愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

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第1章 ブレイダ

第14話『はいっ! リュール様の剣です!』

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 猪と言えば、確かに猪だった。だが、それは猪ではなかった。
 まずは大きさだ。一般的な男性として大柄なリュールと、四つ足で歩く猪の目線がほぼ同じ高さにある。これは異常だ。
 そして、牙。長さも鋭さも、野生動物のそれではない。まるで槍か剣のように尖っている。よくよく見ると、向かって右の牙には人の肩から先のようなものが刺さっていた。

「おいおい」

 たまらず呟いたリュールは、逃げ出す算段をする。隠れられそうな建物を探すが、窓や扉は見当たらない。
 その逡巡がまずかった。猪は姿勢を低くし、後ろ足を蹴り突進体勢を取っていた。
 リュールは咄嗟に鞘から剣を取り出し構えた。この長さの剣であれば、勢いは止められずとも、牙で貫かれることは防げるはずだ。
 
 猪がリュールに向け走り出した。タイミングを合わせ、横薙ぎに剣を振る。牙と刃がかち合い、甲高い金属音が響く。

「くぅっ……!」

 突進の方向が逸れた猪は、そのまま側面にあった建物に突っ込んだ。石造りの土台に大穴が開く。
 リュールの両手は、その衝撃で激しく痺れている。剣を落とさないのが精一杯だ。

 旅の途中、野生の動物と対峙した経験は少なからずある。しかし、あんなもの、まともな生き物とは思えない。

「何なんだ……」

 毒づくのが精一杯だった。再度突進されたら、回避する自信はない。吹き飛ばされて全身の骨が砕けるか、牙が体を貫通するか。そんなところだろう。
 かといって、逃げることもできない。追い付かれてしまうのがわかりきっている。

「こいつは、だめか」

 リュールは久しぶりに死を覚悟した。安い安いと思っていた自分の命だが、こうも唐突に終わるとは思ってもみなかった。
 自分の強さに自信を持ってしまっていたし、町中だと油断もしていた。

『リュール様』

 少女の声が聞こえた気がする。そういえば、独りになってから誰かに心を許せる気になったのは、彼女が初めてだった。
 人ではなく剣だとしても、そういう相手と一時過ごせたのは良かったかもしれない。あの世へ先立った傭兵団の皆やルヴィエに自慢してやろう。

 大穴から牙の先が見える。いよいよだ。
 だが、勝ち目がないからといって、リュールはただ殺される気はなかった。後に戦う者のため、少しでも手傷を負わせてやる。

『リュール様!』

 また幻聴が聞こえる。それほどまでに心を許していたのか。ついつい頬が緩む。

『リュール様! リュール様! リュール様ぁ!』
「うるさい」

 いくら幻聴でも、これはやりすぎだ。思わずリュールは言い返してしまった。

『あ、ごめんなさい』
「え?」

 幻聴と会話が成り立っている。これはどういうことだろうか。

『まさか聞いて頂いているとは思わず、叫んでしまいしました』
「は? お前、なのか?」
『はいっ! リュール様の剣です!』

 その幻聴は、痺れに震える手が持つ大剣から聞こえていた。

「どういうことだ?」
『わかりません!』
「ええと……」
『剣に戻れた上に、お話もできるみたいです! 嬉しいです!』
「わけがわからん」 
『私もです!』

 穴から這い出した猪が、混乱するリュールを睨みつけた。
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