口うるさい親友が夏の旅行で、ロマンチック仕掛けてきた

いんげん

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口うるさい親友✕主人公

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「おい、お前誰だ。荷物をまとめてさっさと出ていけ」

春の朝、築50年の劣化した波板スレートで覆われた、古い町工場にも明るい日差しが差している。

東京都内でありながら、古い住宅が並び、昔ながらの商店と、所々に真新しい店舗が混在する町に佇む、三笠工業。
本日、工場は停止日の為、騒がしい金属音は聞こえない。

工場の上の住居に一人で暮らす、社長の次男、三笠 丸(みかさ まる)が酒の残る体を小学生の頃から使っている、薄くなった布団に沈めている。

視界に入った、ツンと立ち上がった畳のイグサを引き抜こうとしたが、失敗した。プツンという音の代わりに聞こえてきたのは、聞き覚えのある男の声だ。

「おい!この汚いシャツもお前のだろ。持っていけ」

丸の親友が、網入りの重いガラスを開けて、窓の外に布を投げ捨てた。

下の方で誰かが文句を言う声が聞こえたが、ピシャリと窓が閉まり、何も聞こえなくなった。

彼がティーシャツを掴む為に使った、床に転がっていたマジックハンドを丁寧に棚の上に戻した。

「…まったく…困ったやつだ」

ブツブツと文句を言いながら、散らかった部屋を片付ける彼は、実にこの部屋にはミスマッチな男だった。

スラリと背の高い、高級なスーツに見を包んだ美青年、上條 廉次(かみじょう れんじ)は丸の中学からの友人だ。

町工場の息子の丸と、大企業の重役の息子の廉次。
彼らは、見るからに正反対な友人だった。

道行く女性に熱い視線を送られる、涼しげな整った容姿の廉次は、ノンフレームのメガネをかけ、怜悧な印象を受ける、いわゆる勝ち組だ。

半導体製造に関わる大手企業の本社に勤務し、綺麗なマンションに暮らしている。

一方の丸は、少し濃いめの眉と、眼力の強さが印象的な、普通の容姿。
周囲からは【ダイヤモンドの原石っぽい印象の、石ころ】と評されている。

身長も173センチと至って普通。

おしゃれに興味は無く、なんとなく変なプリントがされたTシャツを着て、適当な短パンを履くのが常だ。

二人が一緒だったのは中学だけで、一流の進学校に行った廉次に対し、丸は家から一番近い工業高校に通い、稼業である三笠工業に就職。

まだまだ現役の父の下で、のらりくらりと仕事をしている。

住居は、工場の上、昔は住み込みの作業員が使っていた部屋だ。
擦り切れた畳の2K。日に焼けた襖。
紐を引いてつける電気。
お風呂のお湯は蛇口から出るお湯をためる。
タイル張りで体育座りでしか入れない湯船。

