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二話「初デートは心臓大パニック」 その8

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翌日。
お昼休みになり、僕は渚さまと共に音楽室に来ている。
僕の下駄箱に純香さまの封筒があったからだ。
「洸夜も純香さまから封筒を頂いたの?」
「はい。渚さまもですか?」
「ええそうよ。下駄箱を開けたら突然封筒があったから驚いたわ」
「確かに驚きますよね。いきなり封筒ですから」
どうやら渚さまも僕と同様の封筒をいただいたようだ。
封筒は外装も、薄い水色で清潔そうだった。
そして封筒の中身には
『お昼休みに音楽室に来なさい。曲が決まったわよ。純香より』
とだけ書かれていた。
一方的な風にも取れるけど、それは純香さまの場合今に始まったことじゃないので気にしない。
何より、曲が気になったので来る以外の選択肢は最初から無かったと思う。
そして、僕と渚さまが来ると数十秒程度の遅れで、純香さまも音楽室へと入ってくる。
「待たせてごめんなさいね」
「いえ、僕も本当に少し前に来たばかりです」
「はい。わたくし達がここに来てからまだ数えるほども経っていませんわ」
純香さまに、すぐにそれほど待たせていないことを伝える。
すると、純香さまもすぐにもとの調子に戻る。
「それなら良かったわ。それで曲だけど私が早速聴いてみるわよね」
純香さまはそれだけ言うとピアノの前の椅子に座りふたを開く。
純香さまの動きはとても自然で、普段からピアノを弾いているのがよくわかる。
「この曲は有名だから知ってると思うけど、少しだけアレンジを加えてるから。ちゃんと聴いていなさいよ」
純香さまは僕と渚さまに注意すると演奏を始める。
曲は静かに入り徐々に盛り上がる。とても耳障りの良い曲だった。
純香さまは優しく、だけど力強くピアノを弾く。
曲はパッヘルベルのカノンだというのはすぐに分かった。
だけど、少しだけ違うところがある。
ちょっとずつだけど、二つのメロディのずれが縮んでいる。
それはほんの少し、だけど確かに。
それだけで本来とは大きく違う印象を受ける。
そのまま、最後まで完全に重なりはせず、だけど限りなく二つの音が重なるところで曲は終了する。
「どうだったかしら。私の演奏は」
「すっ、凄いですよ純香さま。とても綺麗で、オリジナルとは違う新しい魅力があって、素敵でした」
純香さまの問いに思わず興奮したような口調で僕は答えてしまう。
「わたくしも洸夜と同じ意見ですわ。純香さまの演奏はとても落ち着けて聞けるのでわたくしも好きですわ」
渚さまも笑顔で答えている。
その僕と渚さまの答えに純香さまはとても嬉しそうな笑顔を見せている。
「二人ともそんなに素敵だったの?嬉しいわね。それで私が二人に伝えたいことは分かったかしら」
「はい。僕と渚さまでその曲を一緒に演奏するんですよね」
僕は元気よく答える。
何だか純香さまの凄い演奏を聞いて、僕にもほんの少し高揚感が出てるのかも知れない。
「正解よ洸夜ちゃん。でももう少しだけ正確に言ってくれると嬉しいな」
純香さまは笑顔で言ってくれたけど、少しだけ言葉が足りなかったみたいだった。
「つまりその曲をわたくしと洸夜のヴァイオリンデュオで弾けばいいのですね。わたくしが最初に弾き始め、一拍子置いて洸夜が弾き始めて、テンポを変えていって、少しずつ近づくように弾いていく。正しいですよね」
渚さまが細かく内容を説明する。
その答えに純香さまは満足そうだった。
「完璧よ。さすが渚ね。この曲は二人の関係をアピールしたのよ。コンセプトは追いかけっこ。洸夜が渚を追いかけて、最終的には限りなく近づいていく。だけど、それでもわずかに渚が最後まで洸夜の先頭に立つ。二人の今後の理想な関係をテーマにしたのよ」
「さすが純香さまですね。これなら新たなジャックとクイーンの任命式にピッタリだと思いますわ」
純香さまの考えには渚さまも感激していた。
僕も正直に言うと凄いと思う。
曲の内容だけじゃなく、アレンジとテーマまで一晩で考えて形にしてしまうんだから。
純香さまがみんなから慕われている理由が僕にも理解できる。
「凄いです純香さま。僕も頑張って練習します。純香さまや渚さまと一緒に居て恥ずかしくないように頑張ります」
僕も今の気持ちを素直に伝える。
「当たり前でしょう、わたくしが選んだのだからしっかりしていただかないと」
渚さまが相変わらずだけど、やっぱり表情から凄く嬉しそうなのは感じ取れる。
「頼もしいわね洸夜ちゃんならスペードの未来も安心ね。とても頼もしいわ」
純香さまも僕に笑顔を見せてくれる。
この渚さまと純香さまの期待に応えられるように、僕も頑張ろうと強く心に誓う。
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