婚約破棄の理由が『俺より優秀な女は要らん』って……。もう私も自由に生きていきます

カルラ アンジェリ

文字の大きさ
上 下
8 / 9

8話 二人の婚約

しおりを挟む
私がそう聞くと彼は少し考える素振りを見せる。

「うむ。そうだな。一言で言うと君が何か悩んでいるようだったからだ」
「え?」
「君が悩む姿はあまり見たくないからな。俺で良ければ話を聞くぞ」
「……何でもいいんですか?」
「勿論だとも」
「実は……」

それから私は彼に全てを打ち明けた。
「成る程。つまりエマは元婚約者の男がコンテストで不正に手を染めたことを心苦しく思っていると」
「はい」
「だがしかし奴はそれでも所詮3位止まりだったんだろう」
「ええ」
「ならば気にする必要などあるまい」
「でも」
「でもじゃない。いいか、エマは優勝して2連覇を果たした。それで十分ではないか」
「でも、コンテストが歪んだ気がして……それに仮にも元々親しい間柄だったイギータさんがそんな音楽を汚す真似をするなんて……それがとてもショックで」

するとアルフレッドさんは私の頬を撫でる。

「エマ、音楽はそんなに甘いものではない。時には人を傷付けることもある。君の演奏は素晴らしいものだった。それを褒めることはあっても貶すものはいないだろう。ましてや3位の男如きに何ができるというのだ。君は何も悪くはない。悪いとすればそいつの方だ。そんな男のことを考える必要はない」
「アルフレッドさん」
「大丈夫だ。きっと君の気持ちは届くはずだ。だから何も心配はいらない」
「そうなんでしょうか」
「ああ、絶対にそうさ」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ」

そう言って彼は優しく微笑んでくれた。
やっぱりこの人は優しい人だと思った。
私にここまで親身になってくれるとは……。
だからこそ彼に惹かれてしまったのだが。
その後私たちは街を見て回った。
雑貨屋では見たこともないような商品ばかりで面白かったし、美味しいお店にも入ったりもした。
そして気付けば空はすっかり夕焼けに染まっていた。

「今日はとても楽しかったです」
「そうか、それは良かった」
「はい」
「では最後にあれに乗るとするかな」
「あれって」

彼が指差したのは観覧車だ。

「はい。乗りましょう」

私たちは観覧車に乗ろうと列に並ぶ。
順番が来るまでしばらくかかるようだ。

「楽しみですね」
「ああ、そうだな」

そしていよいよ私たちの番が来た。
ゆっくりとゴンドラに乗り込む。
窓の外を見ると街が一望できた。

「綺麗」
「ああ、絶景だな」
「はい。とても」
「エマ」
「はい?」
「改めて言うが先日の演奏とても見事だった。感動したよ。やはり君は凄いな」
「そんなことありません」
「謙遜することは無い。俺は本当に感動したんだ。君のような人が婚約者だったらどんなに幸せだろうかとね」
「えっ?」
「今更だが、俺と婚約してくれないか?」
「……」

私は言葉を失った。
まさか告白されるなんて思ってもいなかったからだ。

「答えはすぐに出さなくて構わない。ただ考えておいて欲しいんだ」
「……いえ、答えは決まってます」
「そうなのか?」
「はい」
「教えてくれるかい?」
「それは……」

私は目を閉じて深呼吸をした。
心臓がバクバクと鳴っている。
緊張する。
けど言わなければ。

「私は貴方と一緒になりたいと思っています」
「本当か!」
「はい」
「それは俺と結婚してくれるということか?」
「そのつもりで言いました」
「……」

沈黙が流れる。

「……駄目ですか?」
「いや、違う。驚いただけだ。嬉しくてね」
「それなら良いのですが」
「ありがとう。エマ、愛しているよ」
「私も愛しています」

2人で見つめ合う。
そしてどちらからともなくキスを交わしたのだった―――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結】婚約破棄されたので、全力で応援することにしました。ふふっ、幸せになってくださいね。~真実の愛を貫く代償~

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄騒動の裏で僕らはのんびりと愛を育む。ありがたいことに出世しました。

うめまつ
恋愛
婚約破棄をした一粒種の皇太子と男爵令嬢がご成婚。皇太子ご夫妻となられた。陛下の采配に下々は大人しく従うだけ。特に側近の一人とは言え、雑用係の僕なんかね。でもまさか皇太子ご夫妻を真似て婚約破棄が流行るなんて。………僕らは巻き込まれたくないなぁ。え?君も婚約破棄してみたい?ちょっと待ってよ! ※会話のみです。コメディ感やテンポの良さなど何もありません。でもこういう地味なイチャイチャを見たくなりました。

処理中です...