トイレは壊れ、リフォームしたために、ぎりぎり洋式だ。


三笠 丸 27歳、冴えない男子の代表のような男だった。

「……だれかれ構わず友達になっては、部屋にとめるな……お前には防犯意識がないのか…」

ボケっと座る丸を尻目に、母親のように部屋を片付け、台所のテーブルの上に買ってきたサンドイッチとコーヒーを広げる。

キッチリと着込んだ、明るいグレーのサマースーツの背広を脱いで椅子の背に掛けた。

丸は、なぜ暑いのにわざわざベストまで着るのかと、今日も一分の隙も無い友人を見上げた。

「ほら、さっさと食べるぞ。遅刻する」
「…」

丸は、俺、休みだけど…という言葉が頭によぎったが、まぁいいかと重い腰を上げ、台所へと進んだ。

廉次の眼鏡越しの冷たい視線が、丸のソケットモンスターのブリーフに注がれる。

「…ズボンをはいて寝ろ…」

廉次が美しい所作でマイタンブラーのコーヒーを飲んでいる。

「んー」

丸は気のない返事をすると、席に着いてサンドイッチに手を出した。

二日おきに廉次が、丸の部屋にやって来て朝食を一緒にとる二人。

丸が高校を卒業して、この部屋に住むようになってから、廉次が勝手に行っているルーティーンの一つだ。

丸は「大学でぼっちなのか?」と聞くに聞けず、別に嫌でもないし苦でもない為に容認していた。

この一見、神様に全てを授かってきたような完璧な友人が、神経質で気難しく、女子からはキャーキャー言われるが同性からは誤解され、遠巻きにされる事を心配していた。

「お前の親父さんからお盆の休みを聞いた。合わせて有給をとった。今年のプランを考えてきたから目を通しておいてくれ」

廉次がビジネスバッグから、ファイルを取り出すと丸のサンドイッチの横に置いた。

『2022年度、夏季保養計画』

丸は、毎年夏と冬に提出されるこの旅行計画を見る度に、この友人はやはり変わっていると思う。

なぜ、普通に「おい、丸!旅行行こうぜ」といえないのだろうか?

そう思うが、彼は口に出して言ったことは無かった。

基本的に何でもそのまま受け入れる、適当でいて寛容な性格が丸と廉次の関係が続いている要素の一つなのだった。

「今年でこの計画も5年目だ。全体的に計画をブラッシュアップしておいた。変更を要求するなら事前に申請してくれ」

廉次は丸の顔を見ず、目を伏せて言った。

「んー。廉次、ポテトないの?」
「…無い。糖質、脂質がオーバーだ。それより、聞いていたのか?資料に目を通して置けよ」
「廉次…今日、なんかあんの?ソワソワしてねぇ?」
「…無い」
「ふーん」



廉次が仕事へ出かけ、丸は歯を磨き、録画していたバラエティ番組を見ていた。

チラリと資料のファイルが目に入る。

去年の二人の夏の旅行は、北海道だった。
海産物三昧と動物園、自然を大いに満喫した思い出が蘇る。

「今年は何処にいくんだ?」

丸は無駄に堅苦しく書かれた資料に目を通した。

目的地、沖縄。

「THE 夏だな!蒼い海、白い砂浜!女の子!ふぅーー!」

企画の目的
二人の関係の進展を図る。

「あ?親睦を深めるってことか?」

上条 廉次という商品の認知向上とアピール。相性の確認。

「……やっぱりアイツよくわかんねぇわ…」

丸は太めの眉をひそめた。ファイルを布団の上に投げ捨てる。


中学2年で初めて同じクラスになった、丸と廉次。

当時、廉次は完全にクラスから孤立していた。
まさに一匹狼のようだった。

女子には絶大な人気を誇っていたが、不可侵とされ女子達は遠巻きにキャーキャー騒ぎ、男子からは、その完璧さと隙のなさから、すかした野郎と距離を取られていた。

しかし、丸は違った。スナックを経営するコミュニケーションお化けと言われる母に似て、人との距離感がおかしかった。

後ろの席になった廉次にずけずけと話しかけ、やって来なかった宿題を「教えて」と廉次のノートを見て写した。
自分が嫌いな給食を廉次に「あーん」と食べさせ、冷たい態度を取られても、お構いなしに、楽しそうにニコニコと自分のペースで構い倒した。

すると、いつしか丸の友人達も廉次を受け入れた。

女子達も廉次の神経質で口うるさい性質をしり、キャーキャー騒が無くなった。


その頃から、丸の預かりしなる所で、廉次は丸に恋をしていた。

「これが…恋という感情なのか…」

廉次は元々、女性に性的に興味が無かった。
丸が初恋の相手だ。
彗星のように自分の前に現れ、蟻地獄のように深い谷に落とし込んだ、丸。本人だけが気がついていないが、周囲はもはや二人を夫婦のように認識していた。

「俺は将来、丸と結婚する」と、真面目に親にカミングアウトもしている。
「まずは告白したら?」と母親に冷静に指摘されたのも遠い記憶だ。
すでに年の離れた兄と姉が結婚し、孫も4人居る上條家。廉次には良い意味で関心が薄く、とても自由だった。



