愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第2章 魔獣狩り

第19話『んー、暗殺とか』

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 二人部屋に並んだベッドには、それぞれ大柄な男と小柄な少女が座る。二人は真剣な表情で見つめ合っていた。

「ブレイダ」
『はい!』

 ベッドに乗った大剣が返事をする。
 
「ブレイダ」
「はい!」

 声掛けにしっかり応える少女を見て、リュールはため息をついた。

「そうみたいだな、ブレイダ」
『みたいですね』

 鞘に収まった大剣は、動かないまま相槌を打った。朱色の飾り石が、木枠の窓から入る日差しを受けて輝いた。

「つまり、あれだ。名前を呼ぶと剣と人に入れ替わると」
『おそらくは』

 リュールは多少心当たりがある。思い付きで名付けた翌朝、彼女は剣に戻っていた。そして、名を呼んだ際、ただの大剣は重さのない剣に変わった。あれが名付けの儀式みたいなものだったのだろう。

「そういうもんかね」
『おそらくは』

 姿を変える方法はわかった。しかし、リュールはそれで納得したわけではない。そもそも、最初に人の姿になった理由は未だに不明なのだ。
 そして、また別の問題にも直面していた。

「これ、一人部屋にしてもいいな」
『ですね』

 それなりに残っていたはずの路銀が、底をつき始めていた。それもそのはず、多めに出した宿代、診療所への礼金、再度の風呂利用料。普通に生活するなら、十日は過ごせたはずだ。

「でも、あの女の子はどうした? ってなるよな」
『たしかに』

 リュールは太い腕を組んだまま、首を傾ける。原因はどう考えても剣が人になったからなのだが、彼女の責任にはしたくなかった。ブレイダは自分の所有物であり、命を預けた相棒であるからだ。

『私、働きますよ』
「なんかやれるのか?」
『んー、暗殺とか』
「そういうの好きだな」
『剣ですから』

 いくら剣とはいえ、少女の姿をした者に物騒な仕事はさせたくない。それはただの感傷であることは、リュール自身も理解していた。
 剣の見た目をしていたらそれを使い、人を殺せるのだ。矛盾もいいところだと思う。

「役場に害獣駆除の求人があって受けようとしたんだよ」
『それって……』
「もしかしたら、あれだよな」
『かもしれませんね』

 昨日は剣のおかげでなんとか生き残れた。しかし、次も上手くいくとは限らない。あの剣が、同じような斬れ味を発揮する保証はどこにもないのだ。

「俺がやったって思われるのも厄介だよな」
『ですねぇ』

 リュールを診療所まで運んだ連中は、猪の死体を目にしているはずだ。そして、その近くで生き残っていた者がやったと考えるのが真っ当な考え方になる。バレてしまえば、問い詰められた挙句、便利に使われることが容易に想像できてしまう。
 そういう意味では、ブレイダが少女になっていたのは幸運だ。大剣のままであったら、ほぼ確定だと思われるところだった。丸腰の状態だったから、まだしらばっくれる余地はある。
 誤魔化すためにも、ブレイダにはこの町にいる間、少女の姿でいてもらおう。

「よし、とりあえず役場に行って、害獣が何なのか確認しよう。ヤバそうだったら、別の働き口を探す。いいな、ブレイダ」
「はい! リュール様のご意思の通りに」

 リュールとブレイダは連れ立って宿を後にした。受付の女性のにやつきは、見ないふりをした。

「おーい、そこのあんた、待ってくれ!」
「ん?」

 振り向いた先では、見知らぬ男がリュールに向け手を振っていた。
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