人魚の餌

いんげん

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日誌

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朝が来たら、焼き魚の臭いがしてた。

戸の外には、昨日の魚が、皿の上に置かれていた。
不気味さと、ありがたさと、不思議な心持ちだ。


「いただきます」

朝食を頂き、家の梯子を下りて気がついた。
昨日は立てかけてあっただけの梯子が、縄でしっかり結ばれていた。

「……」
なぜ、ここまでしてくれるのに、姿を現してくれないのだろうか。


ふと、昨日の日誌を思い出した。
駄目だ、良くない。
そう思いながらも、好奇心が止められなかった。

それに、あと数日で死ぬ命なら、此処が何処かくらいは知りたかった。



洞窟に入り、入り口の戸に隠れるように、日誌を開いた。


■■■■

此処は、化け物の島だ。
 
おそましい、男が住んでいる。
今まで見た中で一等、醜悪な生き物だ。

私は、病にかかり、海に捨てられたが、私のこの見た目とは比べものにならない。

あれは人間では無い。


あんな化け物に喰われるくらいなら、あのまま死んだ方がましだった。


私は、四人目だった。


■■■■

ぽとり、汗が落ちた。

日誌の文字が滲んでいく。

汗を拭おうと思ったら、手が震えていた。

ぎゅっと拳を握り、立ち上がろうとすると、戸が外へ倒れた。


「ひぃ!」

私は飛び退いて周囲を警戒したけれど、だれも居なかった。

この近くに、恐ろしい化け物が居るのだろうか?

この四人目の女性は、どこへ消えたのだろうか?

思い起こされる、足に食い付いた人面魚。

私は……ここで、食糧として、飼われているのだろうか。
鳥や豚のように。



「……に、逃げないと」

書を置いて、歩き出した。
重い足を動かして、木々が茂る森のような道を歩いた。

ただ、前へ前へ歩いていると、小高い山が目の前に現れた。

誰かが頻繁に踏みしめて歩いている道がある。
そこを辿るように登った。

山には木が生えておらず、上へ行くほど景色が良く見えた。

「……知らない、島だ」

生まれ育った島から出たことは無いけれど、周辺の島の地図は見たことがある。

ここは、どれにも当てはまらない。
もっと、高い島だった。

海が遥か下の方に見える。
やって来た方角は、切り立った崖が円を描くように広がっている。
反対は、二つに割れて、先が閉じていくような丘が伸びている。
丘の先は急に大地が無くなって海が見えている。


「……」

膝から崩れ落ちた。
乾いた笑いが漏れる。

「あはは……逃げ場なんて、無いじゃない」

さほど大きくない島だ。
船も持たず、あったとしても漁師でも無い自分が、この荒波を掻き分けて、どこへ辿り付くというのか。


また、島に閉じ込められた。

今度は、友も兄弟もいない、化け物が居るという島だ。


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