愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第1章 ブレイダ

第15話『名前、ですか?』

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 なぜか喋るようになった剣を辛うじて構え、リュールは猪に向き直った。

「せっかく話せるようになったんだがな、だいぶまずい状況なんだ」
『はい、見ていました』
「だから、悪いがもうすぐお別れだ」
『嫌です』

 少女の即答に、リュールは苦笑いをした。
 猪は、再度の突進体勢をとっている。万事休すという状況だ。

「と言ってもな、あれは無理だ」
『大丈夫です』
「どういうことだ?」
『私がいるからです!』

 少女の妙な自信にリュールの心は軽くなる。

「そうかい、相棒」
『はいっ!』

 先程のように受け流す斬り方では致命傷は与えづらい。かといって、頭は骨が硬く刃は通らない。狙うなら、目だ。
 リュールは剣を突きの姿勢で構えた。高速で突進する猪の目を狙うなど、至難の業だ。しかし、そうでもしないと傷を与えられない。片目でも潰してしまえば、あとは隙をつくこともできるだろう。

 猪の動きはリュールの反応速度を超えていた。突き出した剣は目の上を浅く斬っただけだった。辛うじて牙は避けたが、リュールの胸板を切り裂いた。致命傷ではないが、皮膚の裂け目から血液が吹き出す。

「ぐぉっ……」

 体勢を崩した脇腹に、猪の鼻先と額が衝突する。咄嗟に剣の腹で防ぎ、直撃を避けた。しかし勢いまでは殺しきれず、リュールの体躯は吹き飛び壁に激突した。
 猪はそのまま直進し、反対側の建物に穴を開けた。

『リュール様!』
「うう……」
 
 衝撃で思考と視界がぼやける。打ち身で体の自由が利かない。少女の声だけが、ぼんやりと頭に響いていた。

「くそっ……」

 軽く頭を振り、無理に体を起き上がらせる。幸いにも骨は折れていないようだ。ただし、悲鳴をあげるような激痛が全身に走った。

『リュール様、よかった』
「まだ……生きてる……みたいだ」

 杖代わりにした剣を見て、リュールは驚愕した。
 剣身は歪み曲がり、幅広の半ばまでヒビが入っている。剣としては致命傷だ。最早修理も不可能な程に。

「おい……」
『リュール様をお守りできてよかったです』

 少女は妙に落ち着いた様子だった。自分がどうなっているか、しっかり認識した上での言葉のようだ。

『残念なのは、もう、リュール様の剣でいられないことですね』
「何を言うんだ……俺の、剣なんだろ? 最後まで、付き合えよ……もうすぐ終わるからな」
「リュール様……」

 リュールは必死に声を絞り出した。立っているだけでも辛い状況で、剣を構える力さえ残っていない。
 二度目に開けられた穴から、猪の牙が見えた。

「そうだ、名前、考えたんだ……」
『名前、ですか?』
「ああ、俺の刃、剣ブレードだけど、ちょっと女の子らしくしてな」
『最期に、聞かせてもらっていいですか?』
「少し照れくさいが、この際、まぁ、いいか」

 ゆっくりと穴から猪が現れた。三度目の突進の構えをとる。これはもう、どうやっても避けられない。

「ブレイダってな」
『素敵な名前です。嬉しいです』
「そりゃ、よかった」

 次の瞬間、曲がった剣が銀色の光に包まれた。
 それと同時に、猪が地面を蹴った。
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