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第二十二話 春と冬

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「あれ? ついに愛する人と合体して、頭の中が常春状態かと思ったら、そうでもないの?」
 パーティーから三日、大学のカフェスペースで浮かない顔をしている寧々を見つけ、美怜が後ろから抱きついた。
「美怜ちゃん……」
 美怜は、振り返った寧々から体を離して、向かいの席に座った。
「まぁ、とりあえず聞いてあげるから言ってみなさいよ」
 鞄から取り出したキャラメルを口に放り込み、手を広げた美怜に、寧々が肩を落として話し始めた。

「この世の春と、冬が一緒に来た感じなの……」
「あー?」
「この前のパーティーで……多分、匠さんに会ったの」
「ほぅ! 面白くなってきたじゃない!」
 美怜はテーブルをバンバン叩いて、身を乗り出した。
「面白くはないんだけど……匠さん、もう別人かと思うくらい変わってて……それは良いんだけど、名前も国籍も変わっているし、命まで狙われてて、心配で、心配で……前より気になっちゃって……だからといって何も出来ないし」
「ん? タクミ氏、まじで波瀾万丈すぎん? 人生が映画なの? というか、どの人?私しゃべったかな?」
「凄い強面な感じの、頬に傷があるキエト少佐って人」
「ん!? ちょっと待て寧々。あの……闇落ちした感じの男でしょ? 覚えてる、覚えてる! 隣の子が可愛かったから凄い見た……って、違うんじゃない? 何度か写真で見たけど、アンタのタクミさん、もっと苦悩の芸術家みたいな繊細な感じだったでしょう。悲劇とか似合いそうな……この前の少佐は、悲劇すら寄ってこない感じだったでしょ」
「そうなんだけど……絶対そうなの」
 時間が経つほど、寧々の中で確信した。思い出せば、思い出すほど、キエト少佐が匠に見えた。

「まー、でも、結論は出てるじゃない。もう友人でもないじゃない。あっちから話しかけられなかったんでしょ? 寧々、パーティーで目立ってたから、気づかないはずないのに、よぉ久しぶり、みたいなの無かったんでしょ?」
「目立ってた?」
 寧々の疑問に、もちろん、と美怜が頷いた。
「忘れなさい。思い悩んでも良いこと無いから。良くも悪くも寧々は、タクミ氏にとって終わった女なのよ」
 美怜が寧々を指さして言った。

「あの、そもそも何も始まってないけど……もし、たとえ美怜ちゃんが私を友達だと思わなくなっても、美怜ちゃんに何かあるなら心配だよ! それと一緒なの」
「……寧々……愛してる。寧々はたまに面倒な感じが面白いし、素直で良い子で好き」
 美怜が、うぇーいと言いながら寧々に向かって拳を近づけた。
 困惑した寧々は、美怜の拳を両手で優しく包み込んだ。
「まぁ、タクミ氏もバイオレンスだけど充実した生活していると思おう。タイの超絶美人と刺激的な毎日送ってるわ」
「……そうだね」

「それより、どうなの……あの歯ごたえのある武士は」
「歯ごたえ……わ、私の事はもう置いておいて、美怜ちゃんはパーティーどうだったの?」
「んー、中々楽しかったわ。次期彼氏候補として三人に目をつけて、つんつんしてるし、良い経験だったわ」
 美怜は、腕を組むと、鷹揚に頷いた。
「そっか、流石だね」

「で、あの武士。早速結婚するとか言ってないの? 誠実な執着ストーカー」
「美怜ちゃん!」
 寧々が美怜の手をパシパシ叩いている。
「ごめん、ごめん。囲い込む系、紳士」
 美怜は、あらやだ間違っちゃった、と何処かの中年女性のように口に手を当てた。
「美怜ちゃんってば……」
 寧々がぐったりと肩を落とした。
「あの手の男は、一途で大事にしてくれるから良いと思うよ。うん、まさに寧々にピッタリ。ベストカップル賞ね」
 寧々は美怜の直感的な物言いに、感心しながら苦笑している。
「ありがとう」
「卒業まで待てるかね?」
「何が?」
「別に~」
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