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8話 二人の婚約
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私がそう聞くと彼は少し考える素振りを見せる。
「うむ。そうだな。一言で言うと君が何か悩んでいるようだったからだ」
「え?」
「君が悩む姿はあまり見たくないからな。俺で良ければ話を聞くぞ」
「……何でもいいんですか?」
「勿論だとも」
「実は……」
それから私は彼に全てを打ち明けた。
「成る程。つまりエマは元婚約者の男がコンテストで不正に手を染めたことを心苦しく思っていると」
「はい」
「だがしかし奴はそれでも所詮3位止まりだったんだろう」
「ええ」
「ならば気にする必要などあるまい」
「でも」
「でもじゃない。いいか、エマは優勝して2連覇を果たした。それで十分ではないか」
「でも、コンテストが歪んだ気がして……それに仮にも元々親しい間柄だったイギータさんがそんな音楽を汚す真似をするなんて……それがとてもショックで」
するとアルフレッドさんは私の頬を撫でる。
「エマ、音楽はそんなに甘いものではない。時には人を傷付けることもある。君の演奏は素晴らしいものだった。それを褒めることはあっても貶すものはいないだろう。ましてや3位の男如きに何ができるというのだ。君は何も悪くはない。悪いとすればそいつの方だ。そんな男のことを考える必要はない」
「アルフレッドさん」
「大丈夫だ。きっと君の気持ちは届くはずだ。だから何も心配はいらない」
「そうなんでしょうか」
「ああ、絶対にそうさ」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ」
そう言って彼は優しく微笑んでくれた。
やっぱりこの人は優しい人だと思った。
私にここまで親身になってくれるとは……。
だからこそ彼に惹かれてしまったのだが。
その後私たちは街を見て回った。
雑貨屋では見たこともないような商品ばかりで面白かったし、美味しいお店にも入ったりもした。
そして気付けば空はすっかり夕焼けに染まっていた。
「今日はとても楽しかったです」
「そうか、それは良かった」
「はい」
「では最後にあれに乗るとするかな」
「あれって」
彼が指差したのは観覧車だ。
「はい。乗りましょう」
私たちは観覧車に乗ろうと列に並ぶ。
順番が来るまでしばらくかかるようだ。
「楽しみですね」
「ああ、そうだな」
そしていよいよ私たちの番が来た。
ゆっくりとゴンドラに乗り込む。
窓の外を見ると街が一望できた。
「綺麗」
「ああ、絶景だな」
「はい。とても」
「エマ」
「はい?」
「改めて言うが先日の演奏とても見事だった。感動したよ。やはり君は凄いな」
「そんなことありません」
「謙遜することは無い。俺は本当に感動したんだ。君のような人が婚約者だったらどんなに幸せだろうかとね」
「えっ?」
「今更だが、俺と婚約してくれないか?」
「……」
私は言葉を失った。
まさか告白されるなんて思ってもいなかったからだ。
「答えはすぐに出さなくて構わない。ただ考えておいて欲しいんだ」
「……いえ、答えは決まってます」
「そうなのか?」
「はい」
「教えてくれるかい?」
「それは……」
私は目を閉じて深呼吸をした。
心臓がバクバクと鳴っている。
緊張する。
けど言わなければ。
「私は貴方と一緒になりたいと思っています」
「本当か!」
「はい」
「それは俺と結婚してくれるということか?」
「そのつもりで言いました」
「……」
沈黙が流れる。
「……駄目ですか?」
「いや、違う。驚いただけだ。嬉しくてね」
「それなら良いのですが」
「ありがとう。エマ、愛しているよ」
「私も愛しています」
2人で見つめ合う。
そしてどちらからともなくキスを交わしたのだった―――。
「うむ。そうだな。一言で言うと君が何か悩んでいるようだったからだ」
「え?」
「君が悩む姿はあまり見たくないからな。俺で良ければ話を聞くぞ」
「……何でもいいんですか?」
「勿論だとも」
「実は……」
それから私は彼に全てを打ち明けた。
「成る程。つまりエマは元婚約者の男がコンテストで不正に手を染めたことを心苦しく思っていると」
「はい」
「だがしかし奴はそれでも所詮3位止まりだったんだろう」
「ええ」
「ならば気にする必要などあるまい」
「でも」
「でもじゃない。いいか、エマは優勝して2連覇を果たした。それで十分ではないか」
「でも、コンテストが歪んだ気がして……それに仮にも元々親しい間柄だったイギータさんがそんな音楽を汚す真似をするなんて……それがとてもショックで」
するとアルフレッドさんは私の頬を撫でる。
「エマ、音楽はそんなに甘いものではない。時には人を傷付けることもある。君の演奏は素晴らしいものだった。それを褒めることはあっても貶すものはいないだろう。ましてや3位の男如きに何ができるというのだ。君は何も悪くはない。悪いとすればそいつの方だ。そんな男のことを考える必要はない」
「アルフレッドさん」
「大丈夫だ。きっと君の気持ちは届くはずだ。だから何も心配はいらない」
「そうなんでしょうか」
「ああ、絶対にそうさ」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ」
そう言って彼は優しく微笑んでくれた。
やっぱりこの人は優しい人だと思った。
私にここまで親身になってくれるとは……。
だからこそ彼に惹かれてしまったのだが。
その後私たちは街を見て回った。
雑貨屋では見たこともないような商品ばかりで面白かったし、美味しいお店にも入ったりもした。
そして気付けば空はすっかり夕焼けに染まっていた。
「今日はとても楽しかったです」
「そうか、それは良かった」
「はい」
「では最後にあれに乗るとするかな」
「あれって」
彼が指差したのは観覧車だ。
「はい。乗りましょう」
私たちは観覧車に乗ろうと列に並ぶ。
順番が来るまでしばらくかかるようだ。
「楽しみですね」
「ああ、そうだな」
そしていよいよ私たちの番が来た。
ゆっくりとゴンドラに乗り込む。
窓の外を見ると街が一望できた。
「綺麗」
「ああ、絶景だな」
「はい。とても」
「エマ」
「はい?」
「改めて言うが先日の演奏とても見事だった。感動したよ。やはり君は凄いな」
「そんなことありません」
「謙遜することは無い。俺は本当に感動したんだ。君のような人が婚約者だったらどんなに幸せだろうかとね」
「えっ?」
「今更だが、俺と婚約してくれないか?」
「……」
私は言葉を失った。
まさか告白されるなんて思ってもいなかったからだ。
「答えはすぐに出さなくて構わない。ただ考えておいて欲しいんだ」
「……いえ、答えは決まってます」
「そうなのか?」
「はい」
「教えてくれるかい?」
「それは……」
私は目を閉じて深呼吸をした。
心臓がバクバクと鳴っている。
緊張する。
けど言わなければ。
「私は貴方と一緒になりたいと思っています」
「本当か!」
「はい」
「それは俺と結婚してくれるということか?」
「そのつもりで言いました」
「……」
沈黙が流れる。
「……駄目ですか?」
「いや、違う。驚いただけだ。嬉しくてね」
「それなら良いのですが」
「ありがとう。エマ、愛しているよ」
「私も愛しています」
2人で見つめ合う。
そしてどちらからともなくキスを交わしたのだった―――。
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