飛んで火に入る夏の虫に転生しました。

ヒナタの危機（アスカ視点）

ヒナタが誘拐された。

降りかかる火の粉を蹴散らし、急いで家に帰った。
部屋は鍵が開いており、室内には割られたガラスが散乱していた。

「くそっ！！」

ヒナタには暫く外出を控えるように言っていたが…まさか相手がここまでするとは…。
自分の考えの甘さに怒りを覚えた。

たしかにバイウーの取引先を潰したが、商魂逞しいバイウーは早々に次の取引先に物を売りさばいた。
しかも、俺が潰した組織の金や、売れそうな物品、使えそうな関係者、すべて攫っていった。
結構な得になったはずだ。

まさか…ヒナタに興味を持ったのか？
バイウーは、特定の人間に興味を持ったりしない人間じゃ無かったのか？
何度か目にした事があるが、金にしか興味が無いと思っていた。
連れ歩くような相手もおらず、金で買った男と一夜を共にする…そういう人間だったはずなのに…。

「……アイツ…ヒナタに手を出したら…許さない！」

ヒナタはいつも癖の強い男に執着される。
今まで何人の馬鹿共を片付けてきたか分からない。

あの綺麗な顔と体、赤ん坊みたいな澄んだ瞳、汚れない雰囲気は、腐りきった人間には魅力的すぎる。

だが…ヒナタは誰にも渡さない。

一生、俺の腕の中から…離さない。

部屋に隠した武器を装備し、ヒナタの元へ向かった。



□□□



正面から突破して無駄な弾を消費したくない。
見張りの目を掻い潜り、バイウーのいるコンテナ船へと侵入した。
幾つか予想される部屋を探し、ダクトの中に入った。

すると…微かに聞こえてくる、ヒナタの声。

「…怖い……怖いよっ……うぁああ!……あっ…あぁーー!こわ……い……兄さん……」

ヒナタの泣き叫ぶ悲鳴に、俺の心臓が爆ぜた。
あの辛抱強いヒナタが、俺の名前を呼んでいる。
怖いと…。

うぁああああ！！

俺は声のする方へと這い進む。
焦りと、怒り…自分でも制御できない感情が荒れ狂い目の前が紅く見えた。

ヒナタ…ヒナタ！！


「あっ…うぅ…あああ！やだっ……怖い!!あああー!!」

ヒナタの悲鳴が、更に追い詰められた声になってきた。
しかし…声はまだ遠い！
くそっ！くそぉおお！

見つかるかもしれない、そんな思考は抜け落ちて、ドタバタと這う。

なんて馬鹿みたいで滑稽な姿だろうか…。

大切な唯一の人間を、こんな酷い目に遭わせる、無能な役立たずが今の自分だ。


「あああー!!やだぁ!!とまっ…止まって!!ああああー!!もうしないで!!うあああー!!」

段々とハッキリ聞こえてくる、ヒナタの悲鳴。
その声が俺の心臓に刃となって突き刺す。

まさか…ヒナタは…バイウーの餌食にされてしまったのか。

何てことだ…あんな華奢な体で、戦闘に長けた男に無理矢理犯され、どんな恐怖を感じているだろう。
ヒナタが壊れてしまう。
体も、あの優しい心も…。
ヒナタが消えてしまう。


やがて、ヒナタの悲鳴が途切れ…自分の心臓の鼓動が五月蠅く耳に響いた。


「ヒナタ！！」