あの時、君の側にいられたら 【恋愛小説】

いんげん

文字の大きさ
上 下
56 / 56

おまけ、もしも寧々が匠に心変わりしていたら

しおりを挟む

 もしも、日本で開かれたパーティで、寧々が匠に攫われ、心変わりしてしまったら、の世界線で書いてます。
 詠臣不憫、閲覧注意です。


「ごめんなさい……詠臣さん。私と、別れてください」
 そう切り出す寧々に、詠臣は戸惑いながらも、薄々予想していた。寧々が、あの日、キエト少佐と姿を消して、彼が……あの、葉鳥匠だと知った時から、詠臣は言い知れぬ恐怖に襲われていた。共に過ごす寧々の様子が、段々とおかしくなり。今日、いよいよ、その時を迎えてしまった。
「……嫌です」
 一度決めると、意外と頑固な一面を持つ寧々だ。無理だと分かっていたが、詠臣は、寧々の決断を受け入れる事が出来なかった。
「私……」
「寧々が……葉鳥匠に好意を抱いている事は知っています……しかし、私の事も嫌っていない、そうですよね」
 泣きそうな顔で詠臣を見上げる寧々を、詠臣が抱き寄せた。寧々のほんの少しの抵抗など、鍛えられた軍人にとって無いも等しく、寧々は詠臣の胸に埋まった。
「詠臣さん……でも、わたし……」
「私の事も好きだと、そう言って下さい。そして……冷静に考えて下さい。貴方のその体で、SDIへ彼を追いかけて行くのですか? 危険すぎます。寧々にとって二番手でも良いです。結婚して下さい。私は、貴方を愛しています。貴方の良き夫となるために、最善を尽くします」
 寧々は、大きな体の詠臣が、まるで自分にしがみ付いているような錯覚に陥った。はじめて聞く詠臣の頼りない声色に、心が震える。そして、同時に匠のことを思い出した。


 あの日、匠は追いかけてきた寧々の手を取り、そのままタクシーに乗り込むと、宿泊先のホテルまで連れていった。
 自信に満ちあふれた顔で、鷹揚な態度でソファに座り
「お前、何でついてきたんだよ。俺が誰だか分かってるのか?」
 匠は、ニヤリと笑った。

 此処までの道のりで、予感は確信に変わっていた寧々がコクリと頷くと、腕を引かれ隣に座らされた。
「久しぶりだな。元気そうで良かった」
「匠さんは……相変わらず、平穏そうじゃなくて……驚きました」
「あ? そうでもない。今は、平和そのものだ」
「普通、命を狙われている時を、平和なんて言いません」
 脅しのために車に細工をされたばかりなのに、全然動じていない匠に、寧々は逆に心配になった。
「匠さん……一体、どんな生活をしているんですか?」
 寧々は、すっかり様変わりした匠に身を乗り出して聞いた。
「毎日、お前の事を思い出す、寂しい生活をしている」
「えっ⁉」
 ソファの背もたれに肘を付き、匠は寧々の目を見つめて言った。口角は少し上がっていて、冗談を言っているようなのに、目は何処までも鋭く、真剣だ。
「なぁ、このまま……俺と行くか」
「じょ、冗談ですよね? だって、匠さん、私の事なんて、これっぽちも興味なかったじゃないですか!」
 寧々は、予想だにしない展開に焦り、綺麗に整えた髪を掻きむしった。
「ほんと、お前は、俺の気持ちなんて、これっぽちも理解してなかったな」
「え? え?」
「あれで、気がつかない方がどうかしている」
「だ、だって、琳士だって、私は匠さんの好みじゃ無いって、可能性無いって。あっ……」
 思わず過去の気持ちを告白する形になってしまい、寧々は慌てて口を塞いだ。
「あいつも、知ってて、そう言ったんだ。お前の為にな。あの時の俺達に関わっても、お前にとって悪い影響しか無かっただろ」
 匠は過去を思い出し、溜め息をついた。
「まぁ、今思えば……俺も馬鹿だな。もしも、あの時、お前の側にいられたら。そうでなくても、お前に好きだ、待ってろ、そう言っていたら……お前は、あの男を選んでないだろ」
 パーティーで、寧々の隣に立っていた詠臣を見て、匠は湧き上がる怒りが抑えられなかった。自分居るべき場所、一番大切な人を他の男に奪われた。その事実を、まざまざと突きつけられ、嫉妬と怒りを通り越して、殺意すら湧きそうになった。
「あっ……どうしよう。詠臣さんにも、おじいさまにも何も言わずに……」
 こんな所まで来てしまった。そう言いながら、小さなバッグからスマホを取り出した。
「ちょ、匠さん! 返して下さい」
 寧々は、奪われたスマホを追いかけるように手を出したが、鋭い視線に制されて動きを止めた。今の匠には、指示に逆らえない、支配力を感じた。
「好きだ」
「……」
「ずっと、好きだった。離れている間も」
「た、匠さん」
 困ってしまうはずの心が、喜んでいた。詠臣への罪悪感も渦巻く。
「側に居てくれ、お前だけが……いつも俺の幸せだ」
 寧々の肩に、匠の手が触れ、寧々は弾かれるように振り払った。そして、理由の分からない涙を流しながら部屋を飛び出した。

