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05ショッピングストリート
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「ねえ、お部屋のライトはこの辺でいいかしら?」
彼女はそう言うと、ベッドの近くにそれを置き、明かりを灯した。少し薄暗い感じが良いムードを演出する。ベッドの近くには丸いガラスのテーブル、その上にはワイングラスが置かれている。ベッドにはふわふわした気持ちよさそうなピンク色の布団が敷かれている。
「いい感じだね。これでとてもリラックスできる。」
「いいでしょ。二人で選んだカーテンもとっても素敵。」
青色と薄いピンク色のカーテンどっちが良いか聞かれ、彼女の好みっぽい方を選んだ。本当は青のほうが良かった。空のようでいい。
カーテンを開け、窓を開け、ベランダ越しに外を眺める。デザインマンションの10階。丸い月とキラキラ光る星たち、遠くにネオンが点々と輝く建物、その更に遠くの方で花火がポツポツと上がっているのも見える。
「座ってワインを飲みましょ。」
晴(はる)は言われるがままに窓際に置かれたソファに腰掛ける。彼女はピンク色のワインをグラスに注ぐ。
彼女とは数日前に出会った。一人でいたところに僕からそれとなく話しかけた。するとその場で意気投合し、連絡方法を交換し、翌日には部屋の模様替えをしたいから手伝ってと言われ、素直に応じた。マンションの一室。ライト、机、カーテンは初めてのデートで購入したものだ。恋愛の速度というものがあるのなら、光速の展開だ。
「素敵。こういうの憧れてたの。」
そう言うと彼女は目を薄くつむり肩を寄せてきた。お腹の空いた猫のよう。とても可愛い。黙ってこちらも肩に手を掛け体を寄せる。肩と肩の間からはハートが浮き出る。
「ねえ、はるくん。」
「なんだい。」
「ねえ、はるくんは彼女いるの?」
「いないよ。」
「あらそう?でも、もう二人、カップルみたいだよね。」
「そうだね。僕も言おうと思っていた。とてもいい感じだ。」
彼女は、更に体を寄せてくる。主人に匂い付けをする猫のようだ。
「ねえ。今度さ。アウトレットとかでショッピング一緒にしようよ。ほら、新しく出来たじゃない。海の近くの。」
「海の近くに?」
「そう。知らないの?あ、そうか、はるくんはどの辺りに住んでいるの?都内?」
来た。いつもの展開だ。この質問にはいつも答えづらい。
「ごめんね。僕はどこにも住んでいないんだ。」
「あらそうなんだ。って、えっ?」
彼女は、くっつけていた体を離した。顔つきは一変、じっと僕のことを睨みつけた。
「あんた、もしかして偽物ってやつ?」
「よくそう言われるけど、その言い方はあまり好きじゃないな。」
彼女は立ち上がり、頭を抱え頭を掻きむしる。なにかやりきれない感情をぶつけているようだ。
「げぇ、信じられない。最悪!!そういうことは最初に言ってよ。」
八つ当たりに彼女はグラスのワインを机に撒き散らし、椅子を倒す。少しして我に帰り大きなため息をつくと、そそくさと部屋から出ていく準備をし始めた。
「もう、分かりづらいのよねえ。今度から印でも付けといてよ。大きく見えるようにさあ。」
「騙すつもりじゃ・・・」
「はぁー。もういいの。楽しかったわ。じゃあね。」
そう言うと彼女は部屋から出ていった。嵐の被害にあった静まり返った部屋。もうこの部屋の家具も何もかもいらないってことなのだろう。
また同じことの繰り返しだ。だいたいこうなる。傷つき傷つけられる。まあ仕方がない。別に悪いことをしたわけではない。
特にもうやることもない。せっかくなので朝までこの部屋にいることにした。
翌早朝、部屋を出る。
言われるがままに来た場所。マンションを出た通りはショッピングストリート。白系の色に統一されたおしゃれなお店がきれいに建ち並ぶ。白いレンガ造りの道の両脇には等間隔に茶色のレトロな雰囲気の街灯が立ち並び、その下には大きな四角い鉢に植えられた色とりどりの花が飾られている。お店の脇にはところどころ机とベンチがあり、日中はここでお茶しているカップルも良く見かける。
まだ、朝早い。街灯がまだ点灯している。遠くからは朝日が昇ってきて、白いお店を鮮やかな朱色に染めている。
当然お店はまだ閉まっているがショーウインドウには四六時中、様々な品々が飾られている。この通りはウインドウショッピングをしているだけでもとても楽しい。
おしゃれなお店の中、ふと、冴えない店があるのを見つけた。小さくて今まで気が付かなかった。そもそもここはお店なのだろうか。薄いピンク色の建物だ。一軒だけ建物の高さが低く他の建物に隠れている。入り口だけ見るとおしゃれな門構えではある。窓にはレースのカーテンがかかっていて、中を覗いても商品らしき物は何も飾られていない。電気もついていない薄暗い室内には一脚の木の椅子、小汚い木のテーブルに鉛筆と紙があるだけ。寂しさ漂う。紙には何か書かれているみたいだが何なのかわからない。奥にも部屋があるようだが薄暗く良く見えなかった。
玄関の扉を開けようとするが鍵がかかっていて入れなかった。
窓から、部屋の中の壁に目を向けると絵画が飾られていた。これも薄暗くてよく見えない。夕日か朝日が照らす海のような砂浜のような風景画だ。
