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布越しのキス

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コンテナ船を降りると、バイウーに言いつけられた部下が車に乗せてくれた。
もしかして、僕が凹ませた車だろうかと上が気になったけれど、もう夜で真っ暗だし、兄に抱きかかえられている為によく分からなかった。
兄の僕を心配する様子は、鬼気迫るものがあり…僕らの間に少しの隙間も作らせない程だった。

家に帰り着いて、お風呂から上がると…どっと疲れが出た。

手足の関節がサワサワして…あぁ…熱が出るなと分かった。
どうにか兄にバレないように気をつかったけど…顔は真っ赤だし、はぁはぁしてしまい、無事にベッドの住人となった。

「ヒナタ…寒くないか?」

常に僕のベッドの横に控えているアスカ兄が、僕の布団を顎まで持ち上げた。
頬にそっと触れてくる手が、以前よりも優しくて、くすぐったい。
思わず首をすくめて笑ってしまう。

「うん、もう大丈夫だよ」
「お前の大丈夫は、まったく信用できない。お前は、きっと崖から落ちながらでも大丈夫だと言う…」

兄の鋭い目が、僕をジトッと恨みを込めたような目で見た。
今回の誘拐事件で、すっかり信用の無くなった僕に、兄の過保護モードは上限を突破した。

「いくら何でも、崖から落ちるときは普通に叫びます。ギャーギャー言います」
「…例えば側に俺がいたら?」
「え?」

兄さんが側に居たら?
絶対、僕を助けようとして無茶しそうだから……歯を噛みしめて…無言で落ちるかも…。

「あ…えっと……兄さんに縋り付きます」

正解が分からない。
ただ、嘘だから、つい視線が泳いでしまう。
床に座り込んで僕を見ている兄が、ため息をついた。

「嘘だ…お前は、絶対黙って落ちる」
「そ…そんな事無いです!我が身可愛さに、兄さんの足にガシッとつかみかかりますよ…はは…」
「……ぜひ、そうしろ。何が何でも俺を道連れにしろよ。俺が何とかする…お前を守る」

覆い被さってきた、端正なお顔が目の前に迫り…心臓がドキドキと高鳴る。
BLゲーム主人公の完璧な実写版は、その気がない弟すらも惑わす。
長めの黒い前髪が、サラサラと流れている。

まずいです。
何かちょっと…美しすぎてキスしたいくらいです。
だって、凄い好きだったんですから、主人公の坂巻アスカが。

「…に…兄さん……そういうのは、弟じゃなくて…恋人とかに言って下さい」

ちょっと、少女漫画の主人公の気分になってしまったじゃないか。
危ない、危ない。
兄さんの周りに、美しいキラキラエフェクト見えちゃったよ。

「…恋人なんていらない。お前以外に大事なものなんて無い」

ひいいいいいい!!
やめて、凄い真剣な目で…キスできそうな程、間近で…そんな腰が砕けそうな台詞言わないで!!

「に…兄さん!なんか…恥ずかしい!」

恐ろしい視覚的な誘惑を遮るために、布団をおでこまで持ち上げた。

「…俺は、お前の居ない世界でなんて生きていたくない…」

布団の向こうから、とんでもない台詞が聞こえたかと思うと、顔に掛かった布が…より密着してきた。

あれ…唇に感じたのって…兄さんの…。

「……に…兄さん⁉」

思わず、布団から顔を出すと、もう兄は後ろを向いていた。

「食べるものを買ってくる…」

混乱する僕を無視して、兄はテーブルに置かれた札束を掴んでパーカーのポケットに押し込んだ。
そして一度も振り返ることなく、部屋を出て行った。

「……」

い…今のは…。
キス!布団越しに、僕らはキスしましたか⁉
えっ…どういう事でしょうか。

僕は状況を整理することにした。
兄は、僕が思っているよりも…僕を大切に思ってくれている。
その感情は…兄弟愛を…越えているの?

えっ…禁断の愛?

えっ…何?
地球では、僕が死んだ後に、このゲームは産天堂ポチットナとかに移植されて…弟ルートが出来たの⁉

「…うそ…」

僕×兄のルートに入ったのだろうか。
いつの間に、そんな事に?

えっ…僕が、兄さんと禁断の愛?

兄さんの美雄っぱい、兄さんの美しいチンコ。
兄さんの…筋肉触りたい放題。

僕のこの男性器で、兄さんの喘ぎ越えを!

いや、いや、いや…嫌じゃ無い!
むしろ、なんというボーナストラック!
だがしかし…惜しむべきは、僕には兄さんを幸せにする能力が足らない。
稼ぎも無い、特殊能力も無い、夜の技術も無い。

やはり、僕は兄の側を離れるべきだと思う。
こんな僕の事など忘れて、アスカ兄さんには幸せになって欲しい。

「……出て行こう」

このまま此処に居たら駄目だ。

だけど、今出て行っても…直ぐに探し出されて…追いつかれてしまう。
どうにか、時間を稼がないと。

兄が僕を追って来れない方法は…。

「…あっ…」

視界に、ゴミ箱に押し込まれたバイウーのジャケットが目に入った。

「…もしかして!」

ベッドから飛び出して、バイウーのジャケットを手にした。
ほんのりとバイウーの香水の匂いがした。

そして、そのポケットには、あの目薬型の媚薬が…。







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