「聞いたよ、丸」
そろそろお盆休みが近づいてきた、夏のある日。

工場には差し入れを持って、地方病院で勤務する丸の兄・直(なお)がやって来ると、休憩室でお茶をしながら話を始めた。

「何が?」
「沖縄だよ、沖縄。ついに一線越えるんだって」

机を挟んでパイプ椅子に座る直が、うちわで自らを仰ぎながらニヤニヤと丸に聞いた。
水菓子に手を出しながら、丸が直を見やる。

「一線?なにそれ?」
「もー、言わせるなよ!アレだろアレ。にいちゃん、肛門科に知り合い居るから、安心しろ」

「肛門?アレ?…あっ、電話だ」

事務所の電話が鳴り、丸は席を立った。

「おう、頑張れよ、弟よ!」
「ん?あ?ああ」


□□□□□


「何だコレ…すっご!」
やって来た夏の沖縄、離島。丸は、ホテルに入り目を丸くした。

今までの旅行も、そこそこ良い部屋に泊まっていたけれど、今回の部屋は、更に凄かった。

まるで一軒の別荘を貸し切ったような、広い部屋はロイヤルスイートの名に恥じない作りで、外にはプライベートプールとジェットバス、くつろぎのカフェスペースまで用意されている。まさに高級リゾート。

