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好きな人
しおりを挟む「ヘビ……寒いよぉ」
真っ青な顔をして震えるラブの肩を、ヘビが摩るように抱いた。
「あぁ……直ぐに部屋に戻るぞ」
「……」
ラブの足は進まない。
「どうした? 怪我したのか?」
「……外に、驢馬いない?」
「ああ、大丈夫だ。居ても追い払う」
そう言ってラブを見下ろし、ヘビはラブが裸足なのに気がついた。
「……ほら」
ラブの前にヘビが背を向けて、しゃがみこんだ。ラブは、少し悩んでから、その背中に負ぶさった。
「あの時みたいだね」
「そうだな。俺も、思い出していた」
出会った日も、ヘビに背負われて、ラブは、ここにやって来た。
二人は、笑った。
「お前の名前、ハブの方が良かったか?」
「うーん、よく考えると、凄くセンス無いよ」
「人が考えた名前に文句を言うな」
「だって、そうなんだもん。ラブの……私の名前、本当はイブって言うんだって。でも、ラブのままにするの。これは気に入ったから」
ラブは、ヘビの頭に頬を寄せた。心が、温かくなる。安心する。触れあうだけで、寂しくて空っぽだった所が満たされていく気がする。
(どうしよう、私……ヘビが好きだよ)
「それは、良かった。俺も、その名前が似合ってると思う」
ラブの顔が涙で濡れる。でも水滴はあらゆる所からポツポツ落ちている。違いは温かさくらいだろう。
「ヘビに拾って貰って、良かったよ」
もしも、あの日、あの場所を通らなければ、ラブは荒野で彷徨い、獣に出会っていたかも知れない。ヘビは想像して体が震えた。
「ヘビも寒い? 大丈夫? また風邪ひく?」
「いいや、大丈夫だ。それにあの日は、知恵熱みたいなもんだ」
「知恵熱?」
「ああ、今まで考えたことないような思考、感情にやられた。俺は、お前の白馬の王子思想を馬鹿にしたが、俺はこの年で反抗期を迎えたらしい」
ヘビが、鼻で笑った。
「ん?」
ラブは、体をずらしてヘビの顔を覗き込もうとした。
「危ない、動くな」
ヘビは、歩きながらラブを背負い直した。
「俺は、初めてAIに逆らいたくなった。AIは、お前達の外での生活を後押しして、その知識や利益を手に入れろと言う……だが、俺は賛成できない」
「どうして?」
「リスクが高い。そういう明確な理由もあるが……半分、感情的な拒否感だ」
「どういう意味?」
「何でも無い。何か良い方法がないか考える、お前達が安全に外で暮らせる方法を……」
「ありがとう……」
「ラブ!」
居住区の近くで、アダムが駆け寄ってきた。アダムが腕を伸ばし、ヘビがラブを下ろした。
「行方不明って聞いて、心配したよ! 何があったの?」
アダムが、ラブを抱きしめた。温かいその体に、ホッとするより寂しくなった。
「驢馬に襲われて逃げたらしい」
ヘビの言葉に、アダムがピクリと眉を動かした。
「……大丈夫?」
「うん、でも寒い」
「聞きたい事いっぱいあるけど、とりあえずシャワー浴びよう。ありがとうヘビ」
アダムが、ラブを抱き上げて走り出した。
ヘビは、フクロウとクイナ、イルカと集まった。
「驢馬は、酒を呑んで仲間と騒いで、暴れた後、イルカに注意され罰金徴収されたと」
フクロウが確認した。
「はい、相当酔ってたから部屋に戻したんですが、またウロウロ出かけたみたいですね」
「そこで、ラブさんを見つけて、不埒な事をしようと」
クイナが顔を歪めている。
「そんなことしたら、タダじゃ済まないと分からないほど、思考力が落ちていたんですかね」
「で、どこに行ったんだ」
ヘビは、驢馬の態度を思い出し、込み上げてくる怒りに耐えた。
「まだ居住区に戻ってきてないわ。逃げてもコロニー自体が檻の中なのに」
「あー、こういうときに監視システムのありがたさを感じるなぁ。いつもなら一発で発見されるのに」
フクロウが首を掻いた。
「監視システムが作動していない今だからこそ、バレないとか思ったんですかね」
「糞野郎じゃない」
クイナが吐き捨て、フクロウが「そうだよなぁ」と呟いた。
「捜索に向かう」
「おー、俺も行くぞ」
「僕、制御室で夜勤します」
「私は、ラブさんの所に顔をだして、自室で待機するわ、何か有ったら呼んで」
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