愛用の大剣が銀髪美少女になった元傭兵は魔獣を狩る

日諸 畔(ひもろ ほとり)

文字の大きさ
上 下
2 / 86
第1章 ブレイダ

第2話「リュール様の剣は私だけです」

しおりを挟む
 輝く長い銀髪に、朱色の大きな瞳。透けるような白い肌は、どこか神秘的な雰囲気を持っていた。普通の人間でないと明らかにわかる色彩だ。
 歳の頃十五くらいだろうか。どこからどう見ても少女だ。それもとびきり美しい。

「剣?」

 護身のためにと、眠る際に抱えていた剣がなくなっている。その代わりに、腕の中には剣を名乗る少女の姿。
 外套の中は二人の体温で温かい。まるで同衾をしていたようだった。

「うおっ!」

 我に返ったリュールは、慌てて少女から離れる。当の少女は、その様子を不思議そうに眺めていた。

「どうされましたか?」
「いや、どうもこうも、君は誰だ? 俺の剣は?」
「私ですけど……」

 少女は愛らしい仕草で首を傾げた。リュールは、彼女が何を言っているのか全くわからなかった。

「んー、困りました」
「俺も困ってる」

 爽やかな朝は、妙な沈黙に支配された。遠くから小鳥の鳴き声が響く。

「あっ、そうだ!」
「うん?」

 少女は着ていた服をつまみ上げる。袖のない、簡単な作りのものだ。

「ほら、これ、ご愛用の鞘の色ですよ」

 確かに、その緋色はリュールの趣味の色だった。あまり外見は気にしないが、鞘の色だけは気に入っていた。

「と、言われてもなぁ」

 ただの色では、これといって納得できない。そもそも、剣が人になるなど信じられるわけもなかった。

「あ、じゃあ、昨日私で斬り殺した人の特徴言いますね」
「えぇ……」

 可憐な少女が物騒なことを言い出した。何人も殺してきたリュールだったが、少なからず抵抗を受けてしまう。

「えっと、まず焚き火を囲って食事をしていた髪の薄いおじさんを肩口からバッサリ。その次はまだ反応できていない髭面のおじさんの首をサクッと。それから、ようやく立ち上がった背の高いおじさんの脇腹にブスリ」
「わかったもうやめてくれ」
「あ、信じてもらえましたか?」

 自分のやってきたことを無邪気に語られるのは、それなりに堪える。慣れてしまっているが、リュールは人殺しが好きというわけではない。
 盗賊団を殺して回った時のことを知る者は、リュール以外にいないはずだ。全員に息がないのは確認した。捕らえられている者もいなかった。
 これは本当に剣なのかもしれない。

「仮に、君が俺の剣だとして、なぜ人間の姿に?」
「いやー、それが私もわからないんですよ」
「わからん?」
「そうなんです。意思? みたいなものができたのもさっきなんですよ。記憶? みたいなものは思い浮かぶんですけどね」

 少女の言葉に、リュールはますます混乱する。

「何にもわからないのか」
「はい! でも剣なのは確かです!」
「剣に戻れたり、しない?」
「はい! できません!」

 元気よく頷く少女を見ても、困惑以外の感情が湧かなかった。

「とりあえず、どこか落ち着ける場所に向かわないとな」

 契約の手切れ金があるため、贅沢しなければ暫く生活費に困ることはない。ただし、それは一人での話だ。
 とはいえ、年端もいかない少女を放っていくこともできない。どこかの町で受け入れてもらうのがいいだろう。

「はい、お供します」

 立ち上がったリュールに、少女が続く。

「剣も新調しないとな……」
「え、だめですよ。リュール様の剣は私だけですよ。他の剣なんて許せません」
「は?」

 リュールは首を傾げるしかなかった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...