8 / 17
08絵
しおりを挟む
「げ、最悪!なんなのよ。もう。」
女は急にそっぽを向いて、走ってその場から去っていった。
また女性を怒らせてしまった。別に悪気があってやっていることではない。ただそこに居るから、ただ話しかけているだけだ。コミュニケーションを円滑に。何も悪いことではない。でも結果、こうなってしまう。
「まあ、仕方ないか。」
晴は空を見つめながら、開き直る。自分のしていることは悪いことではないのだから止める必要はない。でも怒らせてしまうのだから、相手の身になって考えもう少し気持ちに寄り添い接するべきなんだろうと反省する。
数週間前に来たショッピングストリート。あのときに怒らせた女性のことははっきりと覚えている。でももう一切興味はない。
ウインドウに並べられた品々を見ながら、なにか彼女にでも買っていってプレゼントでもしたいなって想像する。そう、想像しながら見ているだけでも楽しい。けれどもその相手はいないし、特別心を馳せる人もいるわけではない。
今は朝の10時。ポツポツと人が訪れている。ウインドウには品々と重なり、人々の姿が映し出される。見る限り、みんなカップル。僕の憧れをできている人たちだ。羨ましく思う。
そういえば、あのヘンテコなお店、いや家はどんな感じだろう。今言ってみたらオープンしているかもしれない。ウインドウショッピングしがてら、その家の方へと向かうことにした。10時半頃その建物には到着した。やはりこの間のままで、中の明かりはなくレースのカーテンも閉められたままだった。しかし中を覗くと、数点の絵が壁に飾られているのが見えた。飾ってあると言っても額縁などはなく、ただセロテープ、画鋲で壁に固定されているだけだ。
玄関ノブを触ってみると、鍵がかかっておらず中に入れた。玄関を開けるとカランカランと音がする。そのまま中に入ってみる。
部屋の中は電気が付いていない。悪いと思いながらも、玄関脇のスイッチを押して明かりをつける。
中には、やはり商品などはないし、レジもない。お店ではないようだ。
雑に飾られた絵を見てみる。絵は少なくとも壁にそってまっすぐ飾ればいいのにと突っ込みたくなるほど斜めに貼られている。
一番右の絵は、いったいなんだろう。山のようなものに滝か、蛇か。構図もおかしい。保育園生が書いたような絵だ。しかし、おそらく保育園生が書いた絵ではないだろう。なんとかして真面目に書こうとする意志が見受けられる。その証拠に何度か書き直した跡が残っている。
その隣もよくわからない。空を飛ぶ鳥だろうか・・・。いかんせん構図がおかしく、遠近感もない。何を描いた絵なのだかわからない。
前回来たときに外からみた絵も飾られていた。この絵だけはしっかりと額縁に収まっている。夕日が照らす海の絵。手前には砂浜、遠くにシルエットになった島が描かれている。夕日の光の描写が美しくとても幻想的だ。見惚れてしまう。
「なにか用かしら?」
声のする方を見ると、女が一人立っていた。パジャマのような格好にボサボサの頭。若いようにも見えるが、極端なことをいえば年寄りにも見える。年寄りなわけはないか。年寄りなんて見たことがない。
「ドアが開いていたもので勝手に入ってしまい。ふつつか者ですみません。」
「本当ね。」
「素敵な絵ですね。あなたが書かれた絵ですか?」
「え、ええ。」
「実に素晴らしい。うっとりします。」
「あらそう。」
「他の壁に飾られている絵は、いったい。」
「あなたに関係ないじゃない。早く出ていってくださいますか。ここはお店でも何でもないのです。私のおうち。」
「そうですか。お店だと思い。大変失礼しました。」
晴はそう言いながら、その場をすぐに立ち去ろうとせずもう少しだけ壁に飾られた夕日が照らす海の絵を見た。
「失礼ですが、お名前は。」
「はあ?あなた本当にお馬鹿さん?」
「いえ。こんな絵をかける人のお名前が知りたくて。」
「あなたにお伝えするような名前はありません。」
「それは失礼・・」
「いい加減にしてくださいますか?一体親にどういう教育を受けてらっしゃるのか。」
「教育?」
「その図々しく、人の気も知らずに勝手に物色する性格は父親譲りかしら?」
「いいえ。僕には父はいないです。母譲りかもしれませんが母の顔も私は知りません。」
一瞬、女が不思議そうな顔をした。
「あら、悪いこと聞いちゃったかしら。とにかく出ていってもらえますか?」
もう一度丁重に謝り、家を後にしようとした。女はずっとこちらを気分悪そうな目で見ている。
女の横を通るとき、女は私の腰辺りに指を立てた。不思議な行動で、暴力でも振るわれるのかと思ったが少し指を立てるとすぐに引っ込めた。その瞬間、女の顔は少し困惑した顔に変わったように見えた。
「では、失礼しました。」そう言うと、女は「もう、二度と来ないでください。」と機嫌悪そうにはっきりと言った。
カランカランと扉が音を立て閉まる。閉まったその瞬間、ガチャリと大きな音を立て鍵がかかる。その様子を見て、ふとつぶやいてしまう。
「鍵のかけ忘れか?変な人だ。」
女は急にそっぽを向いて、走ってその場から去っていった。
また女性を怒らせてしまった。別に悪気があってやっていることではない。ただそこに居るから、ただ話しかけているだけだ。コミュニケーションを円滑に。何も悪いことではない。でも結果、こうなってしまう。
