転生して羽根が生えた僕の異世界生活

いんげん

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街の外へおでかけ

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前世では、たいして大きな夢なんて持っていなかった。生まれも育ちも平々凡々だからね。
そこそこ、平和に無難に暮らしていければ良いと思っていた。
二度目の人生になって、残念ながら超絶不細工なんだけど…今は、大きな夢がある。

そう、人類の夢。
飛行だよ。非行じゃないよ。

せっかく羽根が生えたんだから、このビルのない世界で、文字通りの『大きな空』を自分の羽根で飛んでみたいじゃないか。

地に足をつけて歩いていた前世とは、違う事が出来る。

鳥みたいに自由に空を飛べるんだよ。
きっと凄く気持ち良いに決まっている。

「チーロは、羽根が動くなりました。そろそろ巣立ちます」

朝ご飯を部屋で食べて、アガメルがオルニスに紅茶のような香り高いお茶を給仕していた。
オルニスが口に運んだ華奢なカップを、テーブルに戻した。二人の雰囲気が凍り付いている。

「巣立つ? 何処にだ」
あれ? オルニスの声が若干低いぞ。今日のご機嫌は斜めなのかな?

「巣立つ違うした? 飛び立ちます」

オルニスが隣で立ち上がった僕の腰を抱き寄せて、秀麗な顔面を顰めている。うぅ…相変わらず、元の日本で言うところの顔面偏差値マックス! 切れ長な目が…格好いい。

「すまない、チーロはまだ生まれたての小鳥…こんな狭い空間にいたら、お前の好奇心を満足させられないな……よし、国を変えよう」
「ちがーう。そうじゃないよ。チーロ…飛びたいの」
自分の右手を自分に見立てて、オルニスの目の前を、ビューーンと動かす。

「……あ、ああ…なんだ…まぁ、そうだな…」
先ほどまで僕を真剣に見つめていた目が、アガメルの方に逸らされた。
「チーロさま…」

「此処の街の外に、広い丘がある聞いた。チーロそこで飛ぶ!」
何度か二人の目を盗んで、階段で飛行練習をしようと思ったけれど、中々チャンスは訪れず、今だ!と思っても、見つかってしまう。
もうコレは、保護者同伴で広い丘で練習がいいと思うんだ。

「ピクピック行く」
「…ピクピック…あっ、ピクニックでしょうか」
アガメルがお茶のポットを置いて聞いた。

「そう!ピンクニックに行こう」
僕は、オルニスの大きな手を握りしめて、真剣に彼を見つめた。行きたい、行きたい、連れてって…と念を込めてオルニスの目を見つめる。つい自然と顔が近づいてしまう。

「……」
「……ね…オルニス、ピンクピック行こう」
握りしめたオルニスの手は、僕のふにゃふにゃな手と違って、節がゴツゴツしていて硬い。男の手って感じでいいな。オルニスは、僕の顔と手を交互に見つめて、空いている方の手で、目頭を押さえてため息をついた。

「……はぁ……少しだけだぞ」
「うん!ありがとう、オルニス!」
僕はオルニスの首に縋り付いて、小さな羽根をパタパタと動かす。アガメルが、カップとポットを守る為にテーブルごと後ろに引いた。

「良かったですね、チーロ様。早速、お弁当を作って参ります」
「うわぁ…やった!」
なんていう、楽しいお出かけ。最高だ。
ワクワクする。





「すっ…ごおぉぉい!」

街の裏手には、短い緑の草やクローバーみたいな草が沢山生えた広い広い丘が広がっていた。
所どころ木が生えているけれど、地平線の先に見える森までは、圧巻の景色だ。

凄くテンションが上がる。走っても走っても広い野原。

思わずフードを脱ぎ捨ててて、走り回った。

「ひろーーーい」

自然と笑い声が止まらない。
多分、端から見ると、ドックランに放たれた犬。馬鹿犬だ。

「あっ!」
道は傾斜がついているのでつい、足が止まらなくなってコケた。
思わず小さな翼がブワッと広がった。

しかし勢いは、膝で止まらず、地面に熱烈なキスをした。

口にちょっと土ついた。

「チーロ!」
驚いたオルニスが僕を後ろから抱き上げて、回り込んできたアガメルが僕の顔をハンカチで拭いてくれた。ついでに服についた葉っぱをポンポン払ってくれた。

「今!羽根に風、感じました!ブワッなりました!」

後ろを振り返り、オルニスに今の感動を伝える。
コケる瞬間に広がった羽根は、普段目に見えない風を形として感じることができた。自分の背中でパラシュートか傘が開いたみたい。

「そうか…良かったな……だが、危ないから…「もう一回やってみる!」

僕は、オルニスの腕から抜け出して、丘の高い方に向かって走り出した。

はぁはぁと息が苦しいし、心臓がドキドキする。
でも足が止まらない。

すっごく楽しい!!

「チーロ発進!」

意味は無いかもしれないけれど、つい腕を大きく広げて走り出した。

「とああああ!」

翼は普通に広げると、空気の抵抗を受けて、走る速さが遅くなる。

角度をつけて広げると、風が上手く流れて、体が軽くなる気がする。

どっ、どっ、どっ

斜面を踏みしめ、蹴りつける足のリズムが上がる。

どどどどっ

「飛べぇ!!」

羽根で風を捕まえて、空へと歩き出した!

目指した太陽が眩しい。

僕の体が浮いて、ニ歩…空中を

歩いた!

僕、空を歩けた!

「チーロ!」
「ふぎゃあ!」

でも、落ちた。
一瞬、ふわっと浮き上がった体は、自らの体重と、重力によって地面へと吸い寄せられ。

慌てて駆け寄ってきたオルニスに正面から抱留められた。

オルニスの硬い体に体当たりした感じになり、痛い。

「チーロ、大丈夫かっ」

「オルニス見ました?!チーロ、お空歩くした!浮かびました!」

興奮のあまり、目も鼻も広がっていると思う。
とにかく凄かった!

ジェットコースターなんか目じゃない一瞬の浮遊感。

僕、ちょびっと、1メートルくらい飛んだよ!

「あははは!おもしろーーい!」

思わずオルニスの首に抱きつく。

「お空飛べる、おもしろーーい!」

なぜだか、鳥のように口でツンツンしたくなって、何度も何度もオルニスのおでこにチュッチュした。

「おっ…おい…チ……チーロ…落ち着け……チーロ!」

「もう一回やる!」

さっさと離せとばかりに、オルニスの腕の中で暴れた。
しかし、拘束が簡単には外れなかった

「待て、チーロ。分かった。分かったから……俺がチーロを飛ばす」

「ん?」

「俺がチーロを抱えて飛ぶ。だから、ここで大人しく待て」

オルニスが足元を指差すと、上着を脱いで、腰に下げていた短剣をアガメルに渡した。

そしてアガメルの髪を結んでいた、赤い紐をシュルっと奪い取ると、長い前髪ごと後ろで括った。

オルニスは少し丘を歩いて登り、僕の方に向き直った。

「チーロ、丘の下の方を向いて立っていろ」

何?何?なにが起こるの?
抱えて飛ぶ?
えっ…オルニスのメンタル的な飛べない奴は治ったの?

僕の飛行を見て、自分もまた飛びたくなったの?

おぉ…田中からぼた餅来た!

クラーラが立った!




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