愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第1章 ブレイダ

第16話「はい、ブレイダです」(第1章 ブレイダ 完)

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 光の中、リュールは歪んだ剣が元に戻っていくのを見た。違う、剣は新たに形作られていた。そうとしか思えなかった。
 少しの刃こぼれもなく、美しい銀色に輝く剣身。実用性重視で無骨だった鍔と柄は、少女の瞳のような朱色の飾り石が取り付けられている。

「なんだ、これは?」
『わかりません』

 かなりの重さがあった剣は、まるで木の枝を持っているように軽い。長さも幅も以前の剣から変わりがないように見えるのに、だ。
 これならば、今の状態でも振るうことができるだろう。ただ、重さがないということは、剣としての威力もないということだ。

「やれるのか?」
『わかりません』

 リュールだけでなく、少女ブレイダ自身も状況が理解できていない。しかし、ここで躊躇っていても仕方がない。

「何もしなければここで終わりだよな」
『そうですね』
「やるだけやろうか」
『はいっ!』

 リュールは輝く剣を構えた。猪はリュールに向け突進を始める。 
 もう体に力が入らない。できることは、ただ剣を振るだけだ。タイミングを合わせることだけに神経を集中させればいい。

「ふっ!」

 最後の力を振り絞るように、リュールは剣を振り下ろした。切っ先が猪の額に当たる。剣は何の抵抗もなくその巨体を斬り裂いた。
 リュールを中心にして、猪の体はふたつに分断される。臓物と血液を撒き散らせながら、それは道路に転がった。

「な、は? あ?」

 そのまま吹き飛ぶことを覚悟していたリュールは、事態が全く飲み込めなかった。猪の血にまみれながら、頭をひねるだけだ。

『リュール様、なんでしょう、私?』
「全然わからん」

 緊張の糸が途切れ、その場に尻もちをつく。さっきまで立っているのがやっとだったのだ。

『わっ、リュール様、大丈夫ですか?』
「ああ、ちょっと、休ませてくれ」
『はい、待ちますね』

 リュールはそのまま、血でぬかるんだ地面に大の字で寝転んだ。剣から放たれる光は消えていたが、軽さはそのままだった。
 それでも手に力が入らない。悪いとは思ったが、濡れる地面にそっとブレイダを置いた。

「ブレイダ」

 リュールは自身が名付けた剣の名を呼ぶ。今となっては、剣なのか人なのか、そんなことはどうでもよくなっていた。
 
「はい、ブレイダです」
「助かったよ」
「いえいえ、とんでもありません。私はリュール様の剣ですから。お役に立てることが幸せなのです」

 どこからか、人の喧騒のようなものが近づいてくる。同時に、鎧を装着した者が歩く音も。この町の自警団か、たまたま駐留していた王国の騎士だろうか。
 彼らは猪の死体を発見したようで、ざわざわとした騒ぎになっている。

「これ、魔獣じゃないのか?」
「猪型か」
「こんなのを真っ二つにするなんて」

 彼らの困惑はリュールにもよくわかる。こんな化け物、まともではない。それに、あの剣。あの重さと斬れ味は異常だ。
 しかし、今のリュールは、それ以上思考することができなかった。だんだんと意識が朦朧となる。

「おい、人がいるぞ! 二人だ」
「君たちがやったのか?」
「ひとりは意識がない! 担架持ってこい!」

 叫ぶ男たちの言葉に違和感を覚えると共に、リュールの意識は途絶えた。


第1章 ブレイダ 完
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