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クイナとヘビ
しおりを挟むヘビの事を考えていたら、クイナの診察もあっという間だった。
「ラブさん、ご苦労様。もう、お終いよ」
「全然痛くなかった」
ラブが、針を刺された指先を、ジッと眺めている。
今日は、身体検査と血液検査、問診を行った。
「そう? それは良かったわ」
身を起こしたラブのお腹から、掛けていたタオルを回収し、クイナが畳んだ。
「それじゃあ、ご褒美のお菓子を用意しないとね」
席を立つクイナの腕をラブが掴んだ。
「いらないの」
「あら、遠慮しなくて良いのよ」
「ヘビに、もう貰ったの」
ベッドサイドに置いておいた巾着を手に取り、誇らしげに掲げた。
嬉しそうに笑うラブに、クイナが優しく微笑んだ。
クイナにとって、ヘビは弟のような存在だ。
「ヘビは、ラブさんのお陰で、本当に良い表情をするようになったわ」
「ん? ヘビ、いつも怒ってるよ」
「怒ってないわ」
クイナは、首を振った。
「そもそも、ヘビが怒っているのは見たことが無いわ。いつも冷静で、心が一段、上にあがっているみたいだったの。このコロニーの指導者として、沢山反発もあったし、問題も沢山あったけれど、いつも同じ顔してた。見ている方が、苦しくなるくらいね」
「……ラブに、ヘビを助けられることある?」
ラブは、クイナに詰め寄った。
ヘビの助けになりたい。その気持ちで、力が湧いてくる気がした。
「私にも分からないの、でも……ラブさんと話しているヘビは、ちゃんと二十代の男の子で、年相応に見えて、ちょっと安心するわ」
クイナの言葉に、ラブが首を傾げた。
「それは、良いこと?」
クイナは、大袈裟に肩を上げて微笑んだ。
「そういえば、さっき、ヘビからメッセージが来て、唐辛子せんべいは有るかって聞かれたんだけど、今きらしてるのよね。てっきり、黒糖クルミかと思ってて、こっちを持ってきたちゃったわ」
クイナは、デスクの引き出しから、半透明の小さなケースを取り出した。
「クイナ! やっぱり、それ貰っても良い?」
ラブの両手が、クイナに向かって伸ばされた。
「ええ、そのつもりで持ってきたわ」
どうぞ、ラブの手にケースが渡った。ラブは、急いでサンダルを履いた。
「ねぇ、クイナ。ヘビはお仕事? どこに居る?」
「今、制御室だから会えないわね。音声メッセージ送る? 後で会いに来てって」
「うん」
クイナが、ラブの赤い腕輪をカタカタと押した。そして、話して、と口を動かした。
「ヘビ! 赤い実いっぱいありがとう。御礼がしたいから、ラブの部屋に来てね」
再生時に音が割れてしまいそう――クイナは苦笑し、ラブの腕輪から手を離した。
「これで良い?」
「ええ」
「ありがとう、クイナ」
ラブは、黒糖クルミのケースを大事そうに掌で包み、頭を下げた。
「どういたしまして」
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