「まあ、仕方ないか。」
晴は空を見つめながら、開き直る。自分のしていることは悪いことではないのだから止める必要はない。でも怒らせてしまうのだから、相手の身になって考えもう少し気持ちに寄り添い接するべきなんだろうと反省する。
数週間前に来たショッピングストリート。あのときに怒らせた女性のことははっきりと覚えている。でももう一切興味はない。
ウインドウに並べられた品々を見ながら、なにか彼女にでも買っていってプレゼントでもしたいなって想像する。そう、想像しながら見ているだけでも楽しい。けれどもその相手はいないし、特別心を馳せる人もいるわけではない。
今は朝の10時。ポツポツと人が訪れている。ウインドウには品々と重なり、人々の姿が映し出される。見る限り、みんなカップル。僕の憧れをできている人たちだ。羨ましく思う。
そういえば、あのヘンテコなお店、いや家はどんな感じだろう。今言ってみたらオープンしているかもしれない。ウインドウショッピングしがてら、その家の方へと向かうことにした。10時半頃その建物には到着した。やはりこの間のままで、中の明かりはなくレースのカーテンも閉められたままだった。しかし中を覗くと、数点の絵が壁に飾られているのが見えた。飾ってあると言っても額縁などはなく、ただセロテープ、画鋲で壁に固定されているだけだ。
玄関ノブを触ってみると、鍵がかかっておらず中に入れた。玄関を開けるとカランカランと音がする。そのまま中に入ってみる。
部屋の中は電気が付いていない。悪いと思いながらも、玄関脇のスイッチを押して明かりをつける。
中には、やはり商品などはないし、レジもない。お店ではないようだ。
雑に飾られた絵を見てみる。絵は少なくとも壁にそってまっすぐ飾ればいいのにと突っ込みたくなるほど斜めに貼られている。
一番右の絵は、いったいなんだろう。山のようなものに滝か、蛇か。構図もおかしい。保育園生が書いたような絵だ。しかし、おそらく保育園生が書いた絵ではないだろう。なんとかして真面目に書こうとする意志が見受けられる。その証拠に何度か書き直した跡が残っている。
その隣もよくわからない。空を飛ぶ鳥だろうか・・・。いかんせん構図がおかしく、遠近感もない。何を描いた絵なのだかわからない。
前回来たときに外からみた絵も飾られていた。この絵だけはしっかりと額縁に収まっている。夕日が照らす海の絵。手前には砂浜、遠くにシルエットになった島が描かれている。夕日の光の描写が美しくとても幻想的だ。見惚れてしまう。
「なにか用かしら?」
声のする方を見ると、女が一人立っていた。パジャマのような格好にボサボサの頭。若いようにも見えるが、極端なことをいえば年寄りにも見える。年寄りなわけはないか。年寄りなんて見たことがない。
「ドアが開いていたもので勝手に入ってしまい。ふつつか者ですみません。」
「本当ね。」
「素敵な絵ですね。あなたが書かれた絵ですか?」
「え、ええ。」
「実に素晴らしい。うっとりします。」
「あらそう。」
「他の壁に飾られている絵は、いったい。」
「あなたに関係ないじゃない。早く出ていってくださいますか。ここはお店でも何でもないのです。私のおうち。」
「そうですか。お店だと思い。大変失礼しました。」
晴はそう言いながら、その場をすぐに立ち去ろうとせずもう少しだけ壁に飾られた夕日が照らす海の絵を見た。
「失礼ですが、お名前は。」
「はあ?あなた本当にお馬鹿さん?」
「いえ。こんな絵をかける人のお名前が知りたくて。」
「あなたにお伝えするような名前はありません。」
「それは失礼・・」
「いい加減にしてくださいますか?一体親にどういう教育を受けてらっしゃるのか。」
「教育?」
「その図々しく、人の気も知らずに勝手に物色する性格は父親譲りかしら?」
「いいえ。僕には父はいないです。母譲りかもしれませんが母の顔も私は知りません。」
一瞬、女が不思議そうな顔をした。
「あら、悪いこと聞いちゃったかしら。とにかく出ていってもらえますか?」
もう一度丁重に謝り、家を後にしようとした。女はずっとこちらを気分悪そうな目で見ている。
女の横を通るとき、女は私の腰辺りに指を立てた。不思議な行動で、暴力でも振るわれるのかと思ったが少し指を立てるとすぐに引っ込めた。その瞬間、女の顔は少し困惑した顔に変わったように見えた。
「では、失礼しました。」そう言うと、女は「もう、二度と来ないでください。」と機嫌悪そうにはっきりと言った。
カランカランと扉が音を立て閉まる。閉まったその瞬間、ガチャリと大きな音を立て鍵がかかる。その様子を見て、ふとつぶやいてしまう。
「鍵のかけ忘れか?変な人だ。」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
わたしの目は奪われた
夜桜
恋愛
シセロの街では貴族だけを狙う猟奇殺人が続いていた。
令嬢ソラナも襲われ、左目を奪われた。
重症を負い、長い期間意識を失っていた。
半年後に目を覚まし、有名な医者である貴族クィントゥスと出会う。
彼は右目を奪われていた。
同じ境遇であることを認識した二人は、力を合わせて犯人を捜索。
犯人を探すべく奔走する。
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる