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捜査会議
しおりを挟む警察に入り、特殊能力捜査班に配属され分かった事がある。この国の政府が、能力者を国のために有益に利用したいと考えている事だ。そのために、能力者を管理するかわりに、国民に見えない所で優遇する事が多い。
能力者の起こした事件は、最もたるものだ。能力者が起こした事件は、詳細が報道されない。大概が被害者が公表され、捜査している、からの続報が無くなる。能力者を特定、検挙し、その力に利用価値が無ければ、通常の法的措置。もしも希有な能力ならば、司法取引が行われる。
今回の事件は、大きな力が使われた痕跡がある。それが被害者を殺害するに至った能力なのかはわからない。捜査は慎重に行われた。
「害者は身元が分かるようなもの何も持ってなかったみたいですね、金に困ってそうで、歯医者なんて行って無さそうだし、着ている物も全部、長年量販店で売っているようなものだ」
捜査会議が終り、引き上げながら桜川警部補が言った。白い手袋をはめた手で器用に資料を捲っている。
「害者が能力者だったのか、容疑者なのか、それとも殺人事件とは無関係な能力の使用があったのか」
「我々が駆けつけて間に合わない場所で、大きな力が使われ、そこに遺体もあった。無関係でしょうか」
西島警視の言葉に、俺が意見を述べた。
「考えにくいよなぁ」
「でも、凄い能力者がいたとして、あの被害者を殺すのに、わざわざ山奥に行って、能力を使う必要がありますか? しかも結局、物理攻撃による失血死ですよ」
「戸田、お前のようなゴリラの基準で考えるな。成人男性を殺そうと思えば、それなりに用意が必要だろう」
「桜川警部補、ひどいっす。じゃあ、容疑者は、桜川警部補みたいな、もやし男子か、女子供ですかね」
戸田が、骨と皮のような桜川警部補の腕を見ながら言った。俺は、理斗を思い出していた。もしも、理斗があの男を殺害しようとしたら……いや、理斗には能力なんてなかった。関係ない。理斗じゃない。
「容疑者が一人とも限らない。殺人犯と能力者は別かもしれない」
西島警視の言葉に、息が詰まった。
分かっていたが、冷静に分析したくない。理斗が関わっている可能性を無意識に排除しようとしている。ただ、理斗が殺人に関わったかもしれない事よりも、理斗が生きている可能性が高まった事に安堵している。そして、理斗の現在が穏やかで無さそうな事に胸が痛む。この十年、どんな人生を歩んできたんだ。
「どうかしたか、松山」
「顔が怖いですよ、先輩」
「流石のサイボーグも、疲れが?」
「何でもありません。桜川警部補、勤務終了後に個人的にお話ししたいことがあります」
「は⁉」
俺の発言に、桜川警部補が捜査資料を落とし、目と口を丸くした。
「先輩! 何言ってるんですか! こんなガイコツに何の用があるんですか!」
何故か怒りだした戸田が丸太のような腕でぶつかってくる。五月蠅い。
「お前には関係ない。俺は桜川警部補に話している」
「……」
戸田が半泣きになり、桜川警部補が口に手を当てて顔を赤くしている。何なんだ。こいつらの反応は。
「戸田、鼻水を拭け。桜川、変な期待をするな。松山だぞ。ほら、行くぞお前ら」
西島警視が戸田の足を蹴り、桜川警部補の背中を押した。
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