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エピローグ
しおりを挟む授業が終わって、スーパーに寄って食材を物色し始めた。今日は、夕太郎が好きなピーマンの肉詰めを作る予定だ。
「あっ、ケチャップ買わないと」
目玉焼きも、ハンバーグも、何でもケチャップ派で大量にかける夕太郎のせいでケチャップの減りが早い。あれってケチャラーって言うのかな。
「そういえば……施設にも居たような気がする……あれ……名前なんだっけ?」
暫く同室だった、あの年下の子。あの子に慕われるのが心地よかった。僕が、養護施設で働こうと思ったのも、あの子のような子供達の力になりたい、助けなきゃと思ったからだ。えっと……そう、紳一だ。最近、まだらに物忘れが酷くて困る。
「理斗、みっけ!」
「夕太郎⁉」
後ろから抱きついてきた太い腕に驚いた。
「お買い物?」
振り返ると、仕事帰りなのか、完璧にスーツを着こなす夕太郎がいた。
「そう、今日はピーマンの肉詰めだよ」
「わーい、超好き」
夕太郎の満面の笑みに、周囲のお客さんが、魅了されている。むっとして口が尖る僕の買い物カゴを、夕太郎が奪った。
「早く帰って一緒に作ろう」
夕太郎の手が僕の手をとり、ぎゅっと握った。そして、僕の頬に触れるだけのキスが振ってきた。先ほどまで見惚れていたお客さんたちは、目を見開いて驚いている。
「……馬鹿」
「へへへ」
以前のように、ヘラヘラと笑う夕太郎に、僕も嬉しくて微笑み返した。
「そういえば、親父がさぁ」
「うん」
「自分の家にも、セグウェイ買ったって」
「ん?」
お会計のレジに並ぶと、夕太郎が思い出したように言いだした。
それって、近未来的な、あの乗り物だよね?
「だから遊びに来いって。多分ね、俺が理斗が欲しがってたから、スタインウェイ買ったって言ったから自分も買ったんだと思うよ。多分、間違えだよ」
夕太郎がケラケラ笑いながら、買い物カゴをレジに置いた。さり気なくレジのおばさまに笑顔を振りまいていて、店員さんの手が震えている。
「あっ、あのピアノ? あれ、いくらするの?」
音楽に詳しくない僕にとってピアノというと、あの国産二台大手のピアノしか知らなかった。だから、海外のだと思うけど。安いのかな? いや、グランドピアノが安いわけ無いんだけど。
「車一台分くらいかな? セグウェイよりは高い」
夕太郎が、僕の財布からニャオンを取り出して支払いをすませた。
車一台分。車を買おうと思ったことがない僕には想像も出来ない。やっぱり百万くらいするのだろうか。
「理斗、明日ホームセンターでヘルメットとサポーター買わないとね」
高級スーツから擦り切れたマイバックが取り出され、商品が詰め込まれていく。
「なんで」
「理斗、あんまり運動神経良くないし、また骨が折れたら大変だよ。まぁ、介助犬も兼ねてる俺的には、何から何までお世話するの楽しいけどねぇ」
「……」
思い起こされる、右肘の折れていた日々。そう、何から何まで世話をされた。
中でも、夕太郎が大喜びしてやっていたのは、お風呂で……。
「僕、これでも、まぁまぁ運動神経良いから大丈夫!」
「専門学校の試験、体育のテスト有ったら俺、替え玉するよ」
「必要ないってば! っていうか、もうクラスメイトどころか先生達にも、名前も顔もばっちり覚えられているのに替え玉も何もないでしょ。そもそも、似てるところ何もないし。夕太郎ほどの格好良さだと、誰にもなれない」
僕は、つい飛び出した言葉に、はっとして店を出る自動ドアの前で立ち止まった。
「え~、やめてよぉ理斗。俺が世界で一番だって、そんなの当たり前だけど照れちゃうよ」
僕の腰を抱いて来た夕太郎が、髪に頬をすり寄せてくる。
「理斗、好き好き」
僕は、口をモゴモゴ動かして、夕太郎と逆を向いて歩き、止めていた自転車の籠に荷物をのせた。自転車に跨がり、革靴で走る気満々の夕太郎に視線を合わせた。
「まぁ……僕も、好きだけど」
「理斗ぉ!」
抱きついて来そうな夕太郎を置いて、自転車を漕ぎだした。
完
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