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第三十四話 SDIへ
しおりを挟む仁彌の事件から一週間。寧々は退院できた。
それから二日ほど静養して、SDIの東島に向かう事になった。
出発を急いだのは詠臣だった。
彼は、寧々の体調も心配だったけれど、自分が任務中に寧々が再び襲われたりしないか心配で堪らなかった。仁彌の逃亡には、組織的な協力者がいるらしく、未だに手がかりは見つかっていない。それならばと、予定より二週間ほど早かったが、外から部外者が入ることの出来ない、軍事島へと向かうことにした。
SDIには、民間の旅客機は着陸できない。その為に、フィリピンまで民間機で向かい、そこから軍用機に乗り換える必要があった。
「……」
「寧々、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
民間機を降りて、空港のラウンジで軍用機の用意が終わるのを待っているのだが、寧々は周囲の視線が気になって仕方なかった。
それというのも、事件から一週間。寧々の痣や怪我はまだ治っていない。体調は良くなったけれど、痣や擦過傷が消えるにはもう少し時間がかかる。
頭に腕、肩や膝には包帯。首、顔には青あざがあり。隣には空軍の軍服に身を包んだ詠臣。そして、看護士役の女性隊員が一人付き添っている。とにかく目立っていた。
(鈍ってたのもあるし、人の視線で……疲れちゃった……でも、あと少し、頑張ろう!)
暫くすると、SDIの職員が三人を迎えに来た。
「え、詠臣さんが操縦するんですか?」
「はい」
空軍の中型輸送機に案内され、まるで中をくりぬかれたようなガランとした機体の中にエスコートされると、詠臣の上着を着させられ、一角に出来た座席に座らされた。
「詠臣さん、格好いい……」
寧々は、つい、本音が口から出てしまった。口にしてしまってから、余計な事を言ってしまったのではないかと心配になる。
「疲れてますよね……なるべく丁寧に早く飛びます」
詠臣は、寧々から目を逸らして、手早く彼女のシートベルトを締めた。
「ちょっとワクワクしてきました」
「……心静かに乗っていてください。何か有れば、彼女に」
詠臣が、隣に座った女性隊員に視線を向けると、整備の人と話をする為に消えていった。
(詠臣さんが仕事する姿、初めてみたけど……やっぱり素敵……岡前さんが、詠臣さんは軍で大人気って言ってたの分かる……詠臣さんが、公開訓練に来ないで下さいって言ってたのもわかる……絶対、キャーキャー言われてたんだ……納得の格好良さ。元から素敵なのに、真剣に任務に当たる姿とか見たら……心臓が持たない。本当に何で結婚してくれたのか、不思議です……)
飛行機は、問題なくSDIの飛行場に着陸した。
「お疲れ様でした」
戻ってきた詠臣にベルトを外されて、腕を取られた。
「いえ、詠臣さんこそ、お疲れ様でした」
「大丈夫ですか?」
事件以降、すっかり過保護と心配症が悪化した詠臣は、寧々を壊れやすいガラス細工のように扱う。
「詠臣さんが操縦していると思うと、なんだか誇らしいくて楽しくて、あっという間でした」
少し照れたように、寧々が言った。
「そう、ですか……」
「本当に、詠臣さんは凄いですね」
寧々が、詠臣の顔を覗き込むと、詠臣は顔を逸らして空を見上げた。
「……行きましょう」
「はい」
女性隊員と別れ、二人は飛行機から降りて、SDIの地に降り立った。
(ここが……SDI……海竜との戦闘の最前線で、匠さんと琳士が戦ってきた場所。これから詠臣が働く所……)
一生、足を踏み入れることはないと思っていた場所に、今、自分が立っている事が不思議だった。ずっと訪れてみたいと思っていた所。少し憎んでいた場所。
寧々は、自分でも分からない不思議な気持ちだった。嬉しいような、現実味がないような……。
その日は、疲れ切ってしまい、早く休んだ。用意された部屋は、居住地の中でも、海から遠く広い部屋だった。普通のマンションとは違い、かなり厚い頑丈なコンクリート造りで、海側には明かり取りの開かない小さな窓しか作られていない。ベランダも存在しない代わりに、大きな乾燥機と室内に洗濯物が干せる場所もあった。
快適に暮らすことよりも、安全性が第一で、島内の放送が入るスピーカーが付いている。壁には、避難経路や避難場所の描かれたプレートがはめ込まれていて、数カ国語が記載されている。
寝室に置かれたベッドが、シングルが二つで少し落ち込んだ。
ベッドをくっつけましょう、と提案しようかと思ったけれど、断られたら気まずいので、怪我が治ったら、少しずつ近づけて行こうかと思っている。
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