「素敵な絵だ。でもなんだろう。あまりにも似つかわしくない。」
彼女はそう言うと、ベッドの近くにそれを置き、明かりを灯した。少し薄暗い感じが良いムードを演出する。ベッドの近くには丸いガラスのテーブル、その上にはワイングラスが置かれている。ベッドにはふわふわした気持ちよさそうなピンク色の布団が敷かれている。
「いい感じだね。これでとてもリラックスできる。」
「いいでしょ。二人で選んだカーテンもとっても素敵。」
青色と薄いピンク色のカーテンどっちが良いか聞かれ、彼女の好みっぽい方を選んだ。本当は青のほうが良かった。空のようでいい。
カーテンを開け、窓を開け、ベランダ越しに外を眺める。デザインマンションの10階。丸い月とキラキラ光る星たち、遠くにネオンが点々と輝く建物、その更に遠くの方で花火がポツポツと上がっているのも見える。
「座ってワインを飲みましょ。」
晴(はる)は言われるがままに窓際に置かれたソファに腰掛ける。彼女はピンク色のワインをグラスに注ぐ。
彼女とは数日前に出会った。一人でいたところに僕からそれとなく話しかけた。するとその場で意気投合し、連絡方法を交換し、翌日には部屋の模様替えをしたいから手伝ってと言われ、素直に応じた。マンションの一室。ライト、机、カーテンは初めてのデートで購入したものだ。恋愛の速度というものがあるのなら、光速の展開だ。
「素敵。こういうの憧れてたの。」
そう言うと彼女は目を薄くつむり肩を寄せてきた。お腹の空いた猫のよう。とても可愛い。黙ってこちらも肩に手を掛け体を寄せる。肩と肩の間からはハートが浮き出る。
「ねえ、はるくん。」
「なんだい。」
「ねえ、はるくんは彼女いるの?」
「いないよ。」
「あらそう?でも、もう二人、カップルみたいだよね。」
「そうだね。僕も言おうと思っていた。とてもいい感じだ。」
彼女は、更に体を寄せてくる。主人に匂い付けをする猫のようだ。
「ねえ。今度さ。アウトレットとかでショッピング一緒にしようよ。ほら、新しく出来たじゃない。海の近くの。」
「海の近くに?」
「そう。知らないの?あ、そうか、はるくんはどの辺りに住んでいるの?都内?」
来た。いつもの展開だ。この質問にはいつも答えづらい。
「ごめんね。僕はどこにも住んでいないんだ。」
「あらそうなんだ。って、えっ?」
彼女は、くっつけていた体を離した。顔つきは一変、じっと僕のことを睨みつけた。
「あんた、もしかして偽物ってやつ?」
「よくそう言われるけど、その言い方はあまり好きじゃないな。」
彼女は立ち上がり、頭を抱え頭を掻きむしる。なにかやりきれない感情をぶつけているようだ。
「げぇ、信じられない。最悪!!そういうことは最初に言ってよ。」
八つ当たりに彼女はグラスのワインを机に撒き散らし、椅子を倒す。少しして我に帰り大きなため息をつくと、そそくさと部屋から出ていく準備をし始めた。
「もう、分かりづらいのよねえ。今度から印でも付けといてよ。大きく見えるようにさあ。」
「騙すつもりじゃ・・・」
「はぁー。もういいの。楽しかったわ。じゃあね。」
そう言うと彼女は部屋から出ていった。嵐の被害にあった静まり返った部屋。もうこの部屋の家具も何もかもいらないってことなのだろう。
また同じことの繰り返しだ。だいたいこうなる。傷つき傷つけられる。まあ仕方がない。別に悪いことをしたわけではない。
特にもうやることもない。せっかくなので朝までこの部屋にいることにした。
翌早朝、部屋を出る。
言われるがままに来た場所。マンションを出た通りはショッピングストリート。白系の色に統一されたおしゃれなお店がきれいに建ち並ぶ。白いレンガ造りの道の両脇には等間隔に茶色のレトロな雰囲気の街灯が立ち並び、その下には大きな四角い鉢に植えられた色とりどりの花が飾られている。お店の脇にはところどころ机とベンチがあり、日中はここでお茶しているカップルも良く見かける。
まだ、朝早い。街灯がまだ点灯している。遠くからは朝日が昇ってきて、白いお店を鮮やかな朱色に染めている。
当然お店はまだ閉まっているがショーウインドウには四六時中、様々な品々が飾られている。この通りはウインドウショッピングをしているだけでもとても楽しい。
おしゃれなお店の中、ふと、冴えない店があるのを見つけた。小さくて今まで気が付かなかった。そもそもここはお店なのだろうか。薄いピンク色の建物だ。一軒だけ建物の高さが低く他の建物に隠れている。入り口だけ見るとおしゃれな門構えではある。窓にはレースのカーテンがかかっていて、中を覗いても商品らしき物は何も飾られていない。電気もついていない薄暗い室内には一脚の木の椅子、小汚い木のテーブルに鉛筆と紙があるだけ。寂しさ漂う。紙には何か書かれているみたいだが何なのかわからない。奥にも部屋があるようだが薄暗く良く見えなかった。
玄関の扉を開けようとするが鍵がかかっていて入れなかった。
窓から、部屋の中の壁に目を向けると絵画が飾られていた。これも薄暗くてよく見えない。夕日か朝日が照らす海のような砂浜のような風景画だ。
「素敵な絵だ。でもなんだろう。あまりにも似つかわしくない。」
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