僕、逃亡中。

いんげん

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遺留品

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 特殊能力捜査班の緊急車両に乗り、アサルトスーツの上にボディーアーマーを装着した。消防車両ほどの大きさがあるこの黒いSUVは、六輪車でとても物々しく、通りすがる人の視線を集める。側面にはPOLICEとだけ書かれている。

「遠いですね」
 俺は、ハンドルを握る上司の西島警視に声を掛けた。四十後半の西島警視は最近白髪が目立ってきたが、染めに行く時間もないと嘆いていた。
「東京とは思えない、人里離れた山の中だからな」
 西島警視は、眼鏡を押し上げて答えた。能力を感知する力を持つ西島警視がハンドルを握りるのは、現場に近づかないと詳しい場所が特定できないからだ。

「そんな場所から感知されるなんて、やばそうですね」
 後部座席の戸田が話しに入って来た。
「最近平和だな、と言ったそばからコレだ」
 戸田の隣に座る、物の記憶を読み取る桜川警部が、常に着用している白い絹の手袋をはめ直した。
「桜川さん、それ禁句ですよ! だから事件が起きたんですよ、絶対」
 戸田が桜川警部補の痩せすぎた肩を揺すっている。
「関係ないだろ」
「関係ありますよ。呪いの言葉ですよ」
 ゴリラのような戸田と、藁人形のような桜川警部がワイワイ騒いでいる。その声を聞きながら、理斗は、もう彼らよりも年上だと思うと不思議な気分だった。俺の中では、理斗はまだ十八歳だった。

「此処だな」
 西島警視が車両を止めたのは、山の廃工場だった。車両の上に装備されているライトが周囲を照らす。ヘルメットを装備し自動小銃を構え、俺と戸田が車両を降りた。近くに人の気配は無い。建物付近の様子を探り、駐車場らしきスペースに近づくと、倒れている人間を発見した。

「おい」
 戸田を呼び、二人で近づいて行くと、近くのLEDライトが反応し辺りを照らした。
 中年の男の腹部が赤く染まっている。
「死んでますね」
 近づいた戸田が確認をした。周囲に脅威が無いと判断し、車両に残した二人を呼び寄せることにした。無線で連絡をし、念のため戸田を車両に向かわせた。
 男の近くの血痕を観察していると、カサッと何かを踏んだ音がした。そっと足を浮かせ、目を凝らす。レシートだ。クシャクシャになったレシートが落ちている。銃を肩に掛けて、ライトでソレを照らした。

「っ⁉」
 レシートの店の名前を見て、息を呑んだ。『東京、ミドリノ洋菓子店』そう印字されていた。現場の保存のため、戦闘でも行われない限りは何も触れないのが鉄則だ。だが、俺はそれを拾い上げ、広げた。
 日付は、二○一三年九月二日、十五時四十九分。
 近づいてくる隊員達の足音を聞いて、ソレをボディーアーマーのポケットにねじ込んだ。

「犯人は、もう逃げた後ですね。そこの雨水タンクで手を洗ったっぽいですけど、直接触ってないのか、殆ど読み取れませんでした。死んでそんなに時間が経ってないようなのに、遺体の男からも何も読み取れません。変な感じです、使われた力の影響ですかね」
 桜川警部補が、変だ、変だと言いながら、首をかしげている。
「殺害方法は、刃物による物理っぽい殺し方だし、よくわからん。まぁ、詳しい事は捜査一課に調べて貰おう」
「じゃあ、近くの所轄が来たら撤収ですかね」
 三人が遺体の側で話を進めている。

「どうかしたのか、松山」
「いいえ、念のため周囲をもう少し見回ってきます」
 一緒に行くと言いだした戸田を、二人の警備をしろと残して歩き出した。俺は必死にさがした。近くに……理斗の痕跡が無いかと。

 もう、暗記している。理斗は、二○一三年 九月二日、十五時四十九分に、東京、ミドリノ洋菓子店で、ショートケーキを二つ買った。それが最後の足取りだった。
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