飛んで火に入る夏の虫に転生しました。

足手まとい（アスカ視点）

ヒナタの元へ降り立つと、ヒナタは自らの頭に銃を構えていた。
細い腕には銃身は、重そうだ。

ほら…恐怖のために震えて落としてしまいそうじゃないか。

そして…散々泣きはらしたであろうヒナタの目は赤く腫れている。
こんな寒い部屋なのに、Ｔシャツに下着姿で…明らかに精液で汚れている。
直ぐ近くに落とされた手錠。
きっとヒナタは、無理矢理バイウーに犯されたのだ…。

あぁ…可哀想に…どれほど、痛く苦しい思いをしたのだろう。

「ヒナタ……遅れてすまない……良い子だから……ソレを床に置け」

俺は、ヒナタを刺激しないように、ゆっくりと近づいた。

「兄さん……ごめん、また、足手纏いになってしまいました…」

ヒナタが消え入りそうな声で言った。
足手纏い？
いつ？
いつ、ヒナタが俺の足手纏いになった？

それは、俺の方だ。
生きる希望もなく自暴自棄になっていた俺を生かしたのは、ヒナタだ。
ヒナタが居たから俺は生きている。
ヒナタの為なら俺は何だってできる。でも、ヒナタは我が儘なんて一つも言ってくれない。
俺を頼ってはくれない。

「何を言っている……俺のせいでお前は酷い目に遭っているんだ……すまない…」

それでも…お前の側を離れたくない。

「来ないで、兄さん！」

興奮したヒナタが叫ぶ。
拳銃を握るヒナタの手に力が入る。
精神的にも肉体的にも苦痛を受けてヒナタは、通常の精神状態ではないのだろう…こんな状況なのに心ここにあらず…そんな雰囲気がする。
何をするか分からない。
別にバイウーや俺が撃たれるなら、それで構わない。

だが、ヒナタだけは駄目だ。

「やめろ……ヒナタ、とにかくソレを一度置いてくれ！」

昔はヒナタが具合を悪くする度に、怒りに近い感覚が芽生えた。最初は弱いヒナタを軽蔑しているのかと思った。けれど…直ぐにわかった。

ヒナタの具合が悪くなるのは、俺を支える為だったし…寝込んだヒナタに俺が出来る事が何もなく…悔しかった。不甲斐なかった。自分の無力さに反吐が出た。

多少、強くなっても。
金を稼げるようになっても

何も変わらない。

俺の大切なヒナタは、今も俺のせいで苦しんでいる。

「バイウー、約束を守って下さいね」

俺をジッと見つめていた瞳が、バイウーへと向けられた。
約束？
なんだ、それは…。

まさか、ヒナタが命を絶つことで…俺を見逃すとでも言われたのか⁉

ふざけるな！

そんな…そんな事、何の意味も無い！

ヒナタの居ない世界に、生き残るなんてゾッとする。

俺の目の前で、ヒナタが命を絶つなんて…地獄だ。

俺は恐怖で足が震えた。
今すぐヒナタに駆け寄って、その銃を奪いたい。
普段の自分なら容易にできる。
ヒナタの腕を蹴りつけて銃を落とす？
ヒナタの銃を撃つ？
無理だ。
もしも、ヒナタが先に自分を撃ったら？
もしも、ヒナタに俺の弾が当たったら？

恐怖で一歩も動けない。

横でバイウーが何事か叫んだ。

すると、ヒナタが覚悟を決めたようにギュッと目を閉じた。

「ヒナタ！やめろ！やめてくれー‼」

馬鹿みたいに叫んだ。
ただ、その場で。

動け！
ヒナタを助けろ！
なぜ…なぜ動けない！

いつもなら、考えるまでも無く、体が動く。
仕事を遂行する為に、一切の無駄もなく…戦えるのに…。


手も足も出ない。

嫌だ…嫌だ…やめてくれ…ヒナタ…ヒナタ！！