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第1章 ブレイダ
第5話「私がやります」
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弓を持った二人が左右前方から、リュールを狙う。斧の男と長剣の男は少し離れた位置に立ち、短剣の男が近付いてくる。
警戒具合から、リュールが丸腰だとは思われていないようだ。ただし、露見してしまうのは時間の問題だろう。
「おい、顔を隠してるやつ、外套をとれ」
斧を持ったリーダー格が低い声を出した。
「嫌です」
少女はきっぱりと断った。野盗たちの眉が吊り上がる。同時に、十二個の目には下卑た笑いが浮かんでいた。
「女か、まだ若いな。おい、それも置いていけよ。いろいろと使ってやるからよ」
予想通りの展開になった。こうなっては、切り抜けるための選択肢は少ない。
まずは武器が必要だ。さしあたって、近くにいる細身の男から短剣を奪う必要がある。
奪った後は、少女に着せていた外套で目隠しをしつつ、短剣の男を盾に矢を防ぐ。次の矢を構える前に、片方を切り伏せる。
多勢に無勢の場合は、いかに一対一を作るかが重要だ。殺さない程度に無力化した者を盾に、一人ずつ排除する方法をとることが有効となる。
少女を庇いながらの戦闘は至難の業となるだろう。最悪、命を失うことも覚悟しなければならない。だから、ここからは時間との勝負だ。
「リュール様、あの短剣を奪おうとしてますね?」
二人にしか聞こえない音量で、少女が呟いた。
「ああ、君は隠れててくれ」
「だめです」
「は? 何を言って……」
「他の刃物にリュール様を奪われるくらいなら、私がやります。外套、失礼します」
二言目を呟くと同時に、少女は身を低くして駆け出した。
「ちっ! 射て!」
リーダー格が叫んだ。指示を受けた弓の男が、少女に向け狙いを定める。
少女は着ていた外套を広げ、短剣の男の前で大きく振り回した。
「うおっ」
視界を塞がれた男は短剣を振り回すが、少女は既にそこにはいなかった。より姿勢を低くし、簡素な服から顕になった脚で男の膝を蹴り抜いた。
「ぐえっ!」
リュールも目を見張る蹴りだった。男の膝関節が逆方向に曲がる。しかし、倒れることは許されなかった。
少女は男の体を押し上げ、その影に隠れる。飛来した矢が二本、胸と脇腹に突き刺さった。即死ではないだろうが、致命傷だ。
少女は力を失った男の手から短剣を奪い取る。そのまま滑らかな動きで、弓の男に向け、短剣を失った男の背中を蹴り飛ばした。
長く美しい銀髪がなびく。
死にかけの仲間を受け止め、動きが止まった瞬間を少女は見逃さなかった。かなりの速度で弓の男に迫り、鎧に守られていない左脇に短剣を突き刺す。リュールが数えただけで三回。
「ぎゃあああ」
男にしては甲高い悲鳴が響き渡った。
警戒具合から、リュールが丸腰だとは思われていないようだ。ただし、露見してしまうのは時間の問題だろう。
「おい、顔を隠してるやつ、外套をとれ」
斧を持ったリーダー格が低い声を出した。
「嫌です」
少女はきっぱりと断った。野盗たちの眉が吊り上がる。同時に、十二個の目には下卑た笑いが浮かんでいた。
「女か、まだ若いな。おい、それも置いていけよ。いろいろと使ってやるからよ」
予想通りの展開になった。こうなっては、切り抜けるための選択肢は少ない。
まずは武器が必要だ。さしあたって、近くにいる細身の男から短剣を奪う必要がある。
奪った後は、少女に着せていた外套で目隠しをしつつ、短剣の男を盾に矢を防ぐ。次の矢を構える前に、片方を切り伏せる。
多勢に無勢の場合は、いかに一対一を作るかが重要だ。殺さない程度に無力化した者を盾に、一人ずつ排除する方法をとることが有効となる。
少女を庇いながらの戦闘は至難の業となるだろう。最悪、命を失うことも覚悟しなければならない。だから、ここからは時間との勝負だ。
「リュール様、あの短剣を奪おうとしてますね?」
二人にしか聞こえない音量で、少女が呟いた。
「ああ、君は隠れててくれ」
「だめです」
「は? 何を言って……」
「他の刃物にリュール様を奪われるくらいなら、私がやります。外套、失礼します」
二言目を呟くと同時に、少女は身を低くして駆け出した。
「ちっ! 射て!」
リーダー格が叫んだ。指示を受けた弓の男が、少女に向け狙いを定める。
少女は着ていた外套を広げ、短剣の男の前で大きく振り回した。
「うおっ」
視界を塞がれた男は短剣を振り回すが、少女は既にそこにはいなかった。より姿勢を低くし、簡素な服から顕になった脚で男の膝を蹴り抜いた。
「ぐえっ!」
リュールも目を見張る蹴りだった。男の膝関節が逆方向に曲がる。しかし、倒れることは許されなかった。
少女は男の体を押し上げ、その影に隠れる。飛来した矢が二本、胸と脇腹に突き刺さった。即死ではないだろうが、致命傷だ。
少女は力を失った男の手から短剣を奪い取る。そのまま滑らかな動きで、弓の男に向け、短剣を失った男の背中を蹴り飛ばした。
長く美しい銀髪がなびく。
死にかけの仲間を受け止め、動きが止まった瞬間を少女は見逃さなかった。かなりの速度で弓の男に迫り、鎧に守られていない左脇に短剣を突き刺す。リュールが数えただけで三回。
「ぎゃあああ」
男にしては甲高い悲鳴が響き渡った。
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