「そうか…喜んで貰えて良かった」
「おお!この綺麗で、デカいプール独り占めかよ!」

丸はパンパンに詰まったリュックを投げ捨てると、プールへ向かって走り出した。走りながらサンダルとTシャツも脱ぎ捨てた。

「待て、丸!」
「え?何で?プライベートプールなら水着じゃなくても良いだろ」

部屋から一日手前で止まり丸が振り返ると、廉次がキャリーケースを開いて何か取り出している。

「日焼け止めを塗ってやるから、そこに横になれ」
「めんどくせー」
「…」

廉次は無言でベッドサイドにあったバスタオルをベンチソファに広げた。

「…わかったよ」

無言の圧力を感じた丸が、短パンを脱いでうつ伏せで横になると、旅行のために買った真新しい水色のパンツが晒された。

いつもは、しょうもないトランクスを履いている丸なのに…、廉次は心臓がトクンと高鳴った。

「…」

廉次は旅の保養計画の3ページ目には、夜の行為についても言及した。

それに目を通しても、丸は計画の変更を申し出なかった。
ということは…丸も期待しているということ…と廉次は理解した。

現に丸は、自分の為に新しい勝負パンツで着ている…廉次の熱い想いは沸騰しそうだった。

真実、丸は企画書の1ページまでしか見ていなかった。


「…丸、塗っていくぞ」

「変なことするなよ」

友人に日焼け止めで、アホと書かれた事のある丸は、廉次に釘を刺したが、廉次は性的な意味に捉えた。
つまり…それは…お誘いだろうかと。

「……」

ごくりと廉次の喉が鳴った。

しかし、ブルブルと首を振って、ズレた眼鏡を日焼け止めを出した反対の手でなおした。

まだ、着いたばかりだ、本格的な行為に及ぶには早すぎる…ここは、すこしだけ…と自らの欲望に静止をかけた。

白いミルクタイプの日焼け止めが、丸の背中に垂れた。

「……」

それだけで、卑猥な想像をかき立てられた廉次。さっさとやってくれ、と思う丸。

「さ…さわるぞ」
廉次の指の長い大きな手が、丸の背中を撫でる。
健康的で肌つやの良い丸の背中の感触に、廉次がうっとりする。

背中、肩、腕、足にまで塗り終える。

「良し。次は前だ」
「はぁ?別に前は自分で濡れるし」
「…」

起き上がって抗議する丸は、欲望にギラリと光る廉次の強い眼差しに沈黙した。

美形が怒った顔は迫力がある。

丸は、大人しく今度は仰向けに寝そべった。

廉次が無言で、手を丸の胸に添えた。
鎖骨の下から、ゆっくりと下がっていく手のひらが丸の乳首の先端に触れる。

「お~い、おっぱい触ってるぞ」

丸はおどけて廉次を見た。
しかし、廉次はなにも答えず、その指を乳輪に走らせた。
右の乳首の周りを円を描くように動かし、今度は左の乳輪をクルクルと触れた。

「…っちょ…廉次…エロかよ…」

「…まる……乳首が尖った…」

廉次の指が、ツンと尖ったおっぱいの頂に到達する。

「なっ…ソコは塗らなくて良いだろう!」

「…そうだな、すまない。いま…とってやる」

そう言うと、廉次の顔が丸の胸に近づいて、丸の左の乳首が、廉次の唇に包み込まれた。

丸の乳首が、チロチロと廉次の舌の先端に刺激される。

「ちょっ…れ…廉次!やめっ…くすぐったい…」

丸は必死に身をよじって、廉次の少しくせ毛の髪を掴み引き剥がした。

くすぐったさと、じんじんする感覚に、丸は何だか恥ずかしくて仕方なかった。

「あっ…そうだ!せっかくだし、プールじゃなくて、海行こうぜ!海!」

丸は、この場の空気をどうにかしたい一心で、畳みかけるように話した。

一方の廉次は、先ほどの丸の乳首の感触を思い出しながら、唇を舐め…感動していた。

「…海に出るなら…コレも着ていけ」

冷静さを取り戻した廉次が、丸に布を投げた。

「うわっ…なんだ?」
「ラッシュガードだ」

丸は、白いラッシュガードを広げ、訝しげに廉次を見た。

「今、日焼け止め塗っただろ…」
「……海には他の人間もいる」
「……で?」

ますます、丸は困惑した。
彼には廉次の言い分がまったく理解できずにいた。

「……見せたくない」
「はぁ?何を?」

長い足で近づいてきた廉次が、丸の前に立つ。
スタイルが良く細身に見えるが、185㎝ある廉次が目の前に迫ると圧迫感がある。

「お前の体を…」

ラッシュガードを取り上げ、廉次が丸に着せると、ファスナーをきっちり上まで閉めた。

「……そりゃあ…俺は、お前と違って体、仕上がってねぇよ…悪かったな」

丸がグッと廉次に顔を近づけて睨み付けた。

まさか、これはキスするチャンス⁉と廉次の心臓が跳ねたが、丸はさっさと歩き出した。

「…ま…丸、待て。俺も行く」




「な…なんなんだ…アイツ。今日は特別おかしくねぇか?」

歩調を緩め、廉次を待っていた丸が、一人呟いた。



その後も、廉次の異変は続いた。

妙に甘い雰囲気。

何故か夕暮れの砂浜から戻る際に、繋がれた手。

横並びで海を眺めるロケーションの、妙にロマンティックなディナー。

(そもそも…なんか…プランが…友達と来る感じじゃなくねぇか?)

先に風呂に入り、外に作られたプライベートジャグジーに入りながら、丸はソワソワし始めた。

(これって…恋人とくる旅行じゃねー?)

「……待たせたな……丸…」
「のわぁっ!!」

部屋の風呂に入っていた廉次が丸の背後に現れた。

バスローブ姿の廉次が。

(何だ!何だコレ!何だこの雰囲気は!コレは…まるで何か……恋人同士の初めて旅行!今から一線越える感じの⁉ ちょっと待て…一線…最近聞いたぞ…一線……はっ⁉)

丸の脳裏には、兄の笑い顔がよぎった。

(一線、アレ、肛門科……ちょっと待てオイ!まさか…まさか…そんなまさか!)

丸の脳内がパニックに陥っているなか、廉次はゆっくりとジャグジーに近寄り、パサリとバスローブを脱ぎ捨てた。

手足が長く、ジムで程よく鍛え上げられた廉次の美しい体が露わになる。

「…まる……俺はずっと…今日の日を待ちわびていた……お前が一緒に来てくれて嬉しい」

(ちょっ…ま…待て…ホントに本気か!)

廉次がお湯に足を入れ、丸の元へ歩みを進める。

その分だけ丸が下がるが、直ぐに浴槽の縁に背が当たった。
二人の上には、美しい星空が輝いている。

「好きだ…」

丸の頬は廉次の手に包み込まれた。

「うぉっ…えぁ…うう…す…好き⁉」

丸の長い睫毛に縁取られた、目が限界まで見開いている。

「まる!」
感極まった廉次が丸の唇に噛みつくようにキスをした。
二人の間で眼鏡が潰された。

「ちょっ…待て、廉次!」
「悪い。眼鏡は外すべきだった」

廉次は照れて笑いながら眼鏡を外すと、浴槽の外に置いた。

「そっ…そうじゃない!眼鏡じゃない!眼鏡じゃなくて…えーっと…」

「…恥ずかしいのか?…安心しろ、俺もだ。馬鹿みたいにドキドキしている」

丸の手をとった廉次が、自分の胸に押しつけた。

(ばっ…こいつ、バック、バックじゃねーか……まじか…本当に…俺の事好きなのか…)

ぎゅっと廉次の胸を掴んだ丸は、廉次の顔を見上げた。

「やめろ…そんなに見つめるな…」

(誰だ、こいつ…何時も口うるさい小姑みたいな廉次が…恋する乙女じゃねーか……かっかわいい?なんだ…ちょっと、かわいいじゃねーか?)

頬を染め、目線を逸らす廉次のその姿は、容姿の美しさもあって、絵になった。

(俺…いけちゃう感じ?えっ…俺が…廉次と…いけちゃう感じか?)

過去の彼女は一人。
しかも、さぁ致しましょうとなった時に、緊張のあまり勃起できず、男のプライドがズタズタになって別れた丸にとって、新しい彼女を作り、そういう事をするのは、夢でもあるが、同時に非常に怖かった。

(廉次が…俺の彼女?……まぁ……男だけど…嫌悪感は無い。人間として好きだし…ありか?ありなのか?人生で初めてされた告白……しかも、俺の事すげー好きなのか?良いのか俺?)

丸は混乱を極めた。

そして、ちらりと廉次の下半身を見た。

「っ!」

(めちゃくちゃ勃起してんじゃん!!突き上げてんじゃん!!お前……俺のこと……マジか!!)

丸は、廉次の勃起した下半身に様々な思いが打ち寄せた。

男に勃起されているのに、ちっとも嫌じゃないのは見てくれが良いせいか…このイケメン無罪めっという謎の怒りと、嘘偽りなく自らに欲情している人間を目の前にした、興奮と恥ずかしさ。

そして…男同士って事は良いところとか的確に分かるのでは…という未知の快楽への興味だった。

「丸が好きだった……中学の頃から…ずっとだ…いつも、いつもお前の事ばかり考えている。あぁこれ美味いなと思えば、お前を思い出すし…仕事仲間に恋人の自慢なんてされれば、俺の丸のほうが100倍良い…と思う…我ながら馬鹿なんじゃ無いかと思う事ばかりだ…」

「…廉次…」

丸の心は、真摯な告白に、グッと動かされている。

(まじで…かわいいじゃねーか…)

「また、キスしたい……いいか?」

丸は、そっと目を閉じた。

二人の吐息が混ざり合う。
何度も唇を触れさせ合っては、照れて目を反らし…再び顔を寄せた。

「ベットに行こう…」

「おっ…おぉ…」

廉次の手が、丸の腰を抱いてあるき出した。


二人がキングサイズのベットに体を横たえた。
そして、丸は1つの重大な事実に気がついた。

(ちょ…ちょっと待て、俺! 女の子もちゃんと抱けなかったのに…男となんてどうやるんだ!尻…尻に入れるんだろ!どうやって?!)

