17 / 45
遺留品
しおりを挟む特殊能力捜査班の緊急車両に乗り、アサルトスーツの上にボディーアーマーを装着した。消防車両ほどの大きさがあるこの黒いSUVは、六輪車でとても物々しく、通りすがる人の視線を集める。側面にはPOLICEとだけ書かれている。
「遠いですね」
俺は、ハンドルを握る上司の西島警視に声を掛けた。四十後半の西島警視は最近白髪が目立ってきたが、染めに行く時間もないと嘆いていた。
「東京とは思えない、人里離れた山の中だからな」
西島警視は、眼鏡を押し上げて答えた。能力を感知する力を持つ西島警視がハンドルを握りるのは、現場に近づかないと詳しい場所が特定できないからだ。
「そんな場所から感知されるなんて、やばそうですね」
後部座席の戸田が話しに入って来た。
「最近平和だな、と言ったそばからコレだ」
戸田の隣に座る、物の記憶を読み取る桜川警部が、常に着用している白い絹の手袋をはめ直した。
「桜川さん、それ禁句ですよ! だから事件が起きたんですよ、絶対」
戸田が桜川警部補の痩せすぎた肩を揺すっている。
「関係ないだろ」
「関係ありますよ。呪いの言葉ですよ」
ゴリラのような戸田と、藁人形のような桜川警部がワイワイ騒いでいる。その声を聞きながら、理斗は、もう彼らよりも年上だと思うと不思議な気分だった。俺の中では、理斗はまだ十八歳だった。
「此処だな」
西島警視が車両を止めたのは、山の廃工場だった。車両の上に装備されているライトが周囲を照らす。ヘルメットを装備し自動小銃を構え、俺と戸田が車両を降りた。近くに人の気配は無い。建物付近の様子を探り、駐車場らしきスペースに近づくと、倒れている人間を発見した。
「おい」
戸田を呼び、二人で近づいて行くと、近くのLEDライトが反応し辺りを照らした。
中年の男の腹部が赤く染まっている。
「死んでますね」
近づいた戸田が確認をした。周囲に脅威が無いと判断し、車両に残した二人を呼び寄せることにした。無線で連絡をし、念のため戸田を車両に向かわせた。
男の近くの血痕を観察していると、カサッと何かを踏んだ音がした。そっと足を浮かせ、目を凝らす。レシートだ。クシャクシャになったレシートが落ちている。銃を肩に掛けて、ライトでソレを照らした。
「っ⁉」
レシートの店の名前を見て、息を呑んだ。『東京、ミドリノ洋菓子店』そう印字されていた。現場の保存のため、戦闘でも行われない限りは何も触れないのが鉄則だ。だが、俺はそれを拾い上げ、広げた。
日付は、二○一三年九月二日、十五時四十九分。
近づいてくる隊員達の足音を聞いて、ソレをボディーアーマーのポケットにねじ込んだ。
「犯人は、もう逃げた後ですね。そこの雨水タンクで手を洗ったっぽいですけど、直接触ってないのか、殆ど読み取れませんでした。死んでそんなに時間が経ってないようなのに、遺体の男からも何も読み取れません。変な感じです、使われた力の影響ですかね」
桜川警部補が、変だ、変だと言いながら、首をかしげている。
「殺害方法は、刃物による物理っぽい殺し方だし、よくわからん。まぁ、詳しい事は捜査一課に調べて貰おう」
「じゃあ、近くの所轄が来たら撤収ですかね」
三人が遺体の側で話を進めている。
「どうかしたのか、松山」
「いいえ、念のため周囲をもう少し見回ってきます」
一緒に行くと言いだした戸田を、二人の警備をしろと残して歩き出した。俺は必死にさがした。近くに……理斗の痕跡が無いかと。
もう、暗記している。理斗は、二○一三年 九月二日、十五時四十九分に、東京、ミドリノ洋菓子店で、ショートケーキを二つ買った。それが最後の足取りだった。
10
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる