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お迎え
しおりを挟むラブは、部屋に帰り、ふて寝を始めた。
モヤモヤする気持ちも、グーグー鳴るお腹も、眠っている間は忘れられる。
夜になっても眠り続けたら、部屋の呼び出しボタンが押された。ビー、ビーと控えめな音が室内に響いた。
「……」
意識が浮上してきたが、起きるの億劫で、二度目の音を聞きながら「居ませんよぉ」とドアの向こう側に気の抜けた返事をした。
「居るだろうが、さっさと出てこい」
「ヘビ!」
ヘビの少し掠れた低い声に、条件反射で飛び起きた。ラブの顔は、綻んでから顰められた。
(どうしよう。もう、お菓子なくなっちゃったし、今は何だか会いたくない。お菓子あげようとしてたのも恥ずかしいから、知られたくない……)
ラブは、枕元に置いていた、空のお菓子ケースをポケットの中に隠し、足音を立てないように、そっとドアに近づいた。
「おい……聞こえてるか」
ラブの耳が、ドアにピッタリとくっついた。
コン コン
「っ⁉」
ドアが叩かれ、ラブは耳を押さえてしゃがみ込んだ。
「おい、夕食はどうした。お前、昨日から摂取カロリーが低すぎる、食事しろ」
(いらないもん。美味しくない。此処のご飯、全然味がしない。だから食べたくないんだもん! 運命の男さんなのに……ヘビの赤い実、間違いばっかり――お腹空いた! お腹空いたよ!)
ラブは、玄関でしゃがみ込んだまま、泣きだした。
怒られたくなくて、嫌われたくなくて、唇を噛みしめて泣いた。
(何を言ったら怒られるの? 何をしたらバカだって思われるの? 全然わかんない!)
ポタポタと、熱い涙が剥き出しの膝に、手の甲に流れ落ちるのを他人事のように眺めていると、ドアの向こう側、ヘビが一歩下がる音が聞こえてきた。
(か、帰っちゃう!)
会いたくないけど、居なくなるのは寂しい。ラブは立ち上がって、閉まったままのドアに額を預けた。
「……その……何だ、お前の食事に、付き合ってやらないこともない」
ヘビの言葉は、段々小さな声になっていった。ラブは、聞き取ろうと必死にドアに耳を当てた。
「……いくぞ、ラブ」
「う、うん!」
ドアから飛び出してきたラブを見て、ヘビは少しだけ笑った。
「ねぇ、ヘビ。赤い」
実はあるか、というラブの問いかけに、ヘビが食い気味に「無い」と答え、歩き出した。
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