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13話 プロの棋戦って何がある?

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 アマ竜王戦から半月ほど。
私はまだ敗北のショックを引きずっていた。

「はあ、悔しいな」

 後一勝で編入トーナメント出場資格を得られたのに、そこでの敗戦は想像以上にショックがデカかった。
 また一から出直しなのだ。

「次のアマ棋戦は……9月下旬のアマ王座戦か。次は勝てるかな……」

 さすがの私も惨敗には気弱になる。
自信も失いつつあった。
 しかし一方で妹は好調らしい。
先日5級への昇級を果たし、さらに昇級後も白星が先行するという感じで勢いに乗っている。
 目標は中学生のうちに1級リーグ昇級らしいが、それも夢じゃないだろう。
一方で姉の私は意気消沈気味。

「はあ、頑張ら無いと駄目なのにどうしてやる気出ないんだろう……」

 夢さんは結局アマ竜王で決勝まで残り準優勝だった。
優勝はあの島袋さん。
そういう意味じゃ私は優勝者に負けたのだから自信を失うことはないのかもしれない。
それでもどうしてもあの惨敗は胸に残った。

「はあ……でも頑張らないと。次はベスト8行かないと……絶対頑張らないと」

 何とか気持ちを立て直し、再び将棋盤に座り駒を並べようとした時だった。
一階で母から声がした。

「いちごーあなたに手紙よー」
「はーい。今行くー」

 母からの呼び出しに応じ階下へと降りる。
どうやら私宛の手紙らしかった。
封筒に『星河 いちごさまへ』と書かれている。
 私は部屋に戻り早速封筒を開ける。
すると中には一通の紙があり、そこにはこう記されていた。

『拝啓星河いちごさま。 貴方はこの度開かれる将棋東海オープンにアマ好成績者の一人に選出され出場可能になることが決まりました。ですので以下の日程に指定された会場にお越しいただきたくございます。 なお交通費宿泊費は全額こちらが負担いたしますのでご安心ください』

 そう書かれていた。

「東海オープンってなんだろ? 何の大会なんだろ?」

 私は首をひねってしまう。
すると部屋をノックする音が響く。

「はーい」
「お姉ちゃん、私。入っていい?」
「いいよ」

 ノックの主はあんずだった。
私は快く部屋へと入れる。

「何?」
「お姉ちゃんさっきの手紙。やっぱ東海オープンからの招待状?」
「えっ、そうだけど……なんでわかったの?」
「やっぱりか。 そりゃ分るよ。アマ棋戦で全国ベスト16以上ならほとんどが招待される将棋の13大オープン大会の一つだよ」
「オープン大会? そんなのあるの?」
「えっ、お姉ちゃん将棋のプロ目指してるのにオープン大会知らないの? じゃあえっと……タイトル戦は知ってるよね?」
「えっ、それは知ってるよ。確か8大タイトル戦でしょ」
「お姉ちゃん……大丈夫? タイトルは10個だよ」
「えっ?」
「お姉ちゃんさ。将棋は強いけど、プロのこと何も知らないんだね。じゃあ私が教えてあげるよ」
「ごめん。お願い」

 どうやら私はこの世界の戦術以外にプロのルールも知っておく必要があるようだ。

「まずはタイトル戦ね。これは全部で10個あるの。名人、竜王、棋聖、棋王、王位、王座、王将、叡王、鳳凰、皇帝ね」
「へえ、それで10個」

 従来の8タイトルに鳳凰と皇帝が追加されているらしい。

「それからテレビやネットで公開される対局が4つあるの。NHK杯と銀河戦とカップオブネットフリックスとクイーンズカップね」
「ネットフリックスがやってるんだ?」
「そうだよ。まあこの4つは銀河戦以外はプロしか出れない棋戦だからプロになる前の私達にはまだ関係ないね」
「そうだね」

 公開対局が4つか。多いな。

「それからさっき言ったオープンタイトルが13個あるの。北海道と沖縄と北関東と南関東と東海と関西と甲信越と東北と北陸と中国と九州と四国とそれから全日本オープンで13個ね」
「へえ、日本各地にオープン大会があるんだね」
「そうだよ。ちなみにこれらの大会はアマの出場枠が凄く多いからお姉ちゃんにとっては結構重要だよ」
「そうなんだ」

 オープン大会が13個。凄く多いな。

「それから出場者を絞ってる若手限定棋戦が6つあるよ。新人王戦と清流戦とチャレンジ杯とフューチャーズ杯と若葉戦とプリンセスカップね」
「そんなにあるんだ」
「そうだよ。出場規定は大会で違うけど、チャレンジ杯とフューチャーズ杯は特にアマの参加枠多いからここだけで勝ち星稼いでプロになる人も多いよ。それぐらいプロ目指すには大事な棋戦だね」
「へえ」

 6個ッて多いな。

「あともう一つプロの上位だけが出れる棋戦でシーズンファイナルってあるけど、これはまだ関係無いね」
「うんそうだね」

 まだあるんだ。全部で……34か。この世界の棋戦数めちゃ多いんだな。

「それで話し戻すとお姉ちゃんが今回出るのは東海オープンって棋戦ね。去年は三重だったから今年は確か愛知で開催されるはずだよ。ロレックスプレゼンツで賞金や対局料も多いからお姉ちゃん結構貰えるはずだよ」
「そんなに?」
「うんうん。プロ棋戦は予選から出るアマも全員賞金と対局料出るからお姉ちゃんちょっとしたお金持ちだね」
「そんなまさか……」

 でもそんな大手がスポンサーなら凄いのかな。

「でもそれなら頑張らないとね。私頑張るよ!」
「その意気だよ。頑張ってね。お姉ちゃん」

 私はやる気が出るのを感じる。
せっかく降ってわいたプロ棋戦出場資格だ。
絶対に活かしてやるんだから。
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