 あの日から、寧々の頭も、心も匠が浸食していった。次の日にスマホを届けに来た匠は「待ってろ、すぐにまた来る」そう言い残し去って行った。

 そして、本当に再び寧々の元を訪れた。
「帰って下さい」
「もう来ないで」
 拒絶する言葉は、すぐに変わった。

「どうしたら良いか、もう分からない! 詠臣さんが好きなのに!」
 泣きながら自己嫌悪する寧々を、匠が抱き寄せた。
「もう、諦めろよ。アイツは俺の代わりだった」
 足を踏み入れてはいけない、そんな禁忌の境界線があるとするならば、寧々には、そこを越える勇気なんて無い。だが、いつの間にか、進んでいないのに、もう匠の内側に引き入れられていた。

「貴方と、安全な地で、明るい家庭を築き、幸せにします」
 光り輝くような、優しい男が目の前で、真摯に愛を囁いているのに
「海竜に囲まれた島なのに、お前が暴れる方がよっぽど心配になりそうだ。俺の幸せの為に長生きしろよ」
 暗い目をした、悪い男の言葉に心を攫われていた。

 そして、寧々は、SDIで匠との生活を始めた。




 おしまい




はい、すいません。つい出来心です。
この数年後に、SDIへ志願して詠臣が来たら面白いな。
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

うしいとマム

こんにちは

私は完結になってから読むのですが…

とっても素敵な話で
ヒロイン頑固で周りの男の人達
かっこよくて
もう誰とでもこの子幸せじゃない!
って思えてキラキラしてました

素敵なお話ありがとうございます

2023.10.24 いんげん

うしいとマム様、感想ありがとうございます(T♡T)

凄く楽しく書きましたが、ジュラシックTLは、流石に尖りすぎてたり、なんだり……とにかく、世間に同志は少なかったわ、と涙しておりましたので、大変嬉しいです!

ありがとうございます!!
救われます♡♡

解除
ホープ
2023.03.05 ホープ

ちなみに「心のティン子」あたりから美玲には何かを感じていました(✧∀✧)←後出し

2023.03.05 いんげん

ありがとうございます♡♡
最初、心の〇〇コとはっきり書いてから、BLなら行ける気がするけど、TLだし……と、ちょっとマイルドに表現してみましたwww

解除
ホープ
2023.03.05 ホープ

13話
美玲にオチました(✧∀✧)


えっタクミさんは??もはや過去の思い出なの??ツラ…(இɷஇ )
とか思ってグズグズしてましたけどホントだーシリアス抜けてきたー
意味なく毎日ガソリン満タンとかお弁当3回作ったとか、ケッ(笑)リア充が、タクミさんを越すんでしょうねぇあぁん?とか思ってたけど美玲に持ってかれたからもう私は安心です(?)

ネネ、美玲エンドでいいなーです笑

2023.03.05 いんげん

ホーーーーープさーーーーん!(^♡^)ノ
わーい!ホープさんだああ!

ありがとうございます♡
美玲ちゃん私も、お気に入りで
「あっ……百合もいいな♡」と本気で考えましたwww
オラオラな美女✕清楚な美少女萌がはかどりました♡♡
詠臣の最大のライバルかもしれませんwww

解除

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。