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12話 決戦への分水嶺

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 正直言って竜王戦の一回戦と二開戦は余裕だった。
事前にトレーニングで棋力を底上げしたのもあり、苦戦すること無く勝利を挙げた。
つまり後一勝で編入トーナメント出場資格を得れるというわけだ。

「えっと次の相手は……沖縄代表の島袋由加里って人か」
「よー、やっぱいちごちゃんも勝ち残っとるか。調子いいな」
「はい。夢さんも絶好調ですね」
「まあこないなところで負けられへんしな。最低でもあと二つ勝って竜王戦出場資格取らんと出た意味本当に無いしな。負けれへんて」
「そうですよね。やっぱここまで残るとみんな……」
「やっぱ全員狙っとるよな。竜王戦出場資格は。これ取るとプロに一気に近づけるし、ここまで残ったら全員狙うでやっぱ」
「やっぱり……なんだか緊張してきますね」
「そんなんじゃあかんで。次の相手……島袋由加里は強いで」
「そうなんですか?」
「ああ。沖縄史上最強のアマって言われてプロ相手にも4勝挙げてるめっちゃ強い人や。それでまだ20歳言うんやからまだまだ伸びるし本当にヤバいで」
「油断出来ませんね」
「ああそうや。でも絶対勝てへんわけやないと思うし、頑張りなや」
「ええ。そうですね」

 私は気合を入れ直す。
そうだ。ここまで来て負けてなるものか。

「それじゃ互いに頑張ろうや」
「はい」

 私は夢さんと分かれ、対局の指定された椅子に座る。
既に相手は座っていた。

「あなたが私の相手?」
「はいそうです」
「ふーん、まだ子供ね。私の相手じゃ無いわ」
「なっ!」

 バカにされたのを感じる。
でもそれは相手に油断があることの証左でもある。
チャンスだと感じる。

 そしてすぐに対局開始の合図が始まり対局が始まる。
振りゴマの結果、私が先手となる。

「んっ!」

 気合を入れて指す。
私の必殺の速攻相掛かりを狙う。

「ふーん」

 でも相手はかまわずにスローペースだった。
それならドンドン攻めるまでだ。

 十分後。
私は更に駒を進めて銀交換に成功する。
さらに飛車も相手の角頭ににらみを利かせて優位に立った。

「ふーん。そう来るんだ。でもそれは甘いよ」
「なっ!」

 次の相手の指し手に私は焦る。
なんと相手は私の角頭にと金を作ったのだ。
これでは私は金損は確定するうえに相手に竜を作らせることになる。

「角頭と戦法よ。相手の角の頭にと金を作って一気に潰す私の戦法。これを食らって逆転出来た人は一人もいない!」
「くっ」

 とんでもない戦法に私は一気に劣勢になる。
こんな戦法は元の世界には無かった戦法だ。
本で調べた限りでもない。 新しい新型戦法? どっちにしても苦しい展開になった。

 その後何とか粘るが、金一枚の損とそのまま相手に竜を作られてはどうしようもない。
更にと金を複数作られ、私は完全に敗勢となり勝負は一気についた。
最後の寄せはもう手の打ちようもない。
完全な敗北に終わった。

「ま……負けました」

 それで終わり。
ベスト4も見えたと思ったのにそれも適わず、それどころか編入トーナメント出場資格のベスト8にも届かない。
 ベスト16。
それが私のアマ棋戦デビューとなったのだった。
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