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チーロ、ナンパに行く
しおりを挟む「ぐらぐら…」
僕の頭の中で、巨大な渓谷の間にかかる大きな吊り橋が、強風に揺られている。
「ぐらぐら…」
そこを渡る、僕…うわぁ…超怖い! いつ吹き飛ばされても不思議ではない。
すごい馬鹿みたいに震えながら吊り橋のロープにしがみついて、もう前にも進めず、後ろにも戻る事が出来ない場所で、鼻水ながしながら、ひぃいいと言っている。
そんな、僕の元に颯爽とやって来て、優しく抱きしめて、前に進もうとしてくれるオルニス。
包み込んでくれる逞しい体に、少し切れ長な秀麗なお顔。そして何より、僕を見つめる…熱い眼差し。
トゥクン
高鳴る僕の胸。
えっ…コレは何ですか?
もしかして…恋?
心臓がドキドキして、ちょっと苦しい。
これは…恋……
「じゃない!そうじゃない!これは…」
『萌え萌え、ダーリンと私のラブ、ぐらぐらブリッジ』でやっていたアレだ。
恋の吊り橋効果音…ドドン…ドドン…あっ、これ高架下の効果音だ。
とにかく、これは恋じゃなくて…なんかそういう、心理的な異常! だってオルニスって僕のお兄さんだし!
気の迷い! 駄目だ、僕。吊り橋のアッチ側に渡っちゃ駄目。
何とか、元来た道に引き返さないと!
そう…その為には、何が必要か…それは…
「チーロは、おんなこのを探しに行くみたいですからね」
僕はお出かけの支度を一人ですませ、若干緊張して言葉がいつもよりおかしくなりながら言った。だって恥ずかしいじゃないか、兄に「僕、今から恋を探しに行ってきます」って。
まぁ、今まで恋なんてクラスのマドンナの斉藤さん可愛いなとか、そのレベルですし。外を歩いただけで恋が始まるなんて甘いことは考えてません。
いいんです、ほんのりと片思い出来る、あぁ…素敵だなあと思える相手に出会えれば、僕の目が覚めるはず!
かわいいは、全てを解決してくれるはず!
でも、この世界…美醜逆転しているから…僕は相手を可愛いと思っても、相手は現在の僕の容姿は「うわ…キモい」と思われてしまうけど…。
「おんなこの…」
甘い微笑みで僕を見守っていたオルニスが、キョトンとした顔で呟いた。
「女の子でしょうか…」
アガメルが僕の言いたいことを通訳してくれた。
「そう、そうです。チーロは、女の子を見て来ます。行ってきます!」
声に出して言うと、何だかチャラ男か、変態のどちらかだな…。
色々聞かれる前に、脱出しようと早々に部屋を出る。
「待て!チーロ。何だか分からないが、危険だ。俺も行く」
閉めようとした扉は、オルニスの逞しい腕で押し返された。
「間に合ってます!」
誰がナンパ的な活動に保護者同伴で行くっていうの。
僕は、オルニスの返事を待たずに、走り出した。
邪魔になる長い髪はアップにして、羽根と一緒にフード付きケープで隠してある。
パッと見は、女性か少年だろう。
走りだして、宿の外まで出て、何だかふと背後に気配を感じて振り返った。
周囲の人々が何だかザワザワとしている気がするけど…気のせいかな?
僕は。フードを目深に被りなおして、足を進めた。
「……」
オルニスとアガメルと出かけると、明らかに衆人の注目を集めるけど、今、僕に注目する人は居ない。
あぁ、そうそう…これが普通の感覚だよね。彼らは目立ち過ぎる。
それにしても、何処へ行こうか。
女の子の多い場所って何処? 日本だったら、都心のファッション系のお店は女の子だらけだけど、この世界も洋服屋さんとかは、そんな感じ? それとも、安いオシャレ系カフェとか?
まさか…まさか……いや、行かないけど……花街みたいな店があったり?
僕の手のひらに汗が滲む。
そんな事を考えながら街を歩いていると、噴水の前のベンチで、推定十代後半の女の子が二人、何かの紙を見ながら、キャッキャとおしゃべりをしている。
特別美少女ではないけど、生き生きとした笑顔が可愛くて、元気な二人組だ。
何をそんなに盛り上がっているのか、僕は興味をそそられて、彼女たちの近くへ足を進めた。
「ホント美しさの権化!」
「もやは人間じゃないからね!もう…眼福…」
「…この絵姿に家の手伝いで貰ったお金全て使ったけど…良い買い物だったよね…」
これは…もしや、この世界のアイドルに盛り上がる少女達の姿では?
「あぁ…格好いい……」
「本当に素敵」
この世界の美形!
とても興味ある。
凄いゴツい、顔まで筋肉みたいなタイプかな?それとも、こう…ふくよかな、富がある感じかな?
僕は、そっと彼女たちの座るベンチの斜め後ろに回った。ちらっと。ちらっとだけ見せてい
ただければ幸いです…。決して…変態ではないので…許して欲しい。
「……えぇ!」
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