女性のにやつきは、見ないふりをした。
「おーい、そこのあんた、待ってくれ!」
「ん?」
振り向いた先では、見知らぬ男がリュールに向け手を振っていた。
「ブレイダ」
『はい!』
ベッドに乗った大剣が返事をする。
「ブレイダ」
「はい!」
声掛けにしっかり応える少女を見て、リュールはため息をついた。
「そうみたいだな、ブレイダ」
『みたいですね』
鞘に収まった大剣は、動かないまま相槌を打った。朱色の飾り石が、木枠の窓から入る日差しを受けて輝いた。
「つまり、あれだ。名前を呼ぶと剣と人に入れ替わると」
『おそらくは』
リュールは多少心当たりがある。思い付きで名付けた翌朝、彼女は剣に戻っていた。そして、名を呼んだ際、ただの大剣は重さのない剣に変わった。あれが名付けの儀式みたいなものだったのだろう。
「そういうもんかね」
『おそらくは』
姿を変える方法はわかった。しかし、リュールはそれで納得したわけではない。そもそも、最初に人の姿になった理由は未だに不明なのだ。
そして、また別の問題にも直面していた。
「これ、一人部屋にしてもいいな」
『ですね』
それなりに残っていたはずの路銀が、底をつき始めていた。それもそのはず、多めに出した宿代、診療所への礼金、再度の風呂利用料。普通に生活するなら、十日は過ごせたはずだ。
「でも、あの女の子はどうした? ってなるよな」
『たしかに』
リュールは太い腕を組んだまま、首を傾ける。原因はどう考えても剣が人になったからなのだが、彼女の責任にはしたくなかった。ブレイダは自分の所有物であり、命を預けた相棒であるからだ。
『私、働きますよ』
「なんかやれるのか?」
『んー、暗殺とか』
「そういうの好きだな」
『剣ですから』
いくら剣とはいえ、少女の姿をした者に物騒な仕事はさせたくない。それはただの感傷であることは、リュール自身も理解していた。
剣の見た目をしていたらそれを使い、人を殺せるのだ。矛盾もいいところだと思う。
「役場に害獣駆除の求人があって受けようとしたんだよ」
『それって……』
「もしかしたら、あれだよな」
『かもしれませんね』
昨日は剣のおかげでなんとか生き残れた。しかし、次も上手くいくとは限らない。あの剣が、同じような斬れ味を発揮する保証はどこにもないのだ。
「俺がやったって思われるのも厄介だよな」
『ですねぇ』
リュールを診療所まで運んだ連中は、猪の死体を目にしているはずだ。そして、その近くで生き残っていた者がやったと考えるのが真っ当な考え方になる。バレてしまえば、問い詰められた挙句、便利に使われることが容易に想像できてしまう。
そういう意味では、ブレイダが少女になっていたのは幸運だ。大剣のままであったら、ほぼ確定だと思われるところだった。丸腰の状態だったから、まだしらばっくれる余地はある。
誤魔化すためにも、ブレイダにはこの町にいる間、少女の姿でいてもらおう。
「よし、とりあえず役場に行って、害獣が何なのか確認しよう。ヤバそうだったら、別の働き口を探す。いいな、ブレイダ」
「はい! リュール様のご意思の通りに」
リュールとブレイダは連れ立って宿を後にした。受付の女性のにやつきは、見ないふりをした。
「おーい、そこのあんた、待ってくれ!」
「ん?」
振り向いた先では、見知らぬ男がリュールに向け手を振っていた。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

火駆闘戯 第一部
高谷 ゆうと
ファンタジー
焼暴士と呼ばれる男たちがいた。
それは、自らの身体ひとつで、人間を脅かす炎と闘う者たちの総称である。
人間と対立する種族、「ラヨル」の民は、その長であるマユルを筆頭に、度々人間たちに奇襲を仕掛けてきていた。「ノーラ」と呼ばれる、ラヨルたちの操る邪術で繰り出される炎は、水では消えず、これまでに数多の人間が犠牲になっていった。人々がノーラに対抗すべく生み出された「イョウラ」と名付けられた武術。それは、ノーラの炎を消すために必要な、人間の血液を流しながらでも、倒れることなく闘い続けられるように鍛え上げられた男たちが使う、ラヨルの民を倒すための唯一の方法であった。
焼暴士の見習い少年、タスクは、マユルが持つといわれている「イホミ・モトイニ」とよばれる何かを破壊すべく、日々の鍛錬をこなしていた。それを破壊すれば、ラヨルの民は、ノーラを使えなくなると言い伝えられているためだ。
タスクは、マユルと対峙するが、全く歯が立たず、命の危機にさらされることになる。己の無力さを痛感したその日、タスクの奇譚は、ゆっくりと幕を開けたのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる