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ありがとう
しおりを挟む耳当たりの良い、水音で目が覚めた。ラブは顔を上げて、呆けた顔で音を探った。
しゃー、びしゃ、びしゃ
「シャワーの音」
クイズに答えるように言葉にすると、音が止んだ。
「あー、ヘビの部屋か」
シャワーを浴びていると言うことは、それなりに元気になったのだろうか。背後にあるシャワールームの方に顔を向けた。
「ヘビ、おはよう、元気になった?」
ラブは、洗面所とシャワールームに続くドアの前で声を掛けた。
「あ、ああ」
ドア越しに、ヘビの答えが返ってきた。
「そっか、良かったね。じゃあ、ラブ行くね」
そう言うと、ラブがさっさと歩き出した。
「お、おい……ちょっと待て」
ヘビは慌ててドアを開いた。まだ何も身につけていないので、腕と顔だけ出ている。
「どうしたの?」
ラブは振り返って、濡れて更にうねった髪から、水が滴り落ちるのを目で追った。
「昨日は……迷惑をかけて悪かった」
ヘビの視点は、ラブを避けてウロウロしている。
「ううん、あのね、実は布団にクスリ撒いちゃったの。ごめんね、あっ洗いにいくね!」
「いや、いい。大丈夫だ、自分でやる」
「そう?」
「それより、お前の実を忘れているぞ。ちょっと待ってくれ」
ヘビは、すぐソコのベッドを指さして、一度ドアを閉めた。狭いワンルームなので、ラブが取りに戻れば、ヘビの裸体が丸見えになってしまう。
「あー、忘れてた」
ラブは、ベッドに戻り、実を手にした。すると、ドアが再び開いて、Tシャツとハーフパンツを身につけたヘビが出てきた。石鹸の香りと、水分を含んだ温かい空気に包まれ、ラブは照れくさくなってきた。
「えっと……最後の一口食べる?」
何か話さないと、ラブは手にした実を差し出した。
「いいや、お陰様で、もうすっかり良いし、俺は他の物も食べられる。だから、おま……ラブが食べれば良い」
照れくさそうに首の後ろを掻きながら、ヘビはラブの名前を呼んだ。
「……」
ラブは、ポカンと口を開けてヘビを見上げている。
「……ほら」
ラブの掌にある実が、ヘビに摘ままれ、そのまま、ラブの口まで運ばれた。
「しまった、洗った方が良かったか?」
ラブは、首を振って飲み込んだ。
「だい、じょうぶ」
「そうか? 風邪、うつってないと良いんだが……後で、部屋に洗った布団を届ける」
「それで良いよ」
ラブが、くるりとベッドを振り返ろうとすると、ヘビに肩を押さえられて止められた。
「駄目だ」
もう、戻った方が良い。ヘビがそう言いながら、ラブの背中を優しく押して、玄関まで導いた。
「えっと……あの」
ヘビの温かい手が離れ、振り向いた。
「ありがとう、感謝している」
「ヘビ、どうかしたの? やっぱりまだ熱あると思うよ!」
ラブが目一杯腕を伸ばし、ヘビのおでこに触れる。
「はぁ?」
「だって、ヘビが優しいもん」
「……さっさと、帰れ」
目の前をチョロチョロと動くラブを、ヘビが追い出してドアを閉めた。
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