「あっ…あの…廉次!俺…俺…」

「どうした?」

突然、ベッドの上に正座をした丸に、廉次も面食らって体を起こした。彼の性器は完全に臨戦態勢だ。

「俺…お前をどうやって抱いたら良いか分からない…」

丸の手がぎゅっとシーツを握りしめた。

「まる……安心しろ。逆だ。お前に抱かれるなんて想像もしていない」

「は?なんで」

「なんでって、それは…なぁ」

廉次が、ふっと笑った。

彼の目には丸が、特別、世界で一番可愛く見えている。

今までのエッチな妄想もすべて、丸が抱かれる方であり、あまりにそれが普通の事のように思えていた為に思わず笑いが出てしまった。

しかし、その仕草に丸のコンプレックスが刺激された。

「おっ…お前…俺の事馬鹿にしてんじゃん!!俺が…カレンちゃん相手に出来なかったの知ってて馬鹿にしてんだろ!」

丸が立ち上がり、ベッドを飛び降りた。

「違う!そうじゃない!正直、話を聞いたときは、喜んだが…馬鹿にしてない!」

廉次も立ち上がり、必死に丸に迫った。

「はあああ!喜んだのかよっ!!マジか!俺があの時どれほど…」

恥ずかしさが再燃した丸は、廉次を半泣きで睨んだ。

「馬鹿か、お前。喜ぶだろう!大喜びだ!泣いて喜んだに決まっているだろ!」

廉次は焦って言葉を重ね、さらなる燃料を注いでいることに気が付かない。

「お前最低だ!俺もう帰る!」

部屋を飛び出そうとする、丸の腕を廉次が掴んだ。

「何でだよ!そもそも、ここは島だぞ帰れるわけない」

「……くそぉぉ……もういい!寝る!話しかけんな!」

丸は腕を振り払い、シーツを被るとふて寝の姿勢になった。

「……違う…誤解だ、丸……あぁ、なんでこんな事に…」

深いため息を吐いた廉次は、ソファに沈んだ。





そして、丸が怒り疲れて寝静まった頃、廉次は持参したノートパソコンを開いた。

『丸と結婚する行程表』

「つい感情が爆発して、余計な事を言ってしまった…そのせいで、絆されなかったか…反省だ」

カタカタとキーボードを叩き、計画の変更を行う。

本来の廉次の計画なら、流されやすく細い事を気にしない丸を、いい雰囲気と快楽で何とかし、婚約指輪まで渡している予定だった。

「仕方ない…まだまだ諦めないぞ。もう14年も待ったんだ………次こそは、必ず」

廉次はノートパソコンを閉じると、丸の頬に口づけた。







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感想 4

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みんなの感想(4件)

もくれん
2023.12.26 もくれん

2人とも可愛い〜〜!!🥰
是非是非、結ばれた2人も見てみたいです✨✨✨

2023.12.26 いんげん

もくれんさーん(^♡^)
感想のサンタさん、ありがとうございます(*´ω`*)わーい!!

この丸くんは、未だかつてないほどの普通の男の子を目指した受けくんで、いいなぁ、普通の男の子いいなぁと、しみじみ思ってたのが懐かしいです♡

解除
トノサキミツル

丸くんかわいいですね🥰ぽやんとして、予定表1ページしか読んでないところ好きです🥰冊子の中身が気になります🤣🙏14年分の想いどうなるのか…続きが欲しいです🥺✨✨
ありがとうございます🙇‍♀️

2023.11.16 いんげん

か……感想の返信が送れていなかった事に、今さきほど気がつき、震えております(´;ω;`)
どんだけ時差があるんだ!!と思われてしまうかもしれませんが、これだけは!! これだけはお伝えしておかなければ!! ありがとうございます!! 感想に命救われております!!

解除
Kawaiileokun
2021.07.21 Kawaiileokun

大好き‼️続編をよろしくお願いいたします。

2021.07.21 いんげん

Kawaiileokun様、感想ありがとうございます♡♡

お楽しみいただけたなら嬉しいです(*´∀`*)
また二人がピカーんと降りてきましたら、ワチャワチャさせられたらと思います(*´艸`*)

解除

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