44 / 45
悪魔と枝とゴリラ
しおりを挟む「お兄さん、本当に理斗に関して倫理観バグってるよね。頼りになるわぁ」
本庁で出くわして、取っ捕まえた海棠をトレーニングルームに招待した。そこで、理斗のスマホを跡形もなく溶かした旨を報告すると、そんな事を言いだした。
「あ? 当たり前だろ。貴様も裏切った日には撃ち殺すぞ」
理斗の恋心が冷めるように、前歯でも折るか。俺は、そっとネクタイを引き抜いて右の拳に巻いた。俺の意図を察知した海棠は、苦笑しながら間合いを取っている。
「勘弁してよ、お兄さん。そもそも、裏切った後じゃ遅いじゃん。その前にやらないと」
海棠は、腕を上げて構えたが、防戦するつもりなのか、重心が後ろだ。
「……なぁ、お前。疑問に思ってたんだが、なんで最初に理斗に名乗らなかったんだ? 自分が星野紳一だと」
話しながら間合いを詰め、海棠に打ち込んで行くが、上手く躱される。
「記憶がハッキリしないみたいだったし、忘れた方が良いからに決まってますよぉ。理斗は、俺達と違って良い子でしょ。人を殺した記憶なんて無い方が良いよ。それに俺、別に逮捕されても刑務所でも上手くやる自信あるし。何なら……警察の前で、全部持って自分が十年飛んでも良いかなって思ってたし」
「まぁ、確かに、それなら星野剛を殺した能力者として断定されそうだな。なぜさっさと実行しなかった」
このクズが。そうすれば理斗は、毒牙にかけられることもなく、すぐに俺のもとに保護されただろう。なんて素晴らしい道筋だろうか。
「いやぁ……理斗に会えてうれしくて、ちょっとくらい、少しくらい、って思っている間に、こうズブズブと沼にハマっていった感じ? 恋愛って怖いですねぇ」
「……死ね。というか、貴様、変な病気とか持ってるんじゃねーのか」
今日こそ、破壊しておくか。
「ちょっ! あっぶね! 本気? 遊んでるタイプとはやってないし! 俺レベルになると、体の関係なくても幾らでも貢いで貰えますからぁ」
俺の蹴りを脛で受けた海棠が、しゃがみ込んで居る。
「本当にクズだな」
「お兄さんに言われたくないし!」
「海棠の言葉は一理ある」
部屋に入ってきた桜川警部補が、海棠の肩を持つ発言を始めた。
「でしょ、でしょ。桜の枝さん言ってやって」
桜川警部補の後ろに回った海棠が囃し立てている。
「何しに来たんですか?」
「お前らが、ここに入って行くのを見た西島警視が、あの二人でいると碌な事ないだろうから、止めてきてくれと頼まれた」
最近、西島警視は、更に老け込んできた。気苦労が多いらしい。
「俺より、お兄さんの方が酷いですよねぇ?」
「お前ら二人とも大概だからな」
「あっ、理斗からラインだ! 俺、行かなきゃ」
海棠が、適当な事を言いだした。理斗は今、授業中だ。ラインなんてするはずがない。
「おい! 海棠」
「じゃあ、また今度」
海棠が軽快に走り去り、入れ違うように戸田が入って来た。
「せんぱーい! 今日も組んずほぐれつ稽古をつけてくださ……」
戸田の視線が、「何するつもりだったんだ」と言いながら、俺の拳のネクタイを取る桜川警部補で止まった。
五月蠅くなる予感がする。桜川警部補と目を合わせた。よし、たまには戸田の騒ぎにもつきやってやるか。
「おい!」
戸田が桜川警部補を指さして、大きな口を開きかけた所で、桜川警部補の目の前に立った。そして、彼の肩を掴み顔を覗き込んだ。
「桜川警部補。今回の件では色々お世話になりました。今度の休み一日空けておいてくれませんか?礼がしたいです」
ぎょっとした顔の桜川警部の手の中で、俺のネクタイが圧縮されいく。
「せっ先輩! ちょ……ちょっと! はい、はーい! 俺も行きます! 予定は何時でも空いてます!」
戸田が、ドタドタと走り寄ってくる。俺は桜川警部補の手を取った。今日も彼の手は白い手袋に覆われている。能力者というのも難儀なものだ。視線を手から彼の目に移し、彼の目をじっと見つめて口を開いた。
「貴方が居なかったら、どうなっていたかわからない。本当に感謝しています」
これは偽りの無い本心だ。俺は、礼が言えてすっきりし、微笑んだ。
「この悪魔……海棠より、お前の方が悪質だ」
俺のネクタイは、遠くに投げ捨てられた。
「は? 何故だ」
「で、三人で何処に行きますか」
戸田が俺達の間に顔を挟み入れ、肩を抱いた。勘弁してくれ、流石にそれは予定に無いぞ。
10
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる