僕、逃亡中。

いんげん

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手をつなぐ

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 ホテルの部屋から出た僕らは、大量に流通している無地の黒いキャップを被り、非常階段を駆け下りた。
 途中、倒した男を縛り着けているモアイ坊主さんと会釈した。そして、夕太郎いわく、監視カメラに写りにくいという道を歩いた。

「理斗、怪我してない?」
 夕太郎が、つなぎのポケットに手を突っ込んで、僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫です。むしろ、夕太郎が……」
 タジマに何度も殴られていた。
「あれねぇ、面白そうだから殴らせたの。でも急所を外して、受け流すようにしていたから、猫パンチだよ。心配した? まさか理斗が援護してくれるとは思わなかったよ」
「そうだったんだ。全然わからなかった」
「そうなの、まぁ全然大丈夫だけど、理斗がヨシヨシしてくれて、優しくしてくれるのは断らない。お家帰ったら絆創膏貼ってよ」
 夕太郎は、ポケットから手をだして、僕の手を取った。
 僕はビックリして目を見開いた。夕太郎は逃げようとする僕の手を離さず、指を絡めて恋人のように手を繋ぐと、前後に振って歩きだした。
 その顔は、凜々しい目が無くなってしまうほど微笑んでいた。何だか、余りに嬉しそうに見えて、振りほどきにくくなった。でも、体がムズムズして落ち着かない。
 こういうのには慣れていない。

 兄は、僕をとても大切にしくれた。でも筋の通った硬いタイプの男だったので、スキンシップは、殆ど無く、手を繋いだ記憶もあまりない。

 今、繋いでいるのは手なのに、夕太郎をもっと近くに感じる。温かい他人の手に、気恥ずかしさと、何とも言えない温かい気持ちが沸いて、顔が熱くなる。でも、嫌じゃ無いかも。
 僕は、夕太郎の距離感の近さに、困惑しながらも心地よさも感じていた。そして、根底にある、寂しさで乾いた心が、潤っていくようで、少し怖さも感じた。

「っ⁉」
 その時、遠くで警察車両のサイレンが鳴り響いた。僕がビクリと体を震わすと、夕太郎が繋いでいた手に、反対の手も添えて、僕の手を包み込んだ。
 夕太郎は「大丈夫、大丈夫」と顔をくしゃくしゃにして柔らかく微笑んだ。殺人容疑と、暴力事件。立て続けに警察に追われる様な出来事を体験し、サイレンにすら肝が冷えたが、心が落ち着いてゆくのを感じた。根拠の無い夕太郎の言葉だったが、何となくそうかもしれないと思えた。

 次々に刺激的な事が起きすぎて、麻痺してきたのかな?

 僕は、少し戸惑いながら、夕太郎のゴツゴツした大きな手を、少しだけ